見出し画像

難産だったfreee申告。どこまでも続く泥臭い作業、それでも開発を続けた理由は

 12月16日、freeeにとって、待望の償却資産の申告機能がリリースされました。
 この機能は、これまで多くのユーザーのみなさんや会計事務所、税理士の方たちから要望があったもの。
 freeeとしてもみなさんの要望に応えたいという思いがある中で、ようやく届けられた機能になります。
 今回は前後編に渡ってそこに至る過程や思いをお届けします。
 前編は、その開発にたずさわったスタッフの紹介、そして償却資産機能リリースにつながるfreee申告のリリース秘話です。


申告ソフト開発は修羅的作業?


「チカさんから先にどうぞ!」
「ここはるーさとさんのほうが詳しいですよね」

 クラウド会計ソフトで知られるfreee株式会社では、お互いをニックネームで呼び合っている。それだけでも和気藹々とした社内の雰囲気は伝わってくる。

 ブランドロゴに大空を羽ばたくツバメをモチーフにしているように、優雅で、どこかスマートなイメージを抱いているかもしれない。

 だが、看板であるfreee会計、freee申告の開発は、並々ならぬ試行錯誤とたゆまぬ努力の結晶だった。

 プロダクトマネージャーとして開発に携わる、るーさとさんこと、高木悟がその工程について言葉にする。


「イメージとは違って、申告ソフトの開発は地道なテストを繰り返すので圧倒的に泥臭い作業が多いと思います。もう泥臭い of 泥臭い(笑)。修羅的な作業と言えるかもしれません」


バックオフィス業務の効率化というビジョン


 もともと公認会計士・税理士の資格を持ち、監査法人に勤めていた高木は、当時から煩雑になりがちなバックオフィス業務の課題を強く実感していた。

 転機になったのは、関西から東京に出てきたタイミングで住んだシェアハウスだった。そこで高木はfreeeで働く人間に出会う。話をしているうちに興味を抱き、ホームページを覗いてみると、freeeが掲げているビジョンに感銘を受けた。

「会計ソフトを作ろうとしているだけではなく、バックオフィス業務の効率化を当初からビジョンとして掲げていました。従来の会計ソフトを開発している企業とは、全く異なる発想だと思ったことが入社の動機でした。

 当時はまだ人も少なく、僕の社員番号は20番台なんです。あれから8年弱が経ちましたけど、今では働いている人が何十倍にも増えているので、振り返ってみるとビックリですよね」

 2014年に入社してからは、カスタマーサポートやマーケティング、テクニカルサポートなどさまざまな部署を担当した。

「前半の4年間は会計事務所向けの業務だけでなく、むしろエンドユーザー向けの仕事が多かったように思います。個人事業主の方や小規模の法人さま向けのマーケティングにも携わりました。その4年間で蓄えた知識をベースにして、後半の4年間はソフトの開発業務を行ってきました。税務申告の開発もあれば、会計など、さまざまな項目の開発に携わってきました」



紙文化の不毛な作業を効率化したい


 チカさんこと小野寺知佳も、るーさとさんと同じく、公認会計士・税理士の資格を持ち、プロダクト戦略チームで、ソフト開発に携わる一人である。以前は高木と同じく、監査法人に勤務していた。

「最初は、規模の大きな監査法人で働いていました。そこでは大企業を相手に仕事をすることが多く、個人的には友人の起業やサポートをしたいという思いがあったので、同じグループ内ではあったのですが、税理士法人に異動したんです」

 異動した先の税理士法人で目の当たりにしたのが根強い“紙文化”だった。

「主に申告書を作る仕事がメインだったのですが、とにかく書類だらけだったんです。加えて、毎年同じような作業をローテーションで繰り返さなければならないことも多くありました。その作業ボリュームというのが、とにかくものすごくて。しかも紙の量が膨大で、手作業も多く、これは正直、ちょっとしんどすぎるな、と思っていたんです。

 税務関係の知識を深めていくというよりも、このつらい手作業をなんとか効率化できないかという思いを抱いたんです。そのタイミングで、個人的にも転職を考えはじめ、freeeの存在を知り、るーさとさんと同じく、会社のビジョンやミッションに共感できる部分があったので転職を決意しました」

 同じ実体験をしていたからか、小野寺の言葉に深くうなずいた高木が、言葉を引き取った。

「その効率化というのも、決して壮大な話ではないんです。バックオフィス業務は、あまりにも不毛なことが多すぎて。その不毛な作業を、少しでも軽減することができればと……」

