『普通じゃないってだけの話』一話あたりちょろっと
結構前に書いた自作脚本『普通じゃないってだけの話』の冒頭の続きのようなものです。あの頃はタイトルも仮で『普通の人が良かったなあ』でしたね。結構前なので設定とかもちょこちょこ変えていますし、続きと先述しましたが、まあ全然繋がっていないかもしれません。一応前回の記事はこちら↓
少し名前だけ聞いたことのあるような人材派遣会社に、学校帰りスマホの地図を頼りにやってきた富士野。
自動ドアを潜り、一階の受付には行かず、エレベーターを探す。
途中警備室の警備員と目があったため会釈をする。
エレベーターに乗り三階へ向かった。
交通事故に遭い、本来ならば即死していたはずの富士野だったが、何故か加護や呪いといった、人智を越えた力を持っていたため、生き延びることが出来た。富士野は自然治癒能力が驚異的に高く怪我が一瞬で治る《超回復》の加護を持つ。しかしそれは生まれながらのものではなく、交通事故に遭ったから判明した力である。今現在高校二年生になった初夏、いつの間にそんな大層な力を身に付けたのだろう。小学生の頃には遊んで怪我が多かったし、中学生の頃は骨折もした。高校生ではどうだろう。大した怪我はしたことが無いから分からないが、多分交通事故までそのようなものは無かった気がする。
交通事故の後に入院した先で、院長であり加護を研究している井野と話し合った内容である。
井野曰く、人智を越えた力を持つ者は、一般的ではないが、少なからずいるらしく、そういう人たちを保護したり力を研究する組織があるとのこと。東京にその組織の支部があるとのこと。東京支部は主に四つに分かれており、第一部隊は東京支部の総括、井野率いる第二部隊は加護の研究、第三部隊は呪いの研究、第四部隊は加護や呪いに関する事件の調査と解決をそれぞれ任されている。部隊と区分されている由縁は、昔は力を持つ者を守るために戦っていたという過去があるため、らしい。
そして今日。
新たに加護を持つ者、カゴモチとなった富士野は第一部隊に身分を登録しなければならないらしい。そのため、第一部隊が経営する人材派遣会社に来ていた。
三階へ行くと電話だけが置いてあって誰もいないカウンターがあった。電話の近くに、御用の際はこちらまで、と内線番号が書かれた紙が貼ってある。富士野は電話することにした。
??「はい、こちら管理部の玉栄です」
男性が出る。
富士野「あの、すいません、こちらで加護の登録が出来るって聞いて来たんですけど」
玉栄「加護の登録ですか?すみませんがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
富士野「あっ富士野です」
玉栄「富士野様。加護を持ったのはいつ頃ですか?」
富士野「いやあ、それが分からなくて。すいません」
玉栄「何か加護を証明できるものはございますか?」
富士野「井野さんが書いて下さった証明書ならあります」
玉栄「井野さん……。第二部隊の?」
富士野「はい」
玉栄「そうですか。では担当のものがそちらに向かいますので、しばらくお待ちください」
富士野「はい」
玉栄「それでは失礼します」
電話が切れてから、富士野は受話器を元に戻した。慣れないことに疲れ、喉が渇いたため鞄から水筒を取り出し水分補給する。その後手持ち無沙汰に待っていると、カウンターの側のドアから、何やらとんでもなくキラキラと輝いたイケメンが出てきた。
そのイケメンは顔が実写版ハウルのようで、実際髪型も近しいものを感じる。ワイシャツに黒いズボンというシンプルな出で立ちにも関わらず、スタイルの良さで何だか特別な衣装を身に纏っているように見える。また、大きめでほんのり水色に輝いた半透明の水晶のようなものが付いているイヤリングによってイケメンがキラキラとしている。イケメンって眩しいんだなあと富士野は思った。
??「富士野さんですか?」
富士野「えっはい」
??「担当の張間です。どうぞこちらです」
