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中~大規模ハイブリッド型イベントの注意点

誰のためのnote?

会場にもお客さんがいて、オンライン配信も同時にやりたいという方向けです。特に、今まで小規模のイベントしかやってこなかった小規模配信事業者が、100人以上の規模の大きな会場でオンラインイベントを行う場合の注意点について書いています。

注意点と偉そうに書いてますが、要は僕が苦労したところです。

会場が大きいと何が違うの?

一言で「会場が大きい」といいますが、具体的に横20m、ステージに向かって30mくらいの会場を想像してみましょう。そのような大きな会場での配信の実務では何が違うかというと大きなものは大きく分けて4つです。

①ケーブルの引き回し距離が長い
②会場のスピーカー出力が大きく、ハウリングしやすい
③最適なBGM/マイク音量バランスが、会場と配信で異なる
④スタッフと機材、スタッフ同士の距離が遠い

何が影響をおよぼすのか、対策も合わせて簡単に書いていきます。

①ケーブルの引き回し距離が長い

今までに小規模のイベントを配信されていた方は、おそらくビデオカメラを5mや7.5mのHDMIケーブルで接続して配信されていたのではないでしょうか。しかし、20m×30mの会場でセンター、上手下手にカメラを配置するとカメラとスイッチャーの距離が10m、配信卓とカメラの位置関係によっては30mになることも多くあります。メタルのHDMIケーブルでは10mを超えると映像が途切れたり、全く届かなくなったりすることが頻繁に発生するようになります。ではどうすればいいかですが、いくつか対応方法があります。

おそらく導入しやすいこのあたりをご紹介します。
・光ファイバー製のHDMIケーブルを導入する
・給電されている分配器や中継機で中継する
・SDIやLANケーブルに変換する
・無線に変換する

①-1:光ファイバー製のHDMIケーブルを導入する

通常の(メタルの)HDMIケーブルはおよそ10mを超えると信号が途切れたりしますが、単純に「もっと長く伝送できるHDMIケーブルを導入しよう」というものです。従来の機材を買い替えることなく、民生用の安価な機材をそのまま使えるというのが最大の利点です。
一方で、最大の欠点は扱いづらいことです。特に折れや引っ張りに弱く、10cm未満で曲げると危険だったり、巻取の際に引っ張ると簡単に使い物にならなくなります。
また、通常のHDMIケーブルとは違って、入力端子と出力端子が決まっているため注意が必要です。30mや50mを敷設し直すのは悪夢です。
取り扱いに注意すれば、導入は比較的ラクでしょう。

①-2:給電されている分配器や中継機で中継する

本来はあまりおすすめできないのですが、従来の機材を使い回しやすいということを重視して2番めにご紹介します。

メタルのHDMIケーブルが長距離伝送に不向きなのは単に電流が足りなくなるためですので、給電されている分配器や中継機を使って電流を足してあげればいいんです。
メリットは、従来の機器がそのまま使用できること。デメリットは、中継機の場所に必ず電源が必要だということです。

さて、どんな機材を使うかですが・・・「給電されている」が重要ですので、こういうのはNGです。

きちんと給電されていればまあ大丈夫なのですが、経験上は家庭用の製品はおすすめしません(そもそも家庭用の製品は10mや20mのケーブル長を想定していない)。以前「オンライン配信事業を1年間やってみて買ってよかったもの5選」でもご紹介したこちらがサイズも小さく、取り回しやすく、更に機材がSDIに転換しても継続利用できておすすめです。

①-3:SDIに変換する

これは、カメラやスイッチャーの入出力をHDMIのままで、途中を長距離伝送に適した方式で距離を稼ごうという方法です。具体的にはSDIに変換すればよいです。およそ100mまでは対応可能です。
メリットは従来の機材をそのまま利用可能であることと、将来SDI(同軸ケーブル)に機材を更新した際にケーブルを利用可能であること、デメリットは「HDMI→SDI→HDMI」と、1本のケーブルにつき2個ずつ変換機材が必要であることです。
※LANに変換する方法もありますがここでは省略します

おすすめ機材は、前項でもご紹介したBidirectional Converterです。単に変換するだけならbidirectionalでなくてもいいのですが、なにせこのシリーズは見た目が全部一緒なので全部同じ機材で揃えたほうがストレスがなくて良いです!(力説)間違えたときに機材を取りに行くのも遠いので・・・。

