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半分はんぶん「第3回:番外編 今日の昼さがり」

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この話をはじめから読む場合は「第1回~はじめに~」をごらんください↓↓↓

https://note.com/free_xyz/n/n12b993e39417?magazine_key=mdb272246e3cd

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今回は『半分はんぶん』に出てくる家族4人(僕・妻・すもも・りんごちゃん)の一場面を紹介します。

ありふれた日常の積み重ねが、何かをがんばるときの糧になる。
そんなことありますよね。

スパルタ

僕は資格の勉強をしていた。

つまづく場所はだいたい計算問題だ。恥ずかしい話だけど、僕は勉強をしてこなかったから、四則演算もよくわかっていない。

その日の僕も、計算問題が分からずに頭を悩ませていた。

お昼ご飯を食べた後で、気分はお昼寝モード。
このまま勉強をダラダラとするか、思い切って寝てしまおうか、そんな気持ちが僕の中で揺れていた。

実際、迷っているときは8割方勉強はできないのだが………

そんな時に僕が頼りにしているのが妻である。

妻に問題と答えを見せると、答えに至るまでの詳細な過程を僕に教えてくれる。

「ごめん。ちょっと教えて欲しいんだけど、この計算が何でこの答えになるのか分からないんだ」

妻は問題に目を通した。

「あーこれはね、、(カキカキカキカキ)、あー。。こうなるんですよ」

僕が勉強をしている資格を勉強したこともない妻が、いとも簡単に答えを導き出す。

「わかりましたか?」

僕はいつも気圧される

「あ……うん。なんとなく………」

(ケシケシケシ・・・・)

僕が答えたそばから、妻は消しゴムを取り出し、自分の書いた答えまでの過程を消し始めた。

「いや、待って。消さないで!お願いです!」

僕は訴えた。


「計算はね、自分で手を動かさないと身に付かないんですよ。」

妻はそう言って、「じゃあ、私はお昼寝するから」と言い残して部屋を去っていった。


……………僕は振り出しにもどる………


楽しんでるかい?

仕事が早く終わった日曜日の午後。

僕が家に帰ると長女のすももがリビングで色鉛筆を持って泣いていた。
お気に入りのスケッチブックに、すももの涙で地図が描かれている。

「すもも、どうしたの?」
僕は気になって優しくきいた。

「(ヒックヒック・・)絵がね、うまく書けないの」
すももはしゃくりあげながら答えた。



僕はすももに質問をすることにした。


「すもも。絵を書いていて楽しい?」


「うまいとか下手とか、そんなことよりも、まずは楽しもうよ。楽しんだもん勝ちだよ」

「パパは、すももが楽しんで書いた絵が好きだな」


僕はそう言い、すももは素直に「わかったよ」と言って、涙を拭いた。

その日の夕方に完成した絵は、いつもの大好きなすももの絵だった。


--------------------それから1ヶ月-----------------------


夜勤明けの日曜日。

夢の中にスマホのアラーム音が飛び込んできた。
目を開けると、鳴り響くスマホを持ったすももが僕の顔を覗き込んでいる。
僕を起こすべきか思案していたようだ。


「パパ、大丈夫?」
心配そうにすももは声をかけてきた。
アラームはセットした時間から30分以上経過し、今も鳴り続けている。

「すももありがとう。大丈夫だよ。パパ、お仕事行かないと」
今日は日曜日だが、夕方には打ち合わせが入っている。


僕は軽くシャワーを浴びて着替えをした。
お昼はすぎており、コンビニでパンでも買って、車の運転をしながら適当に済ます予定だ。

家を出ようとしたときに、玄関ですももが待っていた。


「すもも、さっきは起こしてくれてありがとう。パパ行ってくるね」
スマホを持って僕を覗き込んでいたすももは、可愛くて優しい。


「パパ、お仕事楽しんでる?」

すももの言葉で、眠かったハズの僕の目が、一気にさめて気づかされた。
仕事がうまくいくとかいかないとか不安になることは多いけど、どうせ仕事をするなら楽しく、ポジティブにやった方がいいに決まっている。


「すもも、パパ楽しむのを忘れてた。教えてくれてありがとう!」

僕は軽快な足取りで車に乗り込み、運転席からすももに合図をして仕事に出かけた。

「楽しんでるかい?」
それからは、僕とすももの合言葉になった。


やきいも

『い~しや~きいもーーー。おいも~』


リビングに緊張感がはしる!