張間は先程のドアを開け、富士野に入るよう促す。ドアの先には職員と思われる人々が各々仕事をしていた。それを横目にどんどん歩を進め、会議室とプレートが掲げられている部屋へと入った。
張間「ではこちらにどうぞ。」
富士野「あ、失礼します」
張間「……何かお茶でもご用意しましょうか?ちょっと最近暑くなりましたし」
富士野「いえいえ!大丈夫です」
張間「そうですか。えっと、それじゃあ早速本題に。その前に身分証明書と井野さんから貰った証明書を見せてもらえますか?」
富士野「ああ、はい、ちょっと待ってください」
富士野は学生証と加護証明書を張間に見せた。
張間「ありがとうございます。学生さんですよね。今日親御さんは?」
富士野「あー、えっと」
張間「一応未成年の方の登録には親御さんと来てもらうか、何かしら親御さんからの許可をもらう、例えばこの後渡す書類にサインするとかね。そういうのが必要になってくるんですが」
富士野「うえ、んー、すいません、その、親がこの力のこと嫌がってるみたいで」
張間「はい」
富士野「その、加護を持ってから、あんまり仲が良くなくなったと言いますか、力のことは家族に言えなくなっちゃって」
張間「ああ、そうでしたか。一応原則では未成年の場合親御さんの了承が必要ですが、結構いるんですよね。親御さんの許可とれないって言うか、力がきっかけで仲悪くなったり、まあ元から仲悪いっていうパターンもありますが。そういう場合は別に大丈夫です。大事なのは本人の了承なので」
富士野「はあ」
張間「今日やってもらうのは、こちらの書類ですね。富士野さんのお名前生年月日ご住所電話番号書いていただいて、ここに力、加護なので加護に丸つけてもらって、その横に力の名前ですね。超回復とお書きください。で、下にこちらの加護の研究の際に協力してくださるかどうか、はいかいいえどちらかにチェックをお願いします。そして、二枚目の書類の規約です。力を悪用しないとか、みだりに人に言わないとか、読んでおいてください。その間に学生証と紹介状をコピーしてきます」
張間、一度部屋から出る。
残された富士野は規約を読んだあと、書類の記入欄を埋めていく。書き終わっても張間は帰ってこないので、部屋を見渡したりもう一度書類を読んだりして待つ。
少しして張間が戻ってくる。
張間「お待たせしましたー。書けましたか?」
富士野「はい」
張間「ではちょっと確認しますね。その前に、はい、学生証と紹介状、お返しします」
富士野「ありがとうございます」
張間は富士野が書いた書類を確認しながら、日付や職員記入欄に何か書いていく。
張間「……はい。ありがとうございます。これで登録完了です。」
富士野「ありがとうございます」
張間「それでは本日はこれで」
富士野「え?」
張間「出口までお送りしますね」
富士野「えっと、いやあ」
張間「どうされました?」
富士野「……これで終わりですか?」
張間「はい。以上です」
富士野「……」
張間「富士野さんの加護は人前で怪我をしない限りは力がない人と変わりありませんから、怪我にだけ気をつけてもらえれば、日常生活に支障はありません」
富士野「はい」
張間「ふふん、ちょっとがっかりしました?」
富士野「はい?」
張間「だって、力を手にしたんだから漫画の主人公になれるんじゃないかとか考えるでしょ?」
富士野「はは、まあ」
張間「実際、こっちも井野さんからの紹介って言われて驚きました。あの人は第二の長だから、あの人経由で紹介されるのってなかなかですよ」
富士野「そうなんですか」
張間「そうですよ。でもまあどんなに強い力を持っていたところで、人間ですから。犯罪を犯せば捕まりますし、ああ、超回復があるからって寝なかったり食べなかったりしたら体調悪くなると思いますよ。富士野さんの加護は外傷には強いらしいですが、風邪とかにはどうなるかまだわかりませんし。まあ、健康であるのが一番です」
富士野「そうですね。はい」
張間「俺たちはほんのちょっと力を持っていて、ほんのちょっと普通じゃないってだけの話です」
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