①-4:無線に変換する

ケーブルが無理なら無線で飛ばしてしまえ!という力ずくの方法です。嫌いではないです。
メリットは、ケーブルトラブルがないこと。見通しがあれば直線距離で伝送可能であること。デメリットは、有線に比べて信頼性に劣ること、機材の価格が高いことです。

無線伝送ですと、お手頃なのはhollylandのmarsシリーズです。私はSDIでもHDMIでも使える400S PROを使っていますが、信頼性が必要な現場ではよほどのメリットが無い限り無線伝送は使わないほうが良いです。

②会場のスピーカー出力が大きく、ハウリングしやすい

オンラインのみに配信する場合は、会場にスピーカーが有りませんのでハウリングはほぼ発生しません。小さい会場でしたら、スピーカーから出てくる音は小さいので、スピーカーの音をマイクが拾うことは少ないです。
しかし、大きな会場になるにつれてスピーカーの音をマイクが拾いやすくなり、「キーン」「ボーン」というハウリングが発生しやすくなります。そこまで明確なハウリングでなくても、マイウの音がキンキンするなどもハウリングの一種です。

防止するには「PAとしてのスキルを上げる」という身も蓋もない答えになってしまうのですが、機材でカバーしようとすると
・高機能なミキサーを導入する
・ハウリングを抑制できる機材を導入する
といった対応が考えられます。

ハウリングは、
1. マイクが拾った音をアンプが増幅する
2. アンプが音を増幅してスピーカーから出力する
3. スピーカーからの音をマイクが拾う(1に戻る)
という仕組みでどんどん音が大きくなってしまう事によって発生します。

また、同じ機材でも会場によって異なる周波数で発生します。そのため、その特定の周波数の音だけを小さくすることによって防止することができます。したがって、導入する機材はその特定の周波数をコントロールできる機能(例:グラフィックイコライザー)があるものになります。

②-1:高機能なミキサーを導入する

最近のデジタルミキサーでは、グラフィックイコライザーやハウリング抑制機構を備えたものもあります。初級機でも30万円オーバーする機材ばかりですが、それでも非常に効果的です。

比較的安価なところですと、私が購入したのはフェーダーレスのAllen & Heath Qu-SBです。現時点でも1~3ヶ月待ちですが、同価格帯のYAMAHA TFシリーズよりは入手が容易かと思います。

②-2:ハウリングを抑制できる機材を導入する

ワンオペでの配信だとミキサーに張り付いていることはできないことも多いので、できるだけ細かい作業は自動化したいところです。

そこでおすすめしたいのが「dbx Venu360(サウンドハウス)」です。10万円オーバーの機材ではありますが、既存のミキサーに接続して使用することもできますし、ウィザードが非常に充実しているので初期設定も簡単です。マジで。

この機材で一番いいのは、AFSという独自アルゴリズムによってハウリングを起こしそうになった周波数を自動で検知して、ハウリングを防止してくれる機構です。

「LIVE」とある周波数が自動でハウリング防止設定がされた周波数

事前にマイクを使って会場の響きを測定したFIXEDという周波数と、リアルタイムで測定して調節したLIVEという周波数があります。あ、ハウりそうだな、と思ったときにはすぐに設定され、抑制してくれますのでミキサー側のグラフィックイコライザーを操作することは(ハウリング抑制の目的では)ほぼ有りません。

③最適なBGM/マイク音量バランスが、会場と配信で異なる

これは企画によるところではありますが、多くの場合発生する事象です。経験が少ないとピンとこないと思いますが、エンターテインメント要素の強いステージですと、BGMを会場スピーカーのには0dBで、配信には-20dBで送るということは割りとあります。
会場はウーファーもガンガン効かせて、がならないと声が通らないくらいのバランスのほうが熱気が出て良いが、配信でそのバランスだとうるさくて聞いていられないのでBGMを抑えめにして声を通しやすくする、といったこともあります。したがって、会場スピーカー、配信先の媒体などに別々の音を送れるミキサーが必要です。

機材としてはおそらく改めて購入することはあまりないと思いますが、耳が足りなくなっていきます。そこでちょっとおすすめなのが骨伝導イヤホンです。インカムを左耳に、ミキサーのL/Rを右耳に、zoomへの送りを骨伝導イヤホンで聴くという聖徳太子も可能です。

