自信をなくしていたfreeeのプロダクトマネージャーが見つけたPMの役割とは?本場アメリカのSaaSイベントで学んだこと
2022年9月にアメリカ・サンフランシスコにて開催されたB2B(ビジネス向け)SaaS最大のグローバルイベントのSaaStr。現地でfreeeが学んだ成長のヒントを3つの記事にまとめてお届けします。
第1弾「企業は、全然ユーザーの役に立たないものをつくる」に続いて、今回はプロダクトマネジメントとプロダクトデザインがテーマです。
まずは、PMの小泉から、SaaSの本場アメリカで発見したPMの役割を紹介します。
プロダクトマネージャー(PM)の役割とは
PMはミニCEO?思い悩む日々・・・
欧米でPMという職種が引っ張りだこなのは、なぜでしょう?
ITが世界に浸透するにつれ、プロダクトが事業のコアとなった一方で、ユーザーは多様化。「ユーザーが求めるプロダクトづくり」ができる専門職としてプロダクトマネージャー(PM)という職種が注目されるようになりました。
PMは、プロダクトの成功を自分ごととして幅広い役割と責任をもって動くことから、「ミニCEO」とも呼ばれます(実際にはCEOと権限や責任範囲が異なりますが)。
プロダクトカンパニーであるfreeeでも、PMが中心となってプロダクトを運営しています。
私はPM歴1年ちょっとですが、データアグリゲーションというfreeeの大事な基盤を担っています。
freeeはボトムアップ型の組織なので、PMがプロダクトの成功に必要なことすべてに目を配り、プロダクトの進むべき未来を決めていきます。
そんな中で新米PMの私は、
自分には会計知識も開発バックグラウンドもなく、“プロジェクト”の進め方は多少知っていても、“プロダクト”のビジョン策定や開発優先度なんて、どうやって決めていったらいいんだ・・・
と最初は不安しかありませんでした。
freeeでは新任PM向けの研修は充実していましたが、実際の業務で自分がまずやったことといえば、
エンジニアたちが話す内容を自分なりにまとめて、社内の有識者と壁打ち
仮説を立てて、ユーザーリサーチや市場調査を地道に行う
社内外ステークホルダーとの調整(例:足りない部分の補強のために他チームから応援人材を借りる、連携パートナーとの議論)
などなど泥臭いもの。
PM業として勝手に想像していた「スマートにプロダクトビジョンを作って、North Star Metricの指標を立てて、データドリブンでPDCAを回して・・」というキラキラしたイメージとは異なるものでした。
自分はチームの後方支援をしているだけでPMとしては貢献できていないんじゃないか、と自信が持てない気持ちをどこかで抱えていました。
そんな中、SaaStrの対談セッションでcodaのCEOが定義したPMの役割を聞いて、
「あれ?意外と自分のスタイルも、PMの成長途上では必要だったのかな」
との発見がありました。
まずはノートテイカーから始めよ(coda)
PMがエンジニアとうまく歩調を合わせながら、プロダクトの成功を導くためにやるべきことは、信頼関係を築くこと。エンジニアとPMのアラインには4段階あるといいます。
①すべての関係性構築は、PMが「ノートテイカー」になることからスタート。エンジニアがmeeting notesやbriefを書き起こす負担を、PMが担うところから始まります。
②ノートテイカーは「broadcaster(アナウンサー)」に進化。今度は書き起こすだけではなく、ユーザーやCEOやマーケ担当者に、エンジニアがやりたいことをしっかり説明するという役割に発展します。
③broadcasterは「コラボレーター」に進化。エンジニアが議論するところにPMもインバイトしてもらい、PMも同じ土俵に立ってコラボレーションを促します。
④最後に、PMがリーダーとして動けるだけの力がついたら初めて「プロダクトマネージャー」としてエンジニアが意見を聞いてくれ、判断させてくれるようになります。
多くのPMが自分は④からスタートできると思っているそうですが、段階を経て信頼関係を築きながら実力をつける努力をしなければ、うまくPMの役割をこなせないといいます。
B2B SaaSでは、自分たちのつくったプロダクトが、業務効率などユーザーのビジネスに直結します。そのため、ユーザー数が増えるほど、“革新的なプロダクトを作りにくい力学”が働きがちな側面があります。
