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グローセス・ゲヴェクス等の基準管理組織について

ワイン規則改正に関する連邦参議院修正で、グローセス・ゲヴェクス(Großes Gewächs)等の規定が追加されたが、この規定の中で、ドイツワイン法・ワイン規則でこれまであまり用いられることのなかった用語が登場している。
すなわち、"Schutzgemeinschaften"(:複数形。単数ではSchutzgemeinschaft。直訳すれば「保護共同体」)と"Branchenverbände"(複数形。単数ではBranchenverband。直訳すれば「業界連合団体」)である。

グローセス・ゲヴェクス等に関する規定では、クヴァリテーツヴァイン(Qualitätswein)であることが前提と定められているが、今般のドイツワイン法改正(収穫時のブドウ糖度に基づく品質等級から産地の広狭に基づく品質等級への転換)で、クヴァリテーツヴァインに関するルールは原産地呼称保護ワイン(g.U.)に関するルールと基本的にイコールとなっている。
そして、保護されるべき原産地呼称を管理するSchutzgemeinschaft、或いはBranchenverbandが、グローセス・ゲヴェクス等が満たすべき基準(品種、官能検査、果汁の最低潜在アルコール度数、最大収量、畑の区画等)を決めることとされている。

【Schutzgemeinschaft】
Schutzgemeinschaftという用語は、法令上の定義はなく、これまでワイン法及びワイン規則の中で用いられたこともなかった。ワイン関係者の間では、一般に、ワイン法第22g条に基づき認定される、保護される生産地名称(原産地呼称又は地理的表示)を管理する組織を指すものとして用いられている。

ワイン法第22g条は、次のような内容を定めている。
① 州政府は、規則により、原産地呼称又は地理的表示について保護されるべきエリアの一つ又は複数を管轄して、当該呼称又は表示を管理するための組織が認定されるべきことを規定することができる。複数の州にまたがる生産地域については、エリアの大部分の属する州が認定を行うが、認定には他の州の了解を得る必要がある。
② ①により認定された組織は、原産地呼称保護ワイン又は地理的表示保護ワインの生産基準明細(Produktspezifikation)の登録・変更の申請を連邦農業・食糧庁(連邦食糧・農業省の執行機関で、ドイツ全土に4か所の事務所を有する)に対して行う。
③ ①の規則では、認定される組織について次の条件を満たすべきことを規定しなければならない。
・ 原産地呼称又は地理的表示のエリアの生産者を十分に代表するグループで構成されるべきこと。具体的には、構成員のワイン畑が面積の2/3を占め、かつ、ワイン生産量の2/3以上を占めている必要がある。ワイン生産量は、クヴァリテーツヴァイン(原産地呼称保護ワイン)の場合は公的検査を経たクヴァリテーツヴァインの量、ラントヴァイン(地理的表示保護ワイン)の場合は販売されるラントヴァインの量をベースに計算する。
・ 各々のエリアの状況に応じて、ブドウ生産者及びワイン生産者の双方を適切に代表する構造とするためのルールを定めること。

上記に基づき各生産地の生産者を代表して原産地呼称保護ワイン又は地理的表示保護ワインの基準を管理する組織がSchutzgemeinschaftであり、グローセス・ゲヴェクス等の基準も原産地呼称の管理組織に委ねられることとなった。

【Branchenverband】
業界団体に関しては、これまでのワイン法では、基本的に、規則制定時等に実施を義務付けられた意見聴取の対象として規定されているのみであった。
今般のワイン規則改正では、グローセス・ゲヴェクス等の基準を定める組織として、業界団体もSchutzgemeinschaftと並列で規定されている。
これは、グローセス・ゲヴェクス等についてのルールをこれまで定めてきたのがVDP等の業界団体であった、という経緯を踏まえたものであることは容易に想像できる。

【参考:従来のヘッセン州のエアステス・ゲヴェクスに関して】
これまで、グローセス・ゲヴェクス、エアステス・ゲヴェクスについては、主にVDPによってルール作りがなされてきたが、唯一、ヘッセン州が州法レベルでエアステス・ゲヴェクスについて規定を設けていた。その内容を確認しておくこととする。

「ワイン法及びフィロキセラ対策に関するヘッセン州規則」第10条では、次のように規定されている。
「ワイン規則(第30条第1項第2号b)が定める『品質保証のしるし』("Gütezeichen")として、『エアステス・ゲヴェクス』を認める。利用者はラインガウ・ワイン生産者連盟(Rheingauer Weinbauverband)であり、同連盟は管轄省の同意を得て、認証の付与やマークについての細則を定め公表するものとする。」

この州規則を受けて、ラインガウ・ワイン生産者連盟が細則を定め、エアステス・ゲヴェクスは、1999年から2017年まで法令に基づくラインガウの最上級ワインの認証とされてきた。
2018年ヴィンテージからは、ラインガウ・ワイン生産者連盟による認証は、VDPの最上級名称に合わせる形で「ラインガウ・グローセス・ゲヴェクス」(RGG;Rhg Grosses Gewächs)と変更されたため、州法に基づかないものとなってしまっている。

ラインガウ・ワイン生産者連盟が定めたエアステス・ゲヴェクスの主な基準は、以下のようなものであった。
① 品種はリースリング又はシュペートブルグンダーに限る
② 学術調査報告に基づき等級付けされた畑の区画で栽培されたものに限る(ラインガウ全体の畑面積の約3分の1に当たる1,100ヘクタールが認定された)
③ 最大収量は1ヘクタール当たり50ヘクトリットル
④ 手摘み
⑤ 味わいとしては辛口であること。リースリングについては収穫時の糖度がシュペートレーゼの基準以上で、製品のアルコール度数12%以上、残糖は13g/l以下。シュペートブルグンダーについては収穫時の糖度がシュペートレーゼの基準以上で、製品のアルコール度数13%以上、残糖は6g/l以下。
⑥ 販売が認められるのは、リースリングは収穫翌年の9月1日以降、シュペートブルグンダーは収穫翌々年の9月1日以降
なお、上記の基準は、⑤のリースリングの残糖が9g/l以下と引き下げられた(「辛口」=trockenの表示が可能な数値に揃えた)以外はほぼそのままRGGに引き継がれている。

ラインガウのエアステス・ゲヴェクスは、ヘッセン州の州法に根拠があったとはいえ、それは「エアステス・ゲヴェクス」という名称についてだけであり、具体的な基準等のルール作りはラインガウ・ワイン生産者連盟に委ねられていた。

【参考資料】

(過去記事)
ドイツワイン法改正全体に関する記事
https://note.com/frankmic/n/n0e68fcd70767

ワイン規則改正の全体像
https://note.com/frankmic/n/n178667d69acf

(法令等)
ワイン法及びフィロキセラ対策に関するヘッセン州規則
https://www.rv.hessenrecht.hessen.de/bshe/document/jlr-WeinR_ReblBAVHErahmen

ラインガウのエアステス・ゲヴェクスの基準(を含む資料)
https://www.lwg.bayern.de/mam/cms06/weinbau/dateien/6__wbt_2014_rheingau_erstes_gew%C3%A4chs.pdf

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