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売り方を発明し続ける「途中でやめる」山下陽光さんと話す、お金と確定申告

どんなふうに働いて、どんなふうに糧を得ていくか。悩みのつきないテーマについて、仕事やお金を稼ぐことへ柔軟な発想を持って活動しているリメイクブランド「途中でやめる」の山下陽光さんをゲストに迎えたトークセッションが、11月に開催された『SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2023』で行われました。

freee株式会社の中川杏珠がモデレーターとして話を聞いたトークの後編では、山下さんが「途中でやめる」の活動を続けるなかで得た実感をもとに、お金を稼ぐことや確定申告をめぐって、より具体的な話が展開しました。

「みんなと同じ土俵じゃないところからスタートすれば、面白いことが考えられる」

前編でも話題に上がったように、個人で主催するブランドとしてはかなり安価で服を販売している「途中でやめる」。なぜそのような価格設定にしているのでしょうか。

山下:「途中でやめる」の服は、元がGUやユニクロなんです。チェーンの古着屋さんで昔のGUやユニクロの服を安く買って、それに布を縫い付けてるんですよ。だから、みんな安いって言ってくれるんですけど、500円で買った古着のズボンにちょこちょこ付けて5000円で売って、こんなインチキみたいなことで喜んでもらっていいのかなって。ユニクロってめちゃくちゃクオリティが高くて、タグを剥がしたら、パタゴニアとユニクロの違いもわからないんじゃないかな。クオリティは高いのに元値が安くて、中古になったらさらに安く買えるので、その利鞘で食ってるんです。パターンを引くところから服をつくるとなると、2万円くらいで売っても、元が取れないですよね。

「途中でやめる」の服はアーティストやタレントなどにも人気で、オンラインショップは即完売することも

中川:服をつくるというと、布を買って型紙をつくるところからやらなければいけないんじゃないかという先入観があります。

山下:ファッションの嫌だなと思うところは、買いたい人に高い値段で売り付けて、いらない人に安い値段で売っていることなんです。シーズンが始まったときが一番高くて、シーズンが終わる頃には8割引とかで売られているじゃないですか。それを買う人って、必ずしもそのブランドが好きなわけじゃなくて、安いから買うわけで。だったら、そのブランドを好きな人に一番安い値段で売って、どんどん値段を上げていけばいいのになと思うんです。そういうふうに売り方を発明していきたくて。

山下さんがクリエイティブをなりわいにするうえで工夫のしどころがあると感じているのは、販売の仕方だけではなく、自分が持っている能力の使いどころに関しても同様だと言います。

山下:戦わなくていい場所で戦っている人が多いですよね。大学に教えに行ったりもするんですけど、美大だと周りに才能のある人が多すぎて、「私なんて」と思っている感じの子が結構いるんです。でも、ここにいるやつらって、日本で一番絵がうまい19歳の集まりだぞと思うんです。ちょっと違うところに行ったら、きっと「神童か」って言われるくらいうまいわけじゃないですか。

才能のある人たちが切磋琢磨しているところで1位になりたい気持ちはわからなくないけど、もし悩んでいるのであれば、そうじゃないところで「すごいの描くね」って言われた方がいいんじゃないかなと思うんです。「自分のことをめちゃくちゃ褒めてくれる人にちょくちょく会いに行け」という言葉を聞いたことがあって。それで予想外のことが褒められたら、「私ってそういうところがいいんだ」と思えばいいような気がします。

山下陽光さん

「多くの人が勝負しているところで戦わない」という発想を持っているからこそ、山下さん自身もリーズナブルな価格で服を販売するという手法を選んでいるようです。

中川:
山下さんは手に取りやすい価格設定のものばかり展開されていると思うのですが、つい、「やっぱり高く販売した方がいいのではないか」と考えてしまいます。

山下:「お金が欲しい」「自分だけが得したい」ってみんなが思ってることじゃないですか。それに合わせるのは格好悪いんじゃないかなと思うんです。ネットの中では、みんながやらないことをやって票を集めるようなことをするのに、お金に関してはものを売ったら利益がでるようにしますよね。あれが不思議でしょうがなくて。

中川:お金のことになると、どうしてもみんな同じ方を向いてしまいますよね。

山下:「途中でやめる」のように洋服を極限まで安くすることを考えてる人ってあんまりいないんですよ。だから、仮に「俺だけが損します」って言ったら、そんなこと言う人は他にいないから、それだけで俺だけの場所をつくれる。でも、みんな1円でも損したくないと思ってるんですよね。「俺だけが損します」のように、みんなと同じ土俵じゃないところからスタートすれば、面白いことが考えられるんじゃないかなと思いますね。

山下さんに聞いた、「こんな確定申告があったらいいな」

お金に関する話題から、自身で事業を営む人や副業をする人などには欠かせない、確定申告についてもトークは展開しました。自身もfreeeユーザーだという山下さんですが、確定申告に必要な領収書やレシートにまつわる、ちょっとした困りごとがあるのだそう。

山下:訳がわからないものを大量に買ってそれで洋服をつくったり、なんなら洋服をつくるわけでもなく、ただただ買うこともあったりして。それに、商品じゃないものを買いたい気持ちもあるんですよね。あるときフリーマーケットに行ったら、使い古された変な木の置物があって、何なのか聞いたら、売り物の鍬を試し斬りするための木だと言われて。それがめちゃくちゃ良かったから、「これ売ってくれないですか」って頼んだことがあるんです。でもこんなのを買って、領収書とかレシートくださいってちょっと言いづらいですよね(笑)。

