『普通じゃないってだけの話』は日常回ばかり
こんばんは、里です。もう演劇企画フラテとレオでおなじみになったきた自作脚本『普通じゃないってだけの話』は設定のわりにそんなに事件も起こらず、まあ、なんか、ちょっと変な力を手に入れた人たちのドタバタドラマ程度に思ってください。この脚本の設定や小話は過去の記事からどうぞ!『創作ボックス』マガジンに入っています。
そして今回は主人公の男子高校生、富士野くんと、アルバイト先の教育係である張間さんのお話。
教室。富士野は五限と六限の間の休み時間で特にやることもなく、ぼんやり自分の席に座っていた。近くの席では、女子たちが楽しげにお喋りをしている。
「ねえ聞いた?昼休みのさ。」
「イケメン?」
「やばいよね。」
「出待ち?」
「不審者じゃん。」
「それな。」
「警察呼んだって。」
「やばー。」
「でもイケメンなんでしょ?」
「見たかった。」
「分かる。」
「出待ちって誰待ってたんだろ。」
「好きな人?」
「まじ?」
「ストーカーじゃん。」
「やばい無理。」
富士野は全く知らなかったが、昼休み、校門に男性が立っていたという。その男性に警備員が声をかけたところ、とある生徒を待っているとのことで、警備員は職員と相談して男性を不審者と見なして警察を呼んだそうである。女子たちは一体どこからそういう情報を知るのだろうか。富士野にとっては不思議であった。それにしてもその不審者、とんでもないイケメンだったらしい。だから女子たちがいつもよりも盛り上がっているのだろうか。そういえば、とんでもないイケメンといえば、と富士野は自分のアルバイト先の教育係を思い出した。教育係の男性、張間は初めて見たとき、ハ●ルの動く城のハ●ルの実写版か?画面から出てきたのか?と思えるほどにイケメンだった。ただしとんでもないイケメンは服のセンスが独特で、言動もそこまでイケメンではない。もしも出待ちしていた不審者が張間さんだったらウケる。富士野はさらっと失礼なことを考えていた。終礼の際に担任から、不審者が出たので注意して下校してください、と言われた。
さて、富士野は今日の放課後アルバイトに勤しむため、一度家で着替えた後、勤務先の人材派遣会社に足を運んだ。ロッカー室に荷物を入れに行く途中、この会社の役員であり第一部隊の副隊長である鵜飼と会った。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。あれ?富士野君。」
「はい?」
鵜飼ほどの偉い人とそこまで関わりがない富士野は、まさか呼び止められるとは思っておらず、返事が若干上擦った。
「張間君は?一緒じゃないんですか?」
「張間さん?いえ、一緒じゃないです。」
「ん?張間君、富士野君を迎えに行くって昼間出ていったんですよ。」
「え?会ってないですよ。そうなんですか?」
「うん。んー?どうしたのかしら。」
「連絡しますか?」
「いや、私が後でやっておきます。富士野君はお仕事頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
「そういえば、さっき警察から電話があって、張間君が捕まったんですって。全くオレオレ詐欺は困るわよね。ぶち切ってやったわ。」
「……おお。」
「富士野君も気をつけてください。」
「あー、僕の学校も、不審者が出たみたいで。」
「え?大丈夫でしたか?」
「大丈夫ですよ。不審者捕まったみたいなので。」
「そうですか。でも心配ですね。なんなら今週はアルバイト休みますか?」
「え?」
「家にいた方が、安全でしょうし。」
「いえいえ、大丈夫ですよ、俺は。」
「そうですか?何かあったらすぐに言ってくださいね。」
「はい。」
「こういう治安が悪いときに張間は何やってるんでしょうね。張間君なら盾くらいになるでしょうに。」
「いやいや、そんな。」
「ふふ。引き留めてごめんなさいね。もちろんこの時間も時給はあるから安心してください。」
「はあ。」
「では頑張ってね。」
「……あの。」
「はい?」
「……噂なんですけど、学校に出た不審者、とんでもないイケメンだったみたいです。」
「……。」
「……。」
富士野と鵜飼の頭に、一人の人間の顔が思い浮かんだ。
張間さん……何してるんですか?
俺くらいイケメンなら出待ちも許されると思った。
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