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いくつもの生、愛、痛、死を乗り越え、 私たちは「人生の冬」を迎える「冬の日誌(ポール・オースター著)」

TEXT by MOMOKA YAMAGUCHI

ポール・オースター(著)/ 柴田元幸(訳)
「冬の日誌」あらすじ

繊細な言葉たちによって綴られる「呼吸の現象学」

アメリカ文学を代表する作家の6歳から64歳までの人生を「現在のポール」の視点から振り返る本。本人が「呼吸の現象学」というとおり五感から得られたデータと当時の感情を彼の繊細な言葉たちがリンクさせることで、私たちは彼の人生を「読む」のではなく「思い出し」ながら人生の追体験ができる。

文章と表紙、全体をとおして感じる死の影、生の道

この本で好きなところは、常に死の影があることだ。本の表紙はワシントンスクエアのモノトーン写真なのだが、降り積もった雪の白さに杭の様に刺さる枯木の黒が彼の人生に起こった様々な出来事を思い起こさせる。そして、写真の核を右に寄せる構図が「終わりが近いこと(=人生の冬)」を悟らせるのだ。

しかし、彼は迫る死の影に悲観しているわけではない。64歳を迎えた今彼は人生を振り返ることで襟を正し、言葉を紡ぐ者として最後まで語るべきことを語り続けられるようにと人生の冬に向けて一歩を踏み出したのだ。

ーー*ーー

「冬の日誌」は大きな出来事もさりげない日常も分け隔てなく細かく綴られている(くしゃみ、おなら、恋愛、夏の蒸し暑さ、冬の冷たさ、事故、病気、親の死etc)。だからこそ共感し、かつ彼に起こった出来事は自分たちにもこれから起こりうることなのだと痛感させられるのだと思った。

いくつもの生、愛、痛、死を乗り越え、 私たちは『人生の冬』へと歩く。

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