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freee Advisor Day 2021レポート メインステージ サマリー

「freee Advisor Day 2021」では、他業界の組織変革などに知見がある方をスペシャルゲストに招き、講演をいただいたほか、すでにリアルタイム化に取り組まれている先行するアドバイザーの方に登壇いただいて、その知見を共有していただきました。

各講演は、大きなテーマとして4つに分けられます。

1.前提となる社会変化への対応
2.リアルタイム経営の実像
3.リアルタイム記帳/経理
4.組織変革のポイント


それぞれのサマリーをお届けします。


1.前提となる社会変化への対応

正解のない社会だからこそ必要な力は

(教育改革実践家 藤原和博さん)

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「高齢化でも、少子化でもない。AI、ロボット化。(これからの10年で)これを超えていく社会変化はない」

そう力強く話したのは、教育改革実践家として教育界、そしてビジネスの場においても精力的に活動されている藤原和博さんだ。

スペシャルゲストとして登壇し、『AI時代、今必要とされる”情教育界、そしてビジネスの場においても報編集力”』というテーマで講演を行った。

藤原さんは言う。
「これからの時代、正解を出す情報処理力ではなく、情報編集力が必要だ」

情報処理力とはいわゆる計算問題を解くなど正解を早く出す力だ。正解があることが前提の能力となる。

一方で、情報編集力は、正解がない課題に対して、仮説をたくさん出し、自分自身が納得して、かつ他者をも納得させることができる力。納得解を作る力になる。

社会が成熟し、さまざまなことが多様化して変化が激しい現代。

それは正解がない時代ということ。

だからこそ求められるのは、情報編集力であり、これを身につけ、圧倒的な希少性を出すことが大切であることを藤原さんは強調していた。


2.リアルタイム経営の実像

コーチング支援を事務所全体で実現できた秘訣

(ブラザシップ 松原 潤さん)

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「コンサルティング会社ではなく、会計事務所が(中小企業の)経営支援をすることに意義がある」

そう話すのは、信頼されるパートナーでありたいと法人名に兄弟船という意味を込めた税理士法人ブラザシップの代表社員 松原 潤さんだ。

松原さんは、「事務所全体でMASを実現し、1人あたり売上20百万円を実現できたその理由は?」というテーマで講演を行った。

MASとはManagement Advisory Serviceの略で、いわゆるコーチング支援となる。

事務所担当者全員がそれぞれMASを行っている税理士法人は非常にめずらしく、まさにリアルタイム経営の実践を行っているアドバイザーと言える。

松原さんは、なぜ会計事務所が(中小企業の)経営支援をすることに意義があると考えるのか。

それは、スモールビジネスの経営者がコンサルティング会社に仕事を発注するには、資金的な余裕がなく現実的ではないこと。また現状を把握する上で経理や財務状況などを含め、必要な情報にアクセスでき、経営者に寄り添える存在が会計事務所だからだ。

そして、経営をよりよくするパートナーになるための手順として、松原さんは会計が正確に記帳されていることを大前提とし、その上で経理業務を効率化すること。そして、経営者向け財務をベースにしたコーチングを行うという、まさにリアルタイム化の3ステップを実践していることを話していた。


リアルタイム化はスタート地点

(Beso Group 白木淳郎さん、仲田芽衣さん)

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「開業からリアルタイム化を武器に顧問先を急拡大!その方法とは?」というテーマでリアルタイム化経営までの実践について語ってくれたのは、Beso GroupのCEO 兼 CFOの白木淳郎さんとCOOの仲田芽衣さんだ。

Besoは、2019年創業の若い会計事務所だが、これまでに売り上げが3倍に拡大し、リアルタイム経営まで実践している。

白木さんと仲田さんは、創業時に必ずやると決めた3つのこと(月次決算の徹底、作業効率化、移動時間の削減)、そして、やらないと決めた3つのこと(営業活動、何でも屋になるような安売り、そして作業代行)を披露し、リアルタイム化を実現するまでの道程を示した。その一方で、ちょっとした失敗談も披露してくれた。

たとえば作業効率化について仲田さんは言う。

「いろいろとマニュアル化をして無理矢理進めようとしたことがあって作業ロボットのようになってしまった。なぜマニュアル化するのか、目的が非常に大事になると思います」

そして、やらないと決めた作業代行については、白木さんが話す。
「顧問先とのミーティングの時間を大切にしたいという思いからやめようと決めたが、(顧問先の)全社に当てはめるのは(相手のリソースもあり)難しかった」

その場合、まずは相手の状況に寄り添い、一度Besoで作業を巻き取って効率化、その上で顧問先に戻す、という柔軟な対応をして課題をクリアしたことを明かした。

白木さんたちは、自分たちがなりたい会計事務所の像を描き、その理想像に向かって進んでいる。その上でリアルタイム化の重要性を次のように話した。

「リアルタイム化は必須だけど、これがゴールではない。ただ、ここがないと何も始まらないです」(白木)

