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卒業式まで死にません 読了《読書感想文⑧》

ここにいるのは、特別な女の子ではありません。
もしかしたら自分だったかもしれない「もう一人のあなた」です。
渋谷、ゲーセン、援交、カラオケ,ーー。
青春を謳歌しているイマドキの女子高生かと思いきや、実は重度のリストカット症候群にしてクスリマニア。
行間から溢れ出る孤独と憂鬱の叫びが、あなたの耳には届くでしょうか。
死に至る三ヶ月間の過激にポップなモノローグ。

卒業式まで死にません 裏表紙

南条あやとは

1980年8月13日、東京生まれ。
本名・鈴木純。南条あやはハンドルネーム。
中学一年のときに初めて手首を切り、以降何度もリストカット、自殺未遂を繰り返す。
高校時代、パソコンを手に入れたのをきっかけに、インターネットで身辺雑記や精神科入院日記を公開、人気を博す。
ネットアイドルとも呼ばれ、雑誌の「GON!」に連載を持ったり、テレビの取材を受けたりした。
’99(平成11)年3月30日、他界。享年18歳。
2000年8月に刊行された本書「卒業式まで死にません」はロングセラーとなり、同じような悩みを抱える十代のバイブルとなっている。

卒業式まで死にません

僕が南条あやさん(以下あやさん)のことを知ったときのことはもう覚えていないけれど、卒業式まで死にませんと出会ったのは、この動画と出会ったときだった。

この本は、あやさんのお父様の言葉、死の前日(1999年3月29日)に書かれた4篇の詩、別冊宝島445『自殺したい人びと』に掲載された『いつでもどこでもリストカッター』、町田あかねさんという方のホームページで掲載されていた日記、解説、あやさんの略歴、用語解説、によって構成されている。
日記は元の量が膨大だったため期間を絞って収録されている。

上の動画をみてそこそこに内容と時代背景を理解して読んだ僕。
これはあやさんのお父様に対してとても失礼なことなのだが、
この本の『はじめに』と日記の『2月28日 コンクリートの屋上』の注釈を読んで、なんというかお父様のことを信じきれない僕がいる。
あやさんの視点でしか読んでいないからなのか。
もしあやさんのお母様があやさんを授かって産まれ、あやさんが亡くなるまでをお父様目線で読むことが出来るのなら印象が変わるのかもしれない。

あやさんの文章は一貫してオノマトペがポップでキャッチーだという印象だ。
腕切ったり薬飲んだり決して軽く扱っていい内容ではないだろうに、面白い語り口、表現、高い文章力で読み手を魅了してくる。

今よりもきっともっと理解のなかったであろう精神的な病の、辛さ、孤独、憂鬱、不安、悲しみ、希死念慮をあやさん特有の明るく面白く軽やかに時にはオーバーに表現するための、物事をみる冷静な観察眼と、日記を読む人へのために『ボケやツッコミを忘れず一見重い話もスラスラ読めてしまう文章を書く女子高生ネットアイドル、南条あや』を崩さず、当時まだホームページをもつ人(インターネットを発信場所としてつかう技術を持つ人)が少数だった時代に発信していたあやさんにきっと心を寄せ救われた人はたくさんいたのだろうな。と思う。

あやさんは卒業式を終えた20日後、18歳で向精神薬による中毒(度重なるリストカットや瀉血で心臓が弱っておりそこに過剰服薬したためたった3時間で心停止が起こったことが司法解剖でわかった)でカラオケボックスで亡くなった。
略歴をみると、卒業式後~亡くなる前まで、
・雑誌『GON!』に「精神科に通う現役女子高生南条あや 入院編」が掲載
・恋人だった男性(あやさん20歳になったら結婚する約束だったよう)とディズニーランドに行く
・婚約者と指輪を購入
・町田あかねさんのページから「南条あやの保護室」という名前で独立
・友人たちとのカラオケ大会
など傍目からみても、嬉しく楽しい出来事がたくさんある。
もしかしてあやさんを死に背中を押したのは高校を卒業したという虚無感とこれからの希望だったのかな。と想像してしまう。

昔より幾分か精神的な病が理解されるようになった時代の、誰でも発信者になれるようになったインターネットを通して、強く明るく生きて消えていったネットアイドルと出会えて軌跡を読めてよかったな。と思った。

最初の方にも書いた通り日記は期間を絞って収録されているため、原文も読んでみてほしい。
URLが更地になっているのでサイトなどを使ってdigってみてください。


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