 さらに小野寺も強くうなずく。

 ふたりが何度も「うん、うん」とうなずく姿を見て、きっと記事を読んでくれているであろう会計士・税理士の方たちも同じように首を縦に揺らしているのではないだろうか。

 バックオフィス業務を統合することで、自動化と業務全体の効率化——を目指していく。それこそがfreeeのミッションでもある。

 2018年に入社した小野寺は、freee申告ソフトの開発をメインに働いてきた。

「freee会計ソフトの決算などの担当もしているのですが、freee申告がメインの業務になります。私がちょうど入社する少し前に、法人税の申告のプロダクトをリリースしたのですが、そこから軌道に乗せていくためのフォローや、法人税だけでなく、他の税目も追加していこうという流れになり、届出書を作成できるようにと徐々に項目を増やしてきました」


リリースした開発項目の一つひとつが我が子


 冒頭で高木が、freee申告ソフトに項目を追加する開発業務について、「泥臭い」もしくは「修羅的な作業」と、イメージにそぐわない表現を用いただけに、その苦労についてたずねてみた。

 高木が話してくれたのは、2017年にfreee申告がリリースされたときのことだった。

「僕はfreee申告がリリースされたときの開発担当でした。そのとき一番きつかったのが、税務に関する不具合が多く発生してしまったことでした。背景としては短期間で開発し、短期間で納期というスケジュールだったこともあったのですが、当たり前ですけど、税務申告に関しては絶対に不具合があってはいけない領域。にもかかわらず、不具合が発生してしまったことにより、さまざまなところからネガティブな意見が世の中に拡散されてしまったことがありました。

 当然、担当である僕たちの責任ではあるのですが、反省するとともに、メンタル的にも大きなショックを受けました。すぐにでも改善しなければいけないという現実はありつつ、一度はソフト自体を取り下げることも検討したほうがいいのではないかとまで考えました」

 結論からいえば、リリースを取りやめることなく、改善していくことで対応を試みる方向になった。だが、社外はもとより、社内からも厳しい指摘や目で見られることも多く、「後ろめたさ」と「一日でも早く改善しなければ」という思いで、精神的にも追い込まれていたと、高木は明かしてくれた。

 その最中に小野寺が入社したこともあり、高木が「状況的にはきつかったし、大変だったよね」と労っていたところに、その過酷さが表れていた。

 小野寺が話してくれたのは、届出書に関するリリースをしたときのことだった。


「国に提出するe-Taxと地方に提出するeLTAXがあり、e-Taxではテストでもスムーズにクリアしたのですが、eLTAXでは何度やってもエラーが出てしまう報告があり、その原因が見つからなかったんです。そのあと、さまざまなテスト環境や送信試験を行い、うまく機能しているように見えたのですが、さらに最終テストをしたら、やっぱりエラーが出てしまったんです。そのため、リリースを止めて、もう一度、原因を調査し直したんです」

 テストをしてくれるエンジニアや税理士によるユーザーテストでもエラーの理由は分からず、原因は突き止められなかった。エラーを解析するために踏み切ったのは、実際に会社を設立するという方法だった。

 テストではなく、リアルに運用することで、原因を究明しようとしたのである。

 小野寺が言う。


「本当にありとあらゆることをテストしていたので、これはもう実際に会社を作るしかないと。それくらいお手上げだったんです。実際に会社を作り、やってみたら、やはりエラーが出たので、そのエラーログをエンジニアチームが解析してくれ、ようやく原因を知ることができ、リリースすることができました」

 項目を追加する過程において、そこまでしているのかと、ただ、ただ驚くばかりだった。

「原因が分かったときは、めちゃめちゃホッとしました。そこを修正してもらい、送信できたときには、心の底から『よかったー』って声が漏れました。ホント、子どもを育てるみたいな感覚がありますよね」

「あの問題児がようやく、みたいなね」と言って高木が笑う。

「2017年にリリースしたfreee申告ソフトですが、今では本当にいろいろな人に使ってもらえるようになりました。もしかしたら、まだ日の目を見たとまではいえないかもしれないですが、あのときの苦労があっただけに、多くの会計士・税理士の人たちに使ってもらえるようになり、改めて開発のやりがいのあるプロダクトだなと思っています」

 高木が修羅的作業と表現したように、リリースするまでには、終わりの見えない確認作業が続く。そうして発信されるだけに、まさに一つひとつの項目が我が子のような存在でもあるのだろう。

 12月にリリースされた償却資産の申告もまた同じく、我が子である——。

(文・原田大輔/写真・原田健太)

▶後編につづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?