つまり、アドバイザーのみなさんが描く理想に走り始めるスタート台に立つためには、リアルタイム化が必要ということだ。

二人は時折壇上で柔和な笑顔を見せながら、創業から約3年で経験した貴重な知見を惜しみなく語ってくれた。

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質問ではなく問いを。随所にちりばめられたコミュニケーションの秘訣

(コーチ・エィ 鈴木善幸さん)

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問いとはこれだーー。

スペシャルゲストとして登壇し、「共創する対話で顧客企業の変革を支援する」というテーマで経営者とのコミュニケーションの重要性について話してくれた株式会社コーチ・エィ代表取締役の鈴木善幸さん。

コーチングをする際に、質問ではなく、よい問いを対話者との間に置くことが大切だと話したが、これこそ問いだ、とわかった瞬間があったと言う。

鈴木さんが宿泊したあるホテル。サービスがすばらしく、感銘を受けた。

そのホテルの日本トップの方に会う機会があり、どんなすごいマニュアルがあるのか聞いた。すると、次のように返ってきた。

「特にすごいマニュアルというものがあるわけではないんです。ただ、アメリカの上司からメールや電話で『俺たちは世界一か?』とよく聞かれるんです」

鈴木さんは言う。

「これはすばらしい問いなんです。顧客が満足しているか?と聞かれたら、『YES/NO』で終わってしまう。でも、『俺たち世界一か?』と聞かれたら、どうだろう、とそのリーダーも考える。そしてリーダーが従業員にも『俺たち世界一か?』と問うと従業員も世界一のサービスというものについて考え始める。そしてこの問いが間に置かれたことにより、互いに対当に意見を出すことができるんです」

講演では、良い問いが大切であるというエピソードのほか、共創とは何か、対話とは何か、質問と問いの違いは?など、根源的でコミュニケーションにおける本質的な知見が伝えられた。

リアルタイム化を進めるにあたり、アドバイザーのみなさんと経営者とのコミュニケーションを改善するヒントが随所にちりばめられていた。


3.リアルタイム記帳/経理

リアルタイム化が廃業という決断もポジティブにさせてくれた

(ジェイシス 田中麻里さん)

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「創業70年の会計事務所がクラウド会計を活用し、自計化を進める理由」というテーマで、リアルタイム化で得たものを語ってくれたのは、ジェイシス税理士法人の税理士 田中麻里さんだ。

田中さんが所属するジェイシスは創業70年の超老舗税理士法人だったが、クラウド会計を導入し、現在は自計化以外の支援依頼は受けていないと言う。

では、なぜ、そうした環境を構築できたのか。

一つには、改革せざるを得ない状況が生まれたこと。

当時、所属する税理士が次々と一人立ちしたことで職員の数が減り、効率化を推し進めなければ仕事が回らない状況となっていた。

そして、もう一つはトップが先見性を持っていたこと。

「小さくてもよいからキラリと光る税理士法人でありたい」と話す所長がこれからは「クラウド化だ」と後押しをしてくれたと言う。

改革せざるを得ない状況と所長の先見性。
田中さんはこれらを追い風に、セミナーなどに出て知見を蓄え、リアルタイム化を進めていった。

講演中、田中さんが示した事例で耳目を引いたのが、顧問先の納得を持ったポジティブな廃業だろう。

ある服飾企画製造会社が事業不調に陥っていた。
好転させるため自計化を達成したが、さらにコロナ禍となり、大きな打撃を受けてしまう。
このとき損益や資金繰りの状況がリアルタイムに経営者に届いていたため、その経営者は現実を直視し、考え抜くことができたと言う。結果、納得感を持って限界前に廃業という決断ができたそうだ。

田中さんは言う。
「(その経営者は)当初不安があった様子だったが、最後は晴れ晴れとした形で決断をされたのが印象的だった。事業継続ができなかったことは残念だったが、寄り添った結果、無事に会社を閉めることができたのはよかったです」

廃業という、一見ネガティブな決断に思えるものもリアルタイム化を進めることで、経営者の納得を得られた、というのは、アドバイザーとして顧問先に付加価値を提供できた好例と言えるだろう。


リアルタイム記帳の実現までの苦労と得られたもの

(宮西計算センター 角 兼司さん)

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「記帳代行にfreeeをかけ算した結果、経理業務に変革が起きた」

宮西計算センター経営支援部次長の角 兼司さんはそう話す。

角さんは「創業50年、記帳代行のリアルタイム化で脱属人化」というテーマで、リアルタイム記帳を行うことで得られたもの、そしてその過程での苦労を話してくれた。

角さんたちは、製版分離という考え方のもと、freeeを導入支援する部署を立ち上げ、記帳代行の作業工程の分解、freeeへのデータ移行、処理マニュアルなど一つ一つ作って進めていった。この過程で、今までやっていた作業の中で無駄だったものが洗い出され、効率化も行われたそうだ。

