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2023年9月に読んだ、おすすめの本 その1

9月に読んだ本の中で、おすすめの本を紹介する第1回です。今回は、発売済みの『文芸/ホラー/ミステリ/SF 等』から8冊を紹介します。

🌟発売済み『文芸/ホラー/ミステリ/SF 等』

「ロジカ・ドラマチカ」 古野まほろ 著
司馬と結子のやり取りに、思わず居住まいを正して読んだ。僅か2文を単語毎に徹底的に分析し、そこから真実を導くという二人の論理対局の様を。 現場は一切出ない。目の前にある文のみから、互いの論拠の隙を突き合い、真相を暴いていく勝負。これぞ、バディではなく、一対一の究極のアームチェア・ディテクティブ。その根底にロマンスを隠して。

「鬼人幻燈抄 昭和編 花街夢灯籠」 中西モトオ 著
第11巻
一気に40年以上も時を経て、戦後まもなくのやっと落ち着きを取り戻し始めた時代を描いた「昭和編」。GHQの命令によって廃止された赤線。しかし、そこには何故かまだ売春街〈鳩の街〉が残っていた。その理由を探る甚夜。
今までになく静かで落ち着いた展開の末、甚夜は敗北する。それも、初めて「完全に敗北」する。でもそれは、この長き物語の幕引きとなる「平成編」が始まる上で必要だったこと。そして、とうとう時が平成となる。

「檸檬先生珠川こおり 著
小学3年の「私」は中学3年の少女と出会い、彼女を「檸檬先生」と呼ぶ。共感覚をもつ2人の交流。 ピアノが奏でるきれいな色、数字の色が足し算で混ざっていく様。2人の閉塞された世界で2人は音の『色づくり』に取り組んでいく。それが完成した時、1人は残って1人は踏み出す。そして、その終点には…… 言葉さえも出なかった。
共感覚(シナスタジア)は実際にある認知特性(疾病や障害ではない)で、「音を聞くと色が見える」、「文字を見とる色が頭に浮かぶ」など、様々なタイプのものがある。著者が 18歳の時に書いた本書。共感覚の様をこの作品以上に生き生きと描いたものを、未だに読んだことはない。

「その謎を解いてはいけない大滝瓶太 著
私立探偵(自称)暗黒院(本名は田中)は、自称だけでなく身振りも口ぶりも中二病の大人。ただ、その情報収集能力だけは群を抜き、犯人を推理する過程で無実の関係者の黒歴史まで掘り返し、皆を絶望させていく。そんな迷惑極まりない彼を補佐(謎を解くのを止めようと試みる)のは女子高生の助手小鳥遊。さらに彼のライバル(自称)白色院(本名は鈴木)など、濃すぎる人物が集ってくる。そして、最後の謎を解く者は誰なのか?

「ヨモツイクサ知念実希人 著
北海道での行方不明事件。その犯人は、規格外の体躯を持つ人肉の味を覚えたエゾヒグマ? 家族を失った者達がそれを追う。しかし、その「黄泉の森」では、神話が現実を侵食していくのだった。 生物学的に徹底的に煮詰めたられた怪異の、様々なステージにおける視覚的イメージにおののきっぱなしだった。
本書や「楽園の真下」(荻原浩) 、「ゾンビ 3.0」(石川智健) は、実在の生物や生物学/生態学にしっかりと立脚し、そこに虚構をさりげなく潜り込ませることで、あり得ない怪異を成立させている。でもそれはあくまでもバックボーン。語るのは「人間のドラマ」。まさに感嘆に値する。

「夜空に浮かぶ欠けた月たち」 窪美澄 著
精神科医とカウンセラーの夫婦が、一見普通の民家で営んでいる椎木クリニック。さらにそこの近くにある純喫茶。この二つに関わることになる、心が少し疲れてしまった人達のリレー短編集。 読んでいて心の奥が痛くなった。人は誰もがどこか欠けた月。でも、どんな形の月であろうとも、高く上がっていけるものなんだから。

「東大に名探偵はいない」 市川憂人,伊与原新,新川帆立,辻堂ゆめ,結城真一郎,浅野皓生
東大出身の6人の作家による、東大生や東大卒業生が関わるミステリのアンソロジー。既に5人の作家の著作は読んだことがあったが、ここで東大出身と知った方も居た。
首をかしげるような題名から始まり、良い意味だけでなく悪い意味でも東大生らしさを前面に押し出す。そして、世相、書いた方の個性が爆発し合った、あえて「日常」に限ったミステリ。楽しんで読むことができた。

「ウは宇宙ヤバイのウ![新版] 」 宮澤伊織 著
旧版(2013)の空也が新版では女子高生の空々梨へと性別が変わったので、もともと無軌道なトンデモ展開に百合要素が加わって、ヤバイ程度が3割増し。
DIYでつくる超絶兵器など、とにかく読んでいてひたすら気持ちいい、空々梨(クー)とヌル香対宇宙の列強種族の大活劇。そして、縦横無尽に出てくる専門用語や、凄まじい活用法(軌道エレベーターを2人がいる地球制圧の橋頭堡として軌道上から降ろしてくるなぁ)
もちろん、未解明の謎を巡る続編を期待。

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