どこからともなく聞こえてくる『石焼きいもの声』。僕はそれをリビングで聞いて財布を手にとった。

そして、僕は長女のすももと次女のりんごちゃんに向けて声を張り上げた。


「すもも!!りんごちゃん!!すぐに行くぞ!」


僕の住んでいる地域では、石焼きいもが決まった時間に現れない。
このチャンスを逃せば、次にいつ石焼きいもに出会えるかわからないのだ。

近所のスーパーに行けば売っているのだが、軽トラックをリヤカー代わりに売り歩いている『石焼きいも』の味は、雰囲気も相まって一段と格別だ。


たとえお腹が空いていなくても、今、この時を逃すわけにはいかない!!

僕とすももはすぐにリビングを発った。
妻ははじめから自分が行く気がなく「私の分も買ってきてね」と言っている。

問題はりんごちゃんである。
「自分も行きたい!」
りんごちゃんにその気持ちはあるが、とにかく動きがおそい。

「りんごちゃん!!はやくはやく!!」

すももが急かしているが、りんごちゃんの動きは遅いままだ。

「まっでぇぇぇ!!!」

玄関で靴を履く僕とすももを見て、半泣きのりんごちゃんが追いかけてくる。

「(りんごちゃん、正直、泣く時間があったら早く動いてほしい。)」
僕とすももは切に願った。


そして・・・


やきいも屋さんは姿をけした。

納得がいかないすももと、泣くりんごちゃん。でも仕方がない。


「いや!!まだだ!まだ近くにいるはずだ!!」


僕は諦めずに、一旦家に帰り自分の車に乗り込んだ。すももが素早く僕に続いた。

しかし、その後、10分ほど捜索したが、『やきいも屋さん』の姿は確認することができなかった。


しょんぼりしながら、1時間程すごしただろうか・・・
僕が子供たちを元気づけようと、コンビニスイーツにお誘いする直前だった。

「きた」
りんごちゃんがつぶやいた。

「???」
僕とすももは首をかしげた。

「やきいも屋さん。きた」
りんごちゃんは言う。

「本当にーーー?」
そう言ってはみたが、りんごちゃんに付き合って玄関で靴を履いていた。
どうせこないので、そのままコンビニにスイーツを買いにいけばいい。


だが、僕の計画は意外にもくずれた。

『いーしやーーきいも~、おいもだよ~』

「きたーーーーーっ!!!!」
僕とすももは声を合わせて歓喜した!
りんごちゃんはしたり顔だ。

嬉々として走り出し、リアカーを確認した僕とすももが軽やかに駆け寄る。

りんごちゃんは相変わらず動きが遅いが、今回は大目に見ることにしよう。


「いらっしゃい。どれにする?」

焼き芋の親父は言う。

目の前には、こんがりと焼けて香ばしい匂いがする不揃いのおいもが並んでいる。

「今回はりんごちゃんのお手柄だったね」
僕とすももはそう言い、おいもをりんごちゃんに選んでもらった。

茶色い紙袋に入れられた焼き芋を覗き、大喜びの子供達をみると、僕は焼き芋以上にほっこりした気持ちになった。

その日のおやつの時間は、家族揃って笑顔だったことは言うまでもない。

しかし奇妙な話だ。なぜりんごちゃんは焼きいも屋さんがくるとわかったのだろうか。

動きが遅い代わりに、特別に食べ物を感じとる力があるのだろうか………真相は、食べ終えた焼き芋とともに消えたのだった。


おしまい

今回はこれでおしまいです。
よい昼下りをお過ごしください。

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続きは「第4回:時間旅行」へ↓↓

https://note.com/free_xyz/n/nbe33ecdf5d23

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