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THE IDEA OF THE BRAIN- A HISTORY by Matthew Cobb (Introduction)

冒頭、1669年、デンマークの解剖学者、Niolaus Stenoの引用から始まる。

The Brain being indeed a machine, we must not hope to find its artifice through other ways than those which are used to find the artifice of the other machines. It thus remains to do what we would do for any other machine; I mean to dismantle it piece by piece and to consider what these can do separately and together.

脳の働きを理解するには、機械の働きを理解するのと同様に、そのパーツ一つ一つを分解し、それぞれの働きと、一緒にした時の働きを検証しなければならない、という意味だ。著者によるとこの考え方は革命的であり、これ以降現在に至るまで、我々は彼のSuggestionに従って脳の働きを理解してきたという。マウス実験で視覚がどのように働くかを発見したり、麻痺のある人がロボットアームを心で操れるようになったことなどが、この成果として紹介されている。

しかし一方、著者は、今この考え方には限界があり、脳の研究が行き詰っているという。脳は単独ではなく神経細胞との相互作用で働くものなので、機械の働きのように脳の働きを理解しようとするだけでは、数十億もの神経細胞がどのように作用しあって脳の活動に繋がっているかが分からないからだという。("No matter how much it might go against your deepest feelings, there is no disembodied person floating in your head looking at this activity- it is all just neurons, their connectivity and the chemicals that swill about those networks.")

このような問題意識の下、著者は本書は単なる脳科学の歴史書ではないと断った上で、以下二つの狙いを掲げている。

1.我々人類が、脳が何をどのようにするのかに就き、どのように考えてきたか、そのバリエーション豊かな考え方を探究すること。("I want to explore the rich variety of ways in which we have thought about what brains do and how they do it, focusing on experimental evidence.")

2.我々人類が現時点で、何について分かっていないか、に就いて明らかにすること。それを明らかにすることで、我々が将来に向けてどのような分野に注力すべきかが分かってくる。("It is one of the reasons this book is more than a history, and it highlights why the four most important words in science are 'we do not know'."/ "Our current ignorance should not be viewed as a sign of defeat but as a challenge, a way of focusing attention and resources on what needs to be discovered and on how to develop a program of research for finding the answers.")

1について著者は"、科学はその時々の文化に根差す("science is embedded in culture")と指摘しており、冒頭Machineの定義が、水圧ポンプや時計仕掛け程度のものから、テレグラフ、そしてコンピューターに進化していく中、これに対置される脳に対する考え方も変わってきたという。

2については、1950年代以降、脳の複雑な働きが明らかになる中、脳は入力されたデータを処理して出力する単なる受け身の機械ではなく、身体の一部としてより自律的に世界と相互に作用していることが科学者に認識されるようになり、今まで(機械のアナロジー)とは異なるアプローチが必要であると著者は指摘。そのために、我々は今、何について分かっていないかを知る必要があるという。(これを知る上で、1に対する理解も重要となろう)

最近、私が読んだLisa Feldman Barrett著の”How Emotions Are Made"(邦訳:「情動はこうしてつくられる」)は、まさに2でいう今までとは異なるアプローチで、この方法論を通じて脳の機能解明が大きく前進すれば、後世にここで大きなパラダイム転換があったと評価されるかもしれないし、そうならないかもしれない。今も非常にアクティブな脳研究の現状を正しく理解するための基礎的理解を、本書が提供してくれることに期待しながら、読み進めていきたい。

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