だが、当初は新しいfreeeというツールの習熟までに時間を要し、生産性が激しく落ちたと言う。

「やめよう、と思ったことも10回ではきかない」

そのときの思いを角さんは率直に明かす。

しかし、投資をした以上、後戻りはできなかった。
乗り越えられた大きなポイントは、所長からの後押しだった。
加えて従業員の理解を得られるよう努めたこと、プロジェクトメンバーの強い思いがあったことから達成できたと言う。

結果、角さんたちは、1年あまりで既存の顧問先を含む100件をクラウド化した。新規の顧問先へのクラウド化推奨は比較的しやすいが、既存の顧問先だと従来の仕方を踏襲したい傾向があるため、導入することは簡単ではない。特筆すべき結果だった。

リアルタイム記帳を実現した現在、角さんたちが次に目指すものは何か。

「今後は自計化を進めていきたい。従来型のお客様に入力してもらう自計化ではなく、経理業務を設計し、お客様側でうまくフローを回す形。freeeで言うステップ2のリアルタイム経理に進みたい」

角さんは力を込めて講演を締めくくった。


4.組織変革のポイント

異業種からの視点で組織に変革を浸透させた方法

(荒井会計事務所 豊田啓彰さん)

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「残業時間50%、売上200%の変革はなぜできたのか」というテーマで講演をしたのは、群馬県前橋市にある荒井会計事務所の経営企画室長 豊田啓彰さんだ。

豊田さんは、ファーストリテイリングに勤めてユニクロ事業に関わった後、大学院に進学し、起業した。さらにその後、現事務所に参加した経験を持つアドバイザー業界の中では珍しい経歴の持ち主。

異業種から来たからこそ見えた課題があり、さまざまな手法を用いて、組織変革を実行した。欠かせないものは見える化、標準化、平準化の3点だと言う。

そのうちの一つの見える化を紹介する。

課題の一つにあったのが、見えるものより見えないものの方が大きいというものだった。
契約、工数、提供する付加価値....。さまざまなものが見えていなかった。

豊田さんは言う。
「感覚や暗黙知は非常に重要だと思う。ただし、再現性を持つためには、数字、現場を見えるようにする共通のものさしを持つことも非常に重要です」

では、どのように徹底した見える化を行ったか。その一つが隣の芝生を青く見せるという手法だ。ある部署に新しい方法を導入し、小さく成功させる。すると他の部署のスタッフも興味を持ち、自分たちも成功したいと自分ゴト化し、新しい方法を受け入れてくれる。

豊田さんは明かす。
「実は全社的に変えようとして私も一度失敗している。全社でやるとどうしても自分ゴト化できず、戻る力が働いてしまうんです。だから自分たちで変わりたいという意志を持てるような仕組みを作りました」

そうした変革を一つ一つ行った結果、さまざまな改革が全社に浸透し、5年で売上は2倍、時間外労働は50%以下に減少。休日も100日から130日に増えた。そして群馬県にある会計事務所はfreeeも活用し、北は北海道から南は小笠原諸島や沖縄県までクライアントがいる事務所へ変貌を遂げた。


7年で年商37億円を可能にした組織変革のポイントは

(セイワホールディングス 野見山勇大さん)

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「殺さない『事業承継』の中で変えたこと変えなかったこと」というテーマで、講演したのはスペシャルゲストとして登壇した株式会社セイワホールディングス代表取締役の野見山勇大さんだ。

野見山さんは、預金26万円、顧客1社の厳しい状況で父親から事業を受け継いだ後、組織変革を行って中小企業の事業承継の受け皿となり、7年で年商37億円となるほどの企業にまで成長させた。

講演で野見山さんは、組織変革について、3つのポイントを挙げた。

1つは、社内とのコミュニケーションの方法。2つ目は、社内での対応が難しい案件は外部人材を使うこと。そして3つ目が、上記2点を活用して、適切な改革ステップを徹底させることだ。

1つ目については、要望を伝えるよりも相手の考えを知り、自分が学ぶ姿勢が大切だと話した。野見山さんは、現場の職人たちと長い時間を過ごすことで、徐々に信頼を勝ち得て、話を聞いてもらえるようになった経験を話した。

また外部人材活用については、次のように話す。

「みなさんの顧問先にAI化、IT化を進めようとしても中小企業にはリソースがないのでどうしてもできないということがあると思う。しかし今は優秀な人材が副業ができるので、高価ではない形で協力してもらえる。そういう人たちを士業の方が仲介するのは非常によいやり方だと思います」

さらに、そうした状況を作ると、たとえば属人化していた作業工程でも、誰でも決められるような仕組みに作り変えることができたそうだ。

実際にセイワホールディングスも大手企業の人材を活用し、AIの導入を成功させている。

そして最後に、野見山さんはアドバイザーの重要性について言及し、講演を終えた。

「私たちは事業承継をして、さまざまな企業にジョインをしてもらっていますが、士業(アドバイザー)の方の『良い企業だから残しましょう』とその会社の社長さんに伝えていただき、話しが始まったことが多い。みなさんの一言は非常に重要になる。ぜひ、中小企業に伴走する姿勢で取り組んでいただければと思います」

(了)

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