『普通じゃないってだけの話』思い付いたところだけ

この演劇企画フラテとレオでたまに記事にしている、自作脚本の『普通じゃないってだけの話』。

要約すると、人智を越えた力を持つ人がいる世界で、ひょんなことから【超回復】という怪我がすぐに治る力を手に入れた普通の男子高校生である富士野くんのお話です。

そして今回はその中でも、【周りに不幸を呼ぶ】呪いを持っている穂積さんと富士野くんの、落ちなしのんびりハートフル日常話です。


日曜日。

富士野は派遣会社から、本日とあるレストランのヘルプを言い渡された。そこでその、ある程度名の知れたレストランに向かう途中、電車の改札で、見たことのある背格好が突っ立っていることに気づいて声をかけた。

富士野「穂積さん?」

穂積「え?ああ。」

富士野「こんにちは。」

穂積「こんにちは。」

富士野「待ち合わせですか?」

穂積「ああ、いや、ちょっと。」

富士野「?」

穂積「疲れたからコーヒー飲んでて。」


穂積の手には缶コーヒーが握られていた。


富士野「ああ、お疲れ様です。」

穂積「流石に慣れたとはいえ、歩きにも限度がありますね。」

富士野「歩き?」

穂積「ああ。あ?知らないか。俺が公共交通機関に乗ってみたら?すぐ事故る。」

富士野「あー、いやあ、そんなあ。」

穂積「いいよ、気にしないでください。」

富士野「……。」

穂積「君はどうしてここに?引き留めてしまいました。」

富士野「今日はそちらのレストランのヘルプを頼まれてますから。まだ時間ありますし、大丈夫ですよ。」

穂積「そうでしたか。じゃあ、先にどうぞ。」

富士野「え?穂積さんは?」

穂積「俺は一緒に行くと……。」

富士野「ああ、気にしませんよ。もしも怪我しても俺、すぐ治りますし。」

穂積「怪我をさせるのに問題があるんだが。」

富士野「大丈夫ですって。行きましょう。」

穂積「……。」


穂積は渋々といった調子でついてくる。

しかし案の定、穂積の《周囲に不幸を呼ぶ》呪いは彼自身の意思とは関係なしに発動してしまう。横断歩道は全て赤であり、駐車していた自転車は何の前触れもなく雪崩のように倒れ、富士野の足に向かってビニール袋と新聞紙が飛んできた。挙げ句の果てには看板が倒れてきた。

富士野「うっわ!ああ、やっば!」

穂積「大丈夫か?」

富士野「ええ、まあ。間一髪でした。」

穂積「不幸だ……。」

富士野「いやいや穂積さんのせいでは。」

穂積「俺のせいですよ。俺には何もないのに。」

富士野「分かってますから。俺は大丈夫です。」

穂積「……。」


富士野、その間に看板を元に戻す。


富士野「ほら、看板も倒れただけで壊れてないみたいですし。行きましょうよ。」

穂積「……手を。」

富士野「え?」

穂積「手を繋ぎましょう。」

富士野「はい?」

穂積「俺の呪いは周囲を不幸にします。逆に言えば俺はずっと無事です。昔周りが食中毒に罹ったときも、インフルエンザに罹ったときも、俺だけは元気でした。だからなるべく俺の近くにいれば、安全なんです。」

富士野「えーっと、手を繋ぐの、他の人にもやってます?例えば、張間さんとか。」

穂積「張間ぁ?やるわけない。」

富士野「ですよねー。」

穂積「隊長とは繋ぎますよ。」

富士野「まじですか!いや、でも、確かに違和感なさそう。」

穂積「とりあえず繋ぎましょう。」

富士野「うええ、ああ、えー、あい。」


富士野は何故かズボンで手を拭ってから手を差し出した。そして穂積は何の躊躇いもなくその手を掴んでずんずん歩き出した。思春期真っ只中の富士野は妙に恥ずかしくて口元を繋がれていない方の手で抑えながらにやけていた。


富士野「何か、大丈夫ですか?穂積さん。」

穂積「何が?」

富士野「人間関係とか……。」

穂積「まあこの呪いのせいで難ありでしたが、今は慣れましたね。」

富士野「そうですか……。」

穂積「はい。」

富士野「そうですか……。」



呪いのせいで人間関係分からなくて距離感バグってる穂積さんと、手を繋ぐのは恥ずかしいけどあまりの穂積さんの純粋っぷりに負けちゃう富士野くんのお話。




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