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レトロ座 2021年6月

5時から7時までのクレオ(1962年)

映画監督アニエス・ヴァルダは一昨年他界していた。齢90だったそうだ。だいぶ前にポスターだったかなんかで、大量の麦をかついだマッシュルームカットの彼女を見て(このお婆さん元気だなあ)と思ったものだった・・・。Amazonプライムで視聴。

オープニングでヒロインが占い師に人生の岐路を諭される。ヒロインの手、占い師の手、そしてタロットカードの数枚がクローズアップされ。この場がいきなりちょっと鈍色なカラーなので、一瞬おやっと思うがその後はモノクロに切り替わる。歌手クレオは病院の精密検査の結果を待つあいだ自分は癌なのだと思い煩っている。

結果は7時に医師に電話で尋ねることになっているが、彼女の心は重く黒い絶望にひたされたまま。占いの帰り道、帽子店でのショッピング、カフェでの休息。場面の所々に大小の鏡が登場し、クレオの若さや美や内面の脆さを浮き立たせている。大らかに見えて実は迷信深いマネージャーの中年女アンジュールがつねに寄り添い、クレオの体を心配したり火曜日に新しいものを身に着けるのは良くないなどとたしなめる。一度は帰宅し落ち着くも、無責任な恋人やミュージシャン仲間の来訪でクレオは情緒不安定に陥り一人外へ出てゆく。

友だちと自主制作の短編映画を一緒に見ることで束の間の安らぎを得ることができた。ちなみに劇中画に登場するのは(後で知ったのだけど)若いゴダールとアンナ・カリーナ。でもあまり印象に残らない二人だ。

友だちを送り、ふたたび街をさまようクレオの前に市井の人々が現れては消えゆくが、やがて戦地アルジェリアへ赴く予定の男と出会い自らの現状を彼に打ち明ける事に。すると男の提案は医師に直接会って結果を訊くべきだというのだ。二人は連れ立って病院を訪れる。

その途中のバスのシーンが良い。これに限らず今から60年前のパリ市街の息吹が垣間見えるカメラワークは見事。道路は終始車と人でごった返し交通ルールなんてあったものじゃない。にも関わらず全体的にどこか長閑な空気が漂う不思議の大都会巴里。

ラストの医者も今の時代では考えられないような登場の仕方と台詞なのだが、なぜか許せる。自分が患者だったからなおの事そう思えた。そして嬉しいことにクレオも私と同じ気持ちに至ったらしい。