アビトゥア、いざ!~本番編~
当たって砕けろ的に挑んだアビトゥアの試験勉強。いよいよ本番を迎えました。1995年5月のことです。
音楽の筆記試験のテーマは『ブルース』。あるジャズバンドによるブルース演奏のスコアを分析するのが課題です。楽曲の構成や各楽器の紹介などといった基本情報をはじめ、各パートがどのような役割を果たしているのか、例えば「サックスによるソロのスケール名を特定した上で、その旋律がどのように構築されているか」について論述するのです。
テーマは「ブルースかフーガのどちらか」と事前に聞かされていました。僕としてはどちらでもよかったのですが、暇さえあれば音楽仲間とブルースセッションをしていた当時の僕にとっては、ブルースは高得点が取れるまたとないチャンスでした。問題は、それ以外の3教科です。
数学は、微分について何問か出題されたのですが、問題用紙を見た瞬間、凍り付きました。試験対策上、『eのx乗』に関連した問題に重点的に取り組み、それなりに理解していたのですが、実際に出題されたのは『eのx乗』ではなく、『xのe乗』だったのです。「どうして逆じゃないの・・・」と嘆くだけムダでした。僕の場合、微分の根本的なロジックを結局は理解していなかったので、問題がちょっと変わっただけで大パニックなわけです。式の解き方について論述しなくてはならないのに、肝心の式を理解していないので、何を論ずればいいの?!という感じでした。
歴史では、『歴史の役割』がテーマでした。うろ覚えではありますが、いつくかの時代区分を概説した上で、それらが現代にどのように影響しているのかを論述するのが課題でした。つまり、答案用紙を埋めるには、歴史的事実に関する知識が大前提となるのですが、僕の場合はそれ自体がうろ覚えの状態でした。できたことといえば、一夜漬け同然で暗記した歴史的事実をとりあえず書き出すぐらいです。せっかく覚えたのだから、書けるだけ書いておけ。何も書かないよりはマシだろう。ダメで元々です。
最後は英語の口頭試験でした。試験30分前にテキスト(テーマは『暴力』でした)と質問を渡され、本番ではテキストの内容を説明した上で質問に答える、という形式でした。試験は20分、試験官は4人です。テキストを受け取る際、先生は「内容は難しくないから、落ち着いて取り組めば大丈夫」と励ましてくれたし、語学学校にも通ってたんだから、なんとかなるだろう!と思ったのもつかの間。テキスト自体は理解できたものの、僕の回答に対して試験官が追加質問をしてきたことで歯車が狂うことに。要は、本番に弱かったのです。
もう一つの敗因は、試験官以外にも見学者がいたことです。口頭試験の場合、一学年下の生徒が見学できるのですが、受験者はそれを拒否することも可能です。なのに、僕は拒否権を行使するのを忘れていたのです。ただですら緊張している本番中、予想外の見学者もいて、頭の中はもう真っ白。試験官の中には、僕が絶好調だった頃の英語の先生もいて、「おいおい、どうしちゃったんだ」という表情を浮かべていたのを覚えています。
アビトゥア試験の結果はすぐに出ました。「多分、自分の成績はこの程度だろう」と予想はしていたのですが、実際は予想を上回る(下回る?)ひどさでした。