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「ソーシャルワーカー」という職業選択

私はソーシャルワーカーという職業が大好きです。

私は福祉系大学卒業後、社会福祉士を取得し、医療機関で「医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker):以下MSW」という職業で16年間勤務してきました。MSWは医療分野のソーシャルワーク/社会福祉専門職のことを指します。16年間のMSW人生を振り返ると、大変だったこと(心身の体調を崩したことなども含めて)、辞めようと考えたこと、それでも続けられたことなど総合的に考えて「良い職業選択だった」と言えます。現在は、社会福祉専門職養成に携わる教員をしていますが、学生からは、「先生はどうしてMSWになろうと思ったんですか?」という質問を毎週、いや毎日毎日…数えきれない(笑)位受けます。

この記事は、ソーシャルワーカーという職業選択について私自身の経験をもとに少し考えたいと思います。※個人的意見が多く含まれていますのでご参考程度に。

1 ソーシャルワーカー(Social worker)とは?

社会福祉専門職の国家資格としては、社会福祉士、精神保健福祉士などがありますが、社会福祉士=ソーシャルワーカーではないのが実情です。ソーシャルワーカーという職業名称は、ソーシャルワーク業務(福祉に関する仕事)を行っていれば社会福祉士の資格を持っていなくとも「私はソーシャルワーカーです」と名乗ることができます。しかし、社会福祉士国家資格を取得していなければ「私は社会福祉士です」とは名乗れないのです。これを名称独占資格と言います。よって、社会福祉士の国家資格を取得するということは、社会福祉専門職の国家資格を取得するということであるため、ソーシャルワーク専門職としての専門教育及び国家試験に合格した証明となり、専門職を採用することが多くなってきている近年では非常に重要なことになります。しかし、上述の様に、社会福祉士国家資格を持っていなくても福祉の仕事を行っていれば「ソーシャルワーカー」と名乗ることは可能です。

ソーシャルワーカーが行う仕事を一般的には「ソーシャルワーク」と呼びます。ソーシャルワークとは何か?ということについても少し触れておきたいと思います。2014年のIFSWメルボルン大会での「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」を引用すると以下の様になります。

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義
ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。
この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。
(IFSW;2014.7.)

ソーシャルワークは、「社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重の諸原理」を軸として実践を行う専門職であるとされており、社会の中で生きにくさ、生活のしずらさなどを抱えている人たちへの直接的な援助(社会資源/制度政策などを利用することやサービスとの連携など)だけでなく、間接的な援助(現行の制度等のみでは支援が難しい場合などに、新たな福祉サービスの創出や資源開発など)を通して、一人一人の生活機能の維持・向上に努める仕事をしていくことが重要な役割であるといえます。

2 ソーシャルワーク活動の焦点

上述のように、ソーシャルワーク実践の軸は「社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重の諸原理」と定義に記載されています。よって、ソーシャルワーカーの活動範囲はとても広範囲です。医療、介護、教育、行政、制度政策、など福祉と関連する領域は全てが対象範囲となります。しかしながら、ソーシャルワーク専門職が介入する焦点は定まっており、一言で言えば「人と環境の接合点」であると言えます。同じ環境の中で生活していても困り感を抱える人もいれば抱えない人もいる。この困り感の違いは、人と環境との相互作用の結果であるとソーシャルワークでは考えます。例えば、学校に行くことが難しい状況の子どもがいた場合、学校に行くことを難しくしている子ども自身の心身の側面にアプローチすることもあれば、学校に行きにくくしている環境的側面(学校、家庭、友人関係、物質的配置など)にアプローチすることもあり、人と環境の双方の関係性の中での課題解決を、両側面から行うことが重要な視点となります。

3 ソーシャルワーカーの可能性

ソーシャルワーカーの可能性は私個人としては無限にあると思っています。皮肉にもソーシャルワークの発展には戦争等の社会的混乱が関連していますが、「人間としての尊厳」、「人権」を守るという職業倫理を遵守した実践は、世の中の状況に順応した形で姿(支援の方法論)を変えつつも現代まできちんと受け継がれて行われています。しかしながら、まだまだ福祉(すべての人の幸せな社会の創造)の実現のためには、未開拓の領域が沢山あることも事実であると思います。

現在でも様々な領域でソーシャルワーク専門職の方々が活躍しています。私自身が就いていたMSW(医療分野のソーシャルワーカー)だけでなく、学校教育現場のスクールソーシャルワーカー、その他にも、社会福祉協議会、児童相談所、就労支援事業所、市区町村管轄機関(役所)など様々です。もっと細かく言えば、私自身もMSWとして勤務する中で未開の領域(生活習慣病とソーシャルワーク)での活動を行ってきました。

ソーシャルワーク専門職は課題/困り感を抱えた人の声をきちんと聴き(ソーシャルワーカーが積極的に聴き取ることも大切/アウトリーチ)、困り感を抱えた人の生活を脅かす環境的要因の課題解決を図ることも大切な仕事です。また、困り感を抱えた人というのは、その一人のみではないことが多く、同じ/似たような困り感を抱える人は、同じ環境下でそれ以上増えないような社会を創造していくこともソーシャルワーク実践にとって重要な視点なのです。

4 ソーシャルワーカーという職業選択について

よくある質問が、「ソーシャルワーカーという職業はとてもやりがいがある仕事だと思うのですが、給与などが低いというのは本当ですか?どのくらいの収入がありますか?」という質問です。当然にして収入を気にすることは当然であると私自身も思いますし、大切な質問の一つだと思います。私個人の意見で言えば、「収入が多いか少ないかの基準で職業選択をしなかった」ので何とも言えないというのが正直なところなのですが、私個人の職業選択理由について以下に述べたいと思います。

私は「ソーシャルワーカーとしての職業選択は正解だった」という理由としては、「自分自身の喜びや成長につながっていると実感できているから」という回答になります。結局のところ、仕事してみないとわからないじゃん!と、つっこみが入りそうですが(笑)、現時点で私個人としては上記の感想を持っています。

ソーシャルワーカーになることを目指していた学生のころには、漠然と「人の役に立つ仕事ができる人間になりたい」ということが理由でした。しかしながら、実際にソーシャルワーク専門職として働いてみると、「人の役に立つ=自分の役に立つ」という感覚になっていることに気づき、ただ単に収入を得るためというより、自分自身の喜びや成長の為にこの職業についているという感覚になっています。

収入に関しては、MSWの時には生活に困ることがない程度はいただくことができていましたし、いただけていた収入の中での生活のやりくりをすることも一つの楽しみでした。収入を得ることの大切さも実感したのがMSWとして勤務し始めた時に感じたことです。しかしながら、繰り返しになりますが、収入以上に、ソーシャルワーク実践の中で得た喜びや価値を感じたことの方が大きかったというのが、今まで続けられている理由です。

5 まとめ

将来の職業選択の一つとして悩んだりしている方にとっては一つでも多くの情報を得ることが、決断する際に大切なことになるのだと思います。実際にソーシャルワーク専門職として働いている人からの話はもちろんのこと、過去にソーシャルワーカーとして働いていたことのある人の話など…多くの人の話を参考にしてみてください。そして、最終的に自分自身で職業選択をしてどのような道に進むのか決めていただければと思います。

上記の情報だけでは私自身のソーシャルワークをすべて語ることはできませんが、職業選択について悩んでいる人にとっての一つの情報として役立てば幸いだと思っています。どのような職業選択をしたとしても、その選択は間違いではなかったと自分で胸を張って言えるように、職業と仕事を全うしていくことが大切だと個人的には思います。

ご一読ありがとうございました。



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