④スタッフと機材、スタッフ同士の距離が遠い

①は機材と機材の距離が遠いという課題でしたが、これはスタッフとスタッフ/機材の距離です。
小さい会場だと、スイッチャーを見て色を見て、カメラを調整してまたスイッチャーのモニタを見て・・・と言った色合わせは一人でも可能ですが、手元のスイッチャーと30m先のカメラを一人で調節するのは非常に面倒です。
また、眼の前のスタッフにはヒソヒソ声で喋ることでコミュニケーションを取ることができますが、本番中に30m先のスタッフとコミュニケーションをとるために毎回持ち場を離れて話に行くことはできません。ましてや、叫んで要件を伝えることはできません。
つまり、ここで発生する課題は
・遠いスタッフとのコミュニケーション
・遠い機材を遠隔操作
です。

④-1:遠いスタッフとのコミュニケーション

配信は必ずインカムを使います。これは以前も書いた通りなので再掲します。

いくらでも話せる副調整室がある現場なんてほとんどない小規模配信事業だと、インカムがあるのとないのとではコミュニケーションの精度がまるで違います。

いいところ:現場のコミュニケーションが円滑になりミスが激減

ないときは手招きしてADを呼び、耳打ちして用件を伝え、全員に伝言させる。耳打ちしている間はスイッチャーから目を離す必要があるが、インカムがあるとボソッと一言言えば終了です。他にも、
・カメラさーん、ちょっとフォーカス甘いです
・今5分押してるけど休憩時間そのままいくか確認して
・この後Zoom操作あります、担当は注意です
・あ、テロップ上がったままです。落としてくださいー
・マイクあがってない!
・雑談(眠気防止に重要)
といった、みんなの一言がちょいちょい入ってくるだけでミスが激減します。ウチでは、大きい案件では必ず使います。

オンライン配信事業を1年間やってみて買ってよかったもの5選

手頃なインカムは非常に悩ましいところですが、手を出しやすいのはhollylandのT1000かSolidcomC1(2人、4人、6人、9人用があります)がオススメです。T1000がダイナミックマイク、SolidcomC1がコンデンサーマイクなので、音楽現場が多い方はT1000、カンファレンスの方はSolidcomC1がおすすめです。SolidcomC1はバックパックがないので非常に使い勝手が良いです。T1000より買ってよかったとおすすめできます。

④-2:遠い機材を遠隔操作

中~大規模のイベントをスタッフを増やして行うのも良いですが、人が一番高いので機材でカバーすることで原価を押さえていくことも大変重要です。そのため、遠く離れた機材を手元で操作できる環境を整えましょう。

最近は、かなりの機材において無線/有線LANで同一ネットワークにあれば機材を操作できるiPad、iPhone、iOS、Windowsアプリケーションが提供されています。したがって、まず考えることはすべての機材を同一ネットワークに接続するということです。

私はハブを用意して、有線で接続可能な機材は有線で、無線でしか接続できない機材についてはハブにこのような中継機を接続してSSIDを設定し、同一ネットワークにします。

そうしたら、かなりの部分で遠隔操作できるようになります。一例をご紹介します。

Roland V-160HDやV-8HDではこのようなアプリが提供されています。カメラの前でiPadアプリで会場のスクリーンに写っている映像をスイッチしつつ色を見ながらカメラの設定を変更することができます。

V-160HDのiPadアプリ。はっきり言って本体より使いやすい

Allen&HeathのQu-16などでもアプリケーションが提供されています。iPadのでフェーダーを動かすと、実機のモーターフェーダーがグリグリ動くのは気持ち悪いですが非常に便利です。また、iPad Proなど大画面のタブレットを利用すると、実機よりもディスプレイが大きいので操作がやりやすいです。

Allen&Heath Qu-16のiPadアプリ。購入前にデモで触ることも可能(Qu Padで検索)

dbx Venu360でもアプリが提供されていて、実機の100倍わかりやすいので必ずネットワークに繋げることをおすすめします。

Venu360のWindowsアプリケーション。実機に比べて実にリッチであることがわかります
Venu360の実機ディスプレイ。上記Windowsアプリケーションと同じメニューを表示しています

さいごに

今回ご紹介した機材は、京葉映像配信技術研究所で実際に使用したものです。こういう機材を取り揃えて小規模~中規模のハイブリッド配信を多数行っておりますので、気になる方はHPからお問い合わせください!

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