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これは、小売の未来予想図。Retailor(リテーラー)誕生の裏側

SHOPLISTでの経験を活かし、ブランドとユーザーの新たな関係をつくるビジネスモデルを

―――フリースタンダードは現在、Retailor(リテーラー)(※)というサービスを展開しています。そちらがスタートした背景についても教えてもらえますか?

(※)...ブランド独自のサーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現可能にするRecommerce Operation System

張本:Retailorの誕生には、SHOPLISTでの経験が大きく影響しています。先ほどSHOPLISTが成功をおさめたのは「時代・タイミング・人」が揃っていたからとお伝えしましたが、まさにその時期は、H&MやZARAといったファストファッションブランドがマーケットスタンダードになり始めた時期でした。

SHOPLISTの創業者であり、現在はフリスタ代表の張本貴雄。

みんな同じものを着なくて良い。自分の個性を出して良い。そんな時代背景があり、お得に着飾れるファストファッションがマーケットフィットしていたんです。そうしてファストファッションは多くの人に受け入れられ、一つのスタンダードになりました。

しかしほとんどの場合、10年も経つと産業は成熟を迎えます。ファストファッションも例外ではなく、大きな話題で言うとFOREVER21が日本市場から撤退し、H&Mは原宿の店舗を撤退しました。

そうした状況で顧客の新たなインサイトとなったのが「ファストファッションは好き。いろんな服を楽しみたい。だからその分、1品1品にそこまでお金はかけられない」という心理。つまり、ファストファッションは最盛期と比べ、徐々に利益を上げるのが苦しい業界となっていったんです。

そういった時代の中でSHOPLISTは、ファストファッションを含め多くのブランドさんの商品を扱わせていただきました。その際、私たちはブランドさんにこうお願いするんです。

「ユーザー様にお得な買い物体験をしていただくために、SALE割合をもう少しあげていいただけないか?」と。

フリスタ取締役・野村晃裕

ユーザーの視点からすれば所得の制限があるため、少しでもお得な商品を買いたいという気持ちが芽生えます。ですので、値引きのお願いは可能な限りご対応頂きたいとお願いしていました。一方、この形が健全であるとも思えなかったんです。単純に売り上げは上がりますが、ブランドさんにとっての利益は減衰しているわけですからね。

野村:僕は前職の頃、あらゆるジャンルのスタートアップ、ベンチャー企業の組織支援をしてきました。けれど、ブランドさんと関わらせていただくのはフリースタンダードに入ってからだったんです。

ブランドさんは構造的に利益が残りにくく、ビジネスを進めていくのがとにかく難しいんですよね。何が売れるかわからない中でも、次々と新しいモノをつくらなければならないし、モノがあるので、残ったらコストがかかり続ける。そのうえ、バリューチェーンが長く、関わるプレイヤーも多いので利益が削られていきやすい。苦しんでいるブランドさんは想像以上に多くて、「これは何とかしないといけない」と思ったんです。

張本:その状況に加え、フリースタンダードの創業当時はコロナ禍だったため店舗が続々と休業しており、ブランドさんの倉庫には在庫となった商品が溢れている状況でした。なんとかその課題を解決できないか。そう考えて始まったのがリテーラーの要素の一つであり、最初の一歩でもある、「レンタルサービス」だったんです。

リコマース事業を提供する「リテーラー」

このビジネスモデルであれば、ブランド倉庫に溜まってしまった在庫を活用でき、ユーザーからすれば所得の制限を気にせずアイテムを楽しめるようになると考えました。

「飽きたら捨てる」「買い換えればいい」という消費の常識を変えたい

張本:僕は20歳の大学生で結婚し、家庭を築いてきました。学生のアルバイトで得られる月収はよくて15万円ほど。そんな少ない所得の中で生活をやりくりするとなったとき、ファストファッションはとても素晴らしい存在でした。

ファストファッションに助けられてきたからこそ、僕はその価値をもっとみんなに届けたいと思ったんです。実際、自分の子どもたちもSHOPLISTで洋服を買い、すごく喜び、笑顔になってくれていました。

ただ、消費の選択肢が限定的になりすぎてしまうことに疑問もありました。

たとえば、時間をかけて貯めたお金で、とても高いお財布を買ったとします。それはすごく大切に扱うのに、手軽に購入できる価格帯のファストファッションは「すぐに買い換えればいい」という思考になってしまいがち。

だからこそフリースタンダードでは、所得の制限を解放し、もっと気軽に気になったアイテムを体験できる新しい消費の在り方プロダクトをつくっていきたかったんです。レンタルという消費体験であれば、「飽きたら捨てる」ではなく、「短期的に所有して返却する」という形が取れるので、ユーザーやブランドさんにとってもいい循環が生まれると思いました。

オフィスでのひとコマ

リコマースの目的は、ただ「利益が上がる」からではなく、「アイテムの寿命を伸ばす」ため

―――Retailorの中には「リコマース」のサービスも含まれていますが、なぜですか?

張本:あるとき、投資家さんとディスカッションしていると「君たちが取り組んでいるプロダクトは、海外のとある会社に似ているね」と言われたんです。

その会社は、リコマースをメインプロダクトとしている企業でした。深く調べていくと、確かにオペレーションが似ている。同時に「この時代においてアイテムの寿命を伸ばす取り組みは必要不可欠なことである」と感じたんです。

単純に「利益率が良いから」ではなく、「アイテムの寿命を伸ばす取り組みがレンタル以外にもできないか?」と考えた結果、リコマースもスタートすることを決めました。

RetailorがECにもたらす、新たな可能性とは

―――こうした想いの込められたRetailorですが、お二人はどんな可能性を感じているのでしょうか?

野村:事業を進めていく中で、これからの時代のECに求められるのは「安心感」だと思いました。EC大手企業が日本に上陸して20年ちょっと。今やEC市場は生活インフラといっても過言ではないほどに成長しました。

競争の結果、現在ではありとあらゆるところでセールが開催され、いつでも安く、目当ての品を手に入れられるようになっています。こうした背景を踏まえ、僕はここから先の10年間で、ECはもう一段階成熟すると思っているんですよね。

これは自分自身の体験なのですが、激安の新品自転車を通販で買ったら、次の月にはハンドルが曲がってしまったという事態に遭遇したことがあるんです(苦笑)。過酷な使い方をしていたわけではないのですが……。

フリスタメンバー

ユーザーとしてこういった経験をすると、EC全体に対して多少の不安を抱いてしまいますよね。そうなると購入率も低下してしまう。その観点では、Retailorのリコマース・レンタルにはメーカーのお墨付きが付いていて、安心感が担保されています。大きな可能性を秘めたサービスだと感じていますね。
張本:僕もそうですが、ユーザーの家に使われずに眠っているものってたくさんあるわけで。リコマースやレンタルであれば、そういったものを真に必要としている方々に提供できる。かつそれをブランド自身が行うことによって、持続可能な新たな成長エンジンとしても期待ができます。そうなると、メーカーは今まで宿命だった生産&大量在庫から解き放たれるんです。その未来に一体何が待っているのか。それをブランドの皆さんと創りあげていけることが、今から楽しみですね。