どこまでがディスレクシアのせいなのか?〜書かない授業で、短期記憶の力が伸びている〜
筆記用具に1秒たりとも触らない授業を始めて、もうすぐ1ヶ月?
英単語をカードを使用しながら覚える方法で、以前より覚えが良くなっているように感じます。本人も、「あれ、へんだな? どうして覚えているんだろう?」という感覚を持っているようです。
この授業を始めた頃は、やってもやっても定着しないので、このやり方は無理かな、と思いつつ、一つの仮説もあったので、本人も私も辛抱強く続けていました。ここにきて変化が見えています。
まず英単語カードは、以前に書いた”同時処理型”の人に快適な方法、で作る。
カードによる暗記といっても、棒暗記にはならないようにしている。
こちらから、例文をいくつも言ったり、本人に考えさせたり。
「whichと、どっち、って、音が似ているねー!」などと、音に注目させたり。
this, thatは日本語教室よろしく、「物を指す時」ということで、実際の物を置いて話したり(ええ、そこからなんです)、ついでに、「日本語の”それ”って、相手の近くにあるもののことなんだよ(「そういえば、ほんと、そうだ!へー!」)。外国語にはあまりないみたいよ。”これ”と”あれ”の二つだけって、日本語より簡単だねー」などという中身の対話をしたり。
「うーん。famousかぁ。中学生、って、この単語の意味を”人気がある”って憶えがちなんだよね(彼女もそうだった)。でも、人気がない有名もあるからさ(「うんうん」)。人気がない有名な人て誰だ?」
「ふわちゃん」
「ええー⁈人気ない?」
「炎上したから」
「まー、炎上はしたよねー。あ、Fの音繋がりで、覚えやすいかも!」などと、
あらゆるストーリーと結びつけながら、単語について対話する。
できるものは、語源の話などもする(まだそこまで複雑な単語は出てこない)。
そういうことはやっているのだが、それでも、”まとめてカードで覚える”時間はとっている(ストーリーの中で都度覚えるのではない、ということ)。
初めの頃は、苦戦した。
今まで学年ほぼビリから県でのトップレベルまでの100人ほどの中学生を個別指導してきたけれど、「これは・・・。ここまで覚えられないのは初めて。無理かも⁈」と思いつつ、一定程度の量の基礎的な単語の意味は覚えきらないと、あらゆる場面で話が前へ進まないので、手を替え品を替え、頑張った。
するとある日から、ふ、と、覚えられる単語の量が増えてきた。
授業時間内でも、不憫になって「もうやめようか」と思うほど、同じ単語を覚えられなかったのが、覚えられるようになってきた。
これはどういうことだろう?
”書けない”彼女は、単語を覚えるという局面に至るまでのハードル数が多すぎた。それが、覚えるだけ(ストーリーをつけて)という行為に特化したために、
初めて”覚える”という行為に集中することができたのでは?
自分の頭の中の”覚える”回路を、初めて意識的に使ったのでは?
そして、その回路ができてきて、覚えるスピードが上がったのでは?
この感覚は、以前もあった。
成績の振るわない生徒に、その生徒にフィットする方法で教え始めると、諦めから手をつけていなかった事項の能力(知識量ではない)が上がり、その能力で学校でのパフォーマンスも上がるというような。
目に見える”学力不振”は、全てが”学習障害”のせいではない。
既存のカリキュラムの中で、”学習障害”が文字通り”障害”となって、諦めを産み、もともと潜在している能力も開発されないでしまうのではないか。
既存のカリキュラムと違うプロセスで、もともとある能力が開発されることもあるんじゃないだろうか。
彼女が、どこまでいけるか。
今つけ始めた能力が、早々に頭打ちになるかもしれないが、
彼女自身
「学校の英語もわかるようになってきたから、前ほど辛くない」
と言っていることから、
少し調子に乗って、でも慎重に、
彼女に合った学習方法を進めていきたい。
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