中川:そうですね(笑)。領収書やレシートに関することは面倒だと感じている人も多いのではないかと思います。私自身、お金の勉強をしたときに、確定申告をしたら還付金が戻ってくる場合があったり、必要なものが経費で落とせたりして、確定申告はただ税金を納めるだけじゃなくて、プラスな面もあると思ったんです。freeeでは確定申告を「領収書の整理」というよりも1年間を労うポジティブなものとしてとらえていきたい思いがあるのですが、山下さんとしては「こんな確定申告があったらいいな」というアイデアってありますか?

freee 中川杏珠

山下:例えばメールの返信の仕方がわからなくても、LINEなら返せる人っていると思うんですよ。多分freeeって、確定申告のためのLINEみたいなものをつくったんじゃないかなと思うんです。

知り合いで、好きな人にメールを送るときに、勇気が出ないから仙台から仲のいい同級生を東京まで呼んで、メールを送るところを見てもらったという人がいて。できる側からしたら「いや、ここに全部書いてあるし、ボタンを押すだけですよ」って感じかもしれないけど、できない人からすると「何なのかわかんない、これでボタン押していいんだっけ」となってしまうから、「大丈夫、合ってるよ」って、おばあちゃんにLINEのやり方を教えるみたいなことができたら、いろんな人が参加しやすくなるのかなと思います。

中川:みんなでやって、苦手なところを手伝ってもらったり、逆に自分が得意な分野で助けてあげたりするのはいいかもしれないですね。

山下:それをやると、どこでつまずいているのかがわかるんじゃないかな。子どもができたとわかったときに読むようになったメルマガがあるんですけど、お腹の中の赤ちゃんがいま何グラムでこんな感じになっていて、何日目はママの体調が一番不安定なときで、という情報が送られてくるんですよ。産婦人科の人たちが得たいろんな情報を集めてできていて、これってインターネットによるすごいものの一つじゃないかなと思ったんです。だから、できない人がどこでつまずいているのかについても情報を集めたら、「ここに注意してください」って、先回りして伝えられそうだなと思いました。

中川:freeeとしても過去に「確定申告FES」というイベントや、サウナを楽しみながらみんなで確定申告できるイベントなども行っていて、確定申告への負のイメージや、1人では不安だというイメージを払拭できるようにこれからもしていきたいとあらためて思いました。

「わけがわからない面白いことをいっぱいやっていたら、お金が入ってくるような感じでいたい」

最後に、「お金を稼ぐことをどのようにとらえているか」という中川さんからの質問に、山下さんはこのように話します。

山下:嫌なことをやればやるほど、お金が入ってくるという側面があるんですよ。自分ではやってないですけど、ネットで売るときに「最後の一つが売り切れました」と言って、売れたら一つ追加、それが売れたらまた追加って煽るような売り方をすると、めちゃくちゃ売れるんです。あと、「途中でやめる」では「直売」と言って、ネットではなくいろんな場所で洋服を売ったりするんですけど、例えば都内だと1日で15万円売れます。でもそのときに売れ残ったものをネットにアップしたら、1日で70万円売れたりするんです。

こっちの労力を下げれば下げるほど数に結びつくという、かつてない時代が到来している感じで。本当に嫌なんです、儲かりすぎちゃって。と言うと、完全に2億円持ってる人みたいな喋り方なんですけど(笑)、貯金は常に80万円くらいなんですよ。でも、80万もいらないと思っちゃうんですね。欲しいものもあんまりないし、80万円あったら、家族が何もしないで3か月ぐらい過ごせて、4か月目から働けば、全然大丈夫。だからそこまでいらないんですよね。

直売会の様子

中川:貯金額についても、SNSや周りを見て比べている方が多いのかなと思います。

山下:自分みたいな暮らしをしている人のサンプルがいままであんまりいなかったんですよね。お金儲けって簡単で、一番舐め腐ったことをやれば稼げるんです。でもそれを極力やりたくない。だから、わけがわからない面白いことをいっぱいやっていたら、お金が入ってくるような感じでいたいなと思います。

仕事や働き方、好きなことでお金を稼ぐことをめぐって、なかなか語られづらい側面まで含めて、具体的な数字を出しながら自身の体験を踏まえた率直な意見を話してくれた山下さん。

お金を稼ぐことを「簡単」と言い切り、そのために、ときにはこだわりや固定観念を取り払ってみることを明快に勧めていた山下さんですが、その背景に「お金があればあるほどいい」「得をすればするほどいい」という、現在の社会において当たり前とされている価値観に対して疑問を投げかける姿勢が伺えました。

社会的な通念から離れたときに、自分は本当のところ何を絶対に捨てられなくて、実は何にこだわっていないのか。仕事やお金、好きだと思っていることの内実について、つぶさに見つめ直してみた先に、思いもよらない生き方や働き方が待っているかもしれません。

また、本イベントでお招きする予定でしたが、体調不良で残念ながら欠席となった「無駄づくり」の活動をしている藤原麻里菜さんとの対談も準備中ですので、お楽しみに!

前編:「途中でやめる」山下陽光が語る。好きなことで食べていくにはどうしたらいい?

プロフィール
山下陽光

1977年生まれ。【途中でやめる】という名前で洋服をリメイクしたり、作ったりしてます。校を卒業する頃から景気悪くなるぞー、なったぞ、今年が今までで1番景気悪いってのを更新し続けてて、コラー、このヤローとか言いながらいよいよ洒落にならないくらいの不景気と絶望!どうしてくれんだ!バイトやめんだよ!で、『バイトやめる学校』って本を2017年に書きました。

執筆:松井友里
編集:竹中万季(me and you)

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