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チンチャンチョン

※※本文には『中国人』や中国を彷彿させる表現や内容が含まれておりますが、それらは現状をありのままに伝えることのみを目的としており、中国の方々を蔑視・差別することを意図するものではありません。

『チンチャンチョン』・・・われわれ日本人を含むアジア人に対するこの差別用語を、聞いたことがない方はいないと思います。空前の和食ブームが巻き起こったり、多くの日本人がビジネスやスポーツ、音楽の分野などにおいて世界レベルで活躍していることから、欧米諸国における我々に対する理解は今でこそ深まりつつあるといえますが、30〜40年前は状況が大きく異なり、我々に対する無理解は『侮辱』や『差別』という形に具現化されていました。そしてそれは、子ども達をも標的とするのでした。

僕がまだ小学生の頃、こんなことがありました。授業が終わり、帰宅すべく、一人で住宅街を歩いていると、突然「チンチャンチョン!」という声が聞こえてきたのです。反射的に、声が聞こえたほうを見上げると、家の2階の窓際に、僕と同い年ぐらいの男子が立っていることに気づきました。そしてその男子は、僕と目が合うや否や、慌てて窓を閉めました。そう、その男子は、わざわざ僕に「チンチャンチョン」と言い捨てるために家の窓を開け、僕に向かってその差別用語を放ち、まるで隠れるかのようにその場から去ったのです。

また、こんなこともありました。それは、当時4年生の僕が家族と旅行中、とあるパーキングエリアで起きました。車から降りた僕を見かけるや否や、ドイツ人と思われる男児2人が「おい見ろよ、中国人だぜ」と叫び、目尻をつり上げ、『チンチャンチョン』と囃したてながら、僕の方に寄ってきたのです。その後数分間にわたって、僕を取り囲みながら『チンチャンチョン』コールを繰り返す2人。すると、耐えかねた母親が車から降り、「チンチャンチョン、nicht、nicht(ダメ、ダメ)!」と、片言のドイツ語で彼らを追い払ったのです。

その時、僕はどうしたかというと、何もできずにいました。既にドイツ語は母親のレベルを超えていたにも拘らず。恐らく、言い返す度胸がなかった上、ぶつけようのない怒りが沸き立つのに耐えるので精一杯だったのだと思います。

このレベルの差別が今も尚はびこっているという事実に、僕は驚きを隠せません。とある日のランニング中、僕とすれ違った2人の子ども達が、わざわざ振り返って「チンチャンチョン!」と僕に向かって叫ぶではありませんか。

このように、東洋人にまつわる状況が好転したとは、残念ながら言い切れません。しかし、状況はあまり変わっていないとしても、変わったこともあります。それは、僕の心境です。昔の僕は、ただただ悔しさに耐えるだけでした。今の僕は、差別的な状況に出くわした場合、加害者を哀れに思ってしまうのです。

子どもの頃に受けた差別から40年近くが経過。僕の2人の子ども達が、当時の僕の年齢に近づいてきました。残念ながら、彼らを差別から完全に守ることは難しいでしょう。そうである以上、差別や侮辱を受けた場合、そこから何を学ぶべきなのかを家族とともに考える機会を、2人には与えていきたいなと思っています。僕自身の体験がその際に活かされることを願いつつ。

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