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大御所推理作家たちによる『こち亀小説版』は”両さん”を描けていたのかどうか。

全200巻で幕を閉じた伝説のジャンプコミック『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。

その『こち亀』には小説版があります。

7人の大御所推理作家が名を連ねたアンソロジースタイルになっていまして、それぞれの先生が「これがこち亀だろう!」という切り口を見つけて短編小説に仕上げています。

大沢在昌、石田衣良、今野敏、柴田よしき、京極夏彦、逢坂剛、東野圭吾と大変豪華な並びで推理作家版「七人の侍」とでも申しましょうか。

監修に日本推理作家協会となっているのも納得なわけで。

2007年に発売したこの小説版ですが、やはり気になるのは「両さん度」。

どれだけ両さんらしく描かれているのか、両さんのどういった面を切り口にして描かれているのかについてレビューをいたします。

※以下、すこしネタバレを含みますのでご了解の方はお読みください。


1:幼な馴染み 大沢在昌

浅草での両さんの日常を下町感覚を漂わせて描いているあたりがなんともかぐわしい大沢先生の世界観で。「下町人情もの」としてのこち亀エピソードのラインを思わせるストーリーで落ち着いた大人の両さんが出てきます。大沢先生の作品にも流れている味わい深い人間ドラマで素敵です。


2:池袋⇔亀有エクスプレス 石田衣良

まさに『池袋ウエストゲートパーク』な話で石田先生の世界観にひょっこり両さんがゲスト出演しているような楽しいストーリーです。両さんを”スーパーコップ”としての伝説に仕立てた語り口がまたいいですね。両さんのネットワーク力や気まぐれに人助けをするかんじが出ています。


3:キング・タイガー 今野敏

真打は終盤で登場という『ゴルゴ13』スタイルの異色作です。この構成を描き切るのは相当に大胆で驚愕しました。戦車愛といいますか、プラモ愛といいますか。『こち亀』とは離れた構成でありつつも限りなく両さんのプラモエキスパートとしての濃い部分を描き切る短編で構成美にうなりました。


4:一杯の賭け蕎麦 柴田よしき

なりゆきまかせのようなストーリーからちょうどよい「特製激辛蕎麦早食い競争!」が出てくるあたりがなんとも『こち亀』的な起承転結を描いています。『こち亀』で初期からよく出てくるスタイルで”競技に挑む”ながれを忠実に組んでいる印象です。


5:ぬらりひょんの褌 京極夏彦

ここで。ここにきての”ぬらりひょん”投入。京極先生の豪華な采配がもう圧巻です。しかも大原部長と寺井のかけあいがまたとても心地よく。この作品にいたっては京極先生のワールドにむしろ『こち亀』メンバーが仲間入りしたようなところもあり、どちらのファンも必見のレア短編かと。


6:決闘、二対三!の巻 逢坂剛

この話だけちょっとすみませんが、見たことのない両さんと麗子が出ているかと。麗子が「両ちゃん、チャカを手に入れるめどが、ついたんですって」という台詞で一気に「これは一体」と思ってしまいました。見たことのない両さんと麗子のアレンジという面で面白かったです。


7:目指せ乱歩賞! 東野圭吾

結論からいいますとこちらが一番『こち亀』であり、両さんでした。「知識」が出てそれに金脈を見出した両さんががむしゃらに挑むという、まさに『こち亀』です。文章で読んでいるのに漫画で読んでいる感覚とがっちりシンクロしているにも関わらず、ちゃんと推理作家にしか描けないゾーンの専門領域を見せていまして最高な読後感でした。


というわけであまりに豪華な顔合わせによるそれぞれ違った切り口の両さんを見ることができる小説版『こち亀』は、漫画と小説の素敵な合同祭りとなっていました。推理小説ファンも『こち亀』ファンもお楽しみいただけたらと思います。





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