でも、ユーザに価値を提供し続けるためには、今までの延長線では足りません。PMは、どういう未来にしたいか、そのために何をするかを決め、それを実現するために必要なすべてをエンジニアたちとつくり上げます。
私は、どんなに自信をもって作り上げたプロダクトでも、未だにリリース当日は正直「怖い」と感じます。その反面、エンジニアと一緒につくった自分たちのプロダクトに対するユーザの反応が見えたときや、プロダクトの改善内容をエンジニアと議論する時間は、最高にわくわくします。
PMはさまざまな領域にまたがるスキルが要求される仕事ですが、ユーザーの課題を何とか解決したいという強い意志をもって、エンジニアや先輩PM、デザイナーやリサーチャーなど各専門家たちの助けを借りながら、ときには「役割」という線引きも乗り越えてプロダクトづくりをしていく。
歴史が長く、企業数も多いアメリカのB2B SaaSでも、プロダクトづくりへの第一歩として、泥臭い仕事をしながらチームの信頼関係を築いていくアプローチは普遍でした。
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そして、ここからは「プロダクトマネージャーが、どのように考え、プロダクトをつくるのか」という話です。今回のSaaStrでは、プロダクトづくりの思想について、熱い想いが込められたセッションがいくつもありました。YouTube未公開の内容を、プロダクト企画職の内木よりお伝えします!
「ブレないプロダクト」をつくるための考え方
企業の存在意義とプロダクトの哲学(Gusto)
中小企業向けにHRサービスを展開するGustoのセッションは、「なぜ企業は存在するのか?」という本質的な問いから始まりました。
すべては顧客の問題解決のためであり、その手段がプロダクトであるというのです。
さらに、プロダクトは”wow”という感動の瞬間をつくるものでなくてはならない。だからこそ、Minimum Viable Product(ユーザーに価値を提供できる最小限のプロダクト)ではなく、Minimum Loveable Product(最小限だが、愛されるプロダクト)であることが大切なのだといいます。
「ユーザーを第一に考えるモチベーションの純度が高くあるべき」とするGustoのブレない組織哲学は、freeeもプロダクトカンパニーとして見習うべき点が多いなと思いました。
ちなみに、Gustoは人事労務領域のプロダクトですが、とても洗練されていてワクワクするデザインになっており、個人的に大ファンです。気になる方は、ぜひこちらを覗いてみてください。
ペルソナ設定の鋭さ(GGV Capital)
成長フェーズの企業に投資するベンチャーキャピタルのGGV Capitalは、スモールビジネス層に向けたビジネスを行う上で「ユーザーを知ること」の重要性を強調します。
例として挙げられていたのが、飲食業界向けにPOSレジサービスを展開するToastです。以前から同様のサービスはありましたが、Toastほどの急速なシェアをとる企業は現れませんでした。この理由を、GGV Capitalは「ICP(Ideal Customer’s Profile; 企業ペルソナ)設定の鋭さ」と分析しています。
競合サービスが「エンドユーザー向けのマーケットプレイスビジネス」と広く浅くペルソナを定めていたのに対し、Toastはピンポイントに「レストラン経営者のビジネス支援」とICPを設定。これにより、レストラン経営者が本当に必要なサービスを届けることができたのだといいます。
中でも印象的だったのが、「17,000もの機能は必要ない。必要なのは、ビジネスを動かすための5つの機能だけ」というフレーズ。
本当にユーザーが必要としている機能は何なのか?解くべき課題は何なのか?その鋭さが問われていました。
そして、この問いに対して、どれだけクリアな答えを導き出せるかが、PMとしての腕の見せどころなのだと、背筋が伸びる思いでした。
プロダクトデザインの可能性
顧客のニーズを分解する(DigitalOcean)
