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太っちょダニエル

「ドイツは個性を尊重する国である」と世間的には称賛されているとしても、子どもにとっては無縁の話。とりわけ小中学生の男子は、何人であろうと、どこに住んでいようと、基本的にみんなアホ、というのが僕の持論です。そんな自分も例外ではなかったことは、言うまでもなく。

ギムナジウムの同じクラスに、ダニエル(仮名)という男子生徒がいました。結論からいうと、彼は太っちょだったため、他の男子生徒からいじめの対象となっていたのです。また、ダニエルは大の心配性。勉強内容をちゃんと理解できたか、宿題の範囲をしっかりとメモッたか・・・ちょっとしたことで不安になり、すぐに泣き出してしまうのです。

そんなダニエルを、僕らヤローどもが放っておくわけがありませんでした。

「お~い、デブ!」
「みんな、デブがまた泣いてるよ~!」

僕達がからかえばからかうほど、ダニエルはますます泣きじゃくる。その連鎖反応がたまらなく愉快で、僕達はさらにエスカレートするのでした。

幸い、無視したり、肉体的な苦痛を与えるなどという陰湿な嫌がらせに発展するということはありませんでした。みんな、決して本気でダニエルのことを嫌っていたわけでもなく、また、日頃のストレスの腹いせで彼を標的にした、というのでもなく。ただ、加害者である僕達には「外見や性格は人それぞれ」という、当たり前すぎる常識を認識する受容性に欠けていたのです。しかし、僕達の行為がダニエルを苦しめていたことは確かで、その意味において、彼に対するからかいは陰湿ないじめと大差はなく、決して許されるものではありません。

大人になってからこんな分析を試みたりして、愚かですよね。

でも、ダニエルは実は強い内面の持ち主だったのだと思うのです。僕達にいじめられた彼は、その場で泣き出しました。ダニエルは泣くことを通じて自分の感情をあらわにし、僕達に抵抗していたのです。それに対して、僕はといえば、小学生のころに『チンチャンチョン』と囃したてられたとき、加害者を非難するのはもちろん、泣くことすらできませんでした。

ダニエルはその後、水泳に通い始め、見事ダイエットに成功。「人をいじめる」などという愚行をおかしていたアホな男子ども(自分ももちろん含む)が、彼に対して敬意を表すどころか、謝罪する権利すらなかったのは言うまでもありません。

ギムナジウムを卒業し、僕が日本の大学に進んだ後も、ダニエルとは文通などを通じて友情を温め続けました。また、僕が社会人としてフランクフルトを久々に訪れた際、ダニエルは率先して昔の同級生に声をかけ、ちょっとした同窓会を開いてくれました。

ずっとからかっていたのに、長い間友情を育んでくれた『太っちょダニエル』。彼は僕に、真の友情とは何かを考えるきっかけを与えてくれました。

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