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アイスクリームと店長

今日、美容院に行った。

個人経営で、知らない人からしたら普通のお家。

髪の毛を切ってもらっている間に流れていたAMのラジオで、アイスクリームの話をしていた。

アイスを食べよう。

さっぱりした髪で、クーラーの効いた部屋で、私もアイスを食べよう。

大好きなチョコミントを買おう。

家に着く前に溶けないように、一番近くのコンビニに寄った。

レジには、店長が立っていた。


私は、高校生の頃から、そのコンビニを使っている。

バイトをしていたわけではない。
ただのお客さんだ。

駅で降りて、コンビニに寄って、家に帰る。

毎日じゃないけど、時たまそんなルートだった。

店長に初めて話しかけられたのがいつだったのか、私は覚えていない。

高校生だったか、大学生だったか。


それから、私の後ろに誰も並んでいない時だけ、話しかけられるようになった。

いろんな話をした。

天気の話。おすすめ商品の話。コンビニの話。
大学の話。専攻の話。進路の話。
店長の話。店長のお子さんの話。

いつも話すのは、長くてせいぜい1分か2分。

私も毎日コンビニに行くわけではないし、
だから話しても話しても、なかなか話は進まないし、絶対に深い話にはならない。

いつも最後は、 

「ありがとうございました、またお願いします」

「ありがとうございます」


今考えれば、赤の他人に何を話してるんだと思うけど。

そんな関係が私は好きだった。

社会人になって電車を使わなくなり、私はそのコンビニに滅多に行かなくなった。


たまに行くことがあっても、違う人がレジに立っていたり、お客さんが多かったりして話すことはもうずっとなかった。

私の外見だって、少しずつ変わった。

1日にコンビニに来るお客さんの数は知らない。
けど、私が想像する以上なんだろうな。

所詮その中の1人だ。

もう、覚えてるはずがない。



「〇〇円になります…まだ〇〇(職場)で働いてるんですか?」


覚えてた。

すごくすごく嬉しかった。

別に大事な人でも、恋をしてる人でも何でもないのに。笑顔が素敵なだけの、白髪混じりのおじさんなのに。



今日、気づいた。

高校生から今まで、私の人生に何気なく店長はいて、私はあのコンビニで、店長と数分間、話をするのがすごく好きだったんだと。

コロナの後は、経営が厳しくなったのか、いつも店長がレジに立っていた。

黒髪だったはずの髪の毛にどんどん白髪が混じり出した。


私はあのコンビニに行けば、いつも無意識に店長を見ていた。


「覚えててくれたんですね」

「覚えてますよ」


嬉しくてつい長々と話しそうになる心を抑えて、いつも通り会話を終えてコンビニを出た。


家でアイスを食べながら思った。

久々に話したんだから、
どうせならもう少し話せばよかった。

また次も店長と話せるかな。


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