デザインといえば、UI/UXが真っ先に思い浮かぶという方もいらっしゃるかと思いますが、DigitalOcean CPOのGabe Monroyさんはリサーチという文脈から、プロダクトデザインの可能性について言及しています。
Gabeさんによれば、ユーザーのニーズは以下の3つに分類されます。
①Candy(飴):ご馳走ではあるが、それなしでも生きられるもの
②Vitamins(ビタミン剤):人々の生活にとってnice-to-haveで、あると生活は豊かになるが、必ずしも必要はないもの
③Painkillers(鎮痛剤):人々の生活にとってmust-havesなもの。プロダクトをもっとも売りやすいのはこれ。
Candyもよく売れる性質をもつため(例えばゲーム業界のサービスなど)、必ずしも全てのプロダクトにおいて、Painkillersこそが成功の秘訣とは限りません。大事なのは、売ろうとしているプロダクトの種類をよく理解すること、だそうです。
なぜ、Gabeさんはこの3つの分類にこだわるのか。
DigitalOceanでは、過去に、ユーザーインタビューを実施した上で、ユーザーからの機能要望を反映させたプロダクトをつくったはずなのに、なぜか全然売れないということが発生しました。この理由についてGabeさんは、ユーザーインタビューで得られた要望はVitaminsではあれど、本質的なPainkillersではなかった、と分析しています。ユーザーが本当にやろうとしていることを理解せず、要望に合わせてただつくるだけでは、結局のところユーザーに深く刺さるプロダクトはつくれないのです。
この話を聞き、思いっきり平手打ちを食らったような感覚でした。プロダクトづくりに携わる上で絶対に忘れてはならないことに、(文字通り"身をもって")気づかせてくれたからです。
「freeeのプロダクトは、本当に顧客のペインを解消できているのか」
「”自分たちが作りたいプロダクト”を作ってはないか」
これらの問いは、しっかりと心に留めておき、自分自身や一緒に働くPMに、都度投げかけていきたいと思います。
PMとデザイナーの関係性
とはいえ、単にユーザーインタビューを行っただけでは引き出せないPainkillersを、どのように発見するのでしょうか?
Painkillerを見出すためには、デザイン・ファーストのアプローチが必要だと、Gabeさんはいいます。
具体的には、
ユーザーがどのように自分たちのプロダクトを認識し、価値を受け止めているのか
ユーザーがせねばならぬ仕事”Jobs to be done”は何か(ジョブ理論)
という2つの問いについて、ユーザー視点で深堀りを進めるそうです。
freeeには、デザインチームの中にXD(エクスペリエンス・デザイン)チームと呼ばれるリサーチの専門家がいます。ユーザーリサーチを行う際には、PMとXDが二人三脚で課題を深堀りし、鋭い課題解決をしようと日々奮闘しています。
まだまだ解くべきユーザー課題は山ほどありますが、デザイン・ファーストのアプローチが既にfreeeで実践されつつあることには、ちょっぴり誇らしい気持ちでした。
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SaaStrを経て、「1人のPMとして、プロダクトをつくる組織としてどうあるべきなのか」を、より深く自分ごととして考えるようになりました。
ユーザーの課題ととことん向き合い、プロダクトという形で『マジ価値』を届けきる。PMは、このサイクルを加速させるエンジンです。freeeのPM陣、かなり気合い入っていますので、今後を楽しみにしていてください!
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いかがだったでしょうか?
次回はいよいよ最終回。SaaStr 2022の総括として「B2B SaaSのグローバルトレンド」というテーマでお伝えします。
freeeは「あえ共freee」というマガジンから、freeeの事業や組織に関する情報を発信しています。フォローしていただけたら嬉しいです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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