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アゾフスタルが降参した理由

5月21日、ショイグ露防衛相、アゾフスタル製鉄所敷地のナチ集団のアゾフ大隊からの完全開放を最高司令官であるプーチン大統領に報告した。これに先立ち、5月16日から(21日迄の間)2,439人のナチ集団アゾフ大隊の司令官を含む隊員およびウクライナ軍メンバーが捕虜となった。300人のスパルタンに例えられたアゾフスタル内に隠れていた武装集団の武勇伝は早くも幕を閉じた。では、なぜアゾフ大隊やウクライナ軍は、祖国の為に死ぬまで闘い続けないで、捕虜になる道を選んだのか?これについてぼやいてみたい。

アゾフスタルから収容所への移動途中のアゾフ大隊

降参の雰囲気

降参なんかしない、降参したやつはけしからんと、威勢が良かった(特に)アゾフ大隊の隊員はこんなにもあっさりと降参すると想像していなかった人はウクライナ国内外に多かったのではないだろうか。『勇敢なヒーロー』だと思われていた一方で、実はしっかりと武装化しており、降参後に露側がアゾフスタルの無数の地下トンネルを捜索して見つけた武器、弾薬、飲食料等を見ると、すぐにお手上げ状態になる様子ではない

少々脱線すると、アゾフスタル降参を受けてなのか、ウクライナ軍のあらゆる部隊から、武器、準備、食料その他必需品が無いため闘えない、闘わないという意味合いでのビデオメッセージ(に、政府の批判が込められた動画)が相次いでいる。祖国を守らないと言ってない、このままで(先方に言わせると手ぶらで後方支援が無いままで)は闘えないというニュアンス。しかし、見る限り、手ぶらな訳ではなく、マシンガン程度はだいたいの兵隊は持っている。

鋼より硬い ― マリウーポリ
(ツイッター等のSNSに回っていたポスター)

そんなことを言いだすと、ウクライナ人の祖先も闘っていた第二次世界大戦のソ連軍は最初、モスクワ付近までナチスドイツ軍に追いやられても闘ったんだけど。。。例えば、ゲリラ戦争を進めている人たちは、武器なんかを支給されることすらなく、敵の武器や敵に飲食料や敵の服装等を奪って闘うのは普通なんだけど。。。アゾフ大隊もウクライナ軍も『露の侵略』から祖国を守るために闘っているのだというなら、第二次世界大戦のソ連軍や世界中のゲリラの様になぜ闘い続けないのか?何が違うのか?

なぜ降参するのか?

上述の第二次世界大戦は、旧ソ連圏では『大祖国戦争』と呼ばれる。大祖国戦争の前半に当たる約3年間はソ連軍がこの戦争で勝てると思っていたのはひょっとしてソ連人だけかもしれない。故に、どんな状況であろうと、降伏・降参の話しは無かった。全員、祖国の為に闘っていたからだ。しかし、例外もある。それはウクライナのステパーン・バンデラとその支持者たちだ。ヒトラーが勝てそうに見えた時はヒトラー、負け始めた時には米への仲間入りを図っていたのは、外ならぬ、今ウクライナで英雄化されているバンデラ主義者たちだ。ある意味、今回の降参は、歴史の繰返しとも言える状況なのではないだろうか。

ナチスドイツ軍 ドン川第5隊のコサックの踊り

一方、ウクライナ国内に露と闘っている筈の6,000人程いると言われる外国人兵隊はどうか?ウクライナを後にしている人の話しを聞くと、やはりアゾフ大隊およびウクライナ軍の不満と同じ内容だ。『サファリ』の如く、露軍を撃ちまくると思っていたのに、真面目な戦闘に巻き込まれているのではないか?露軍の兵士はメディアで言われている程弱くないのではないか!(ところで、外国の高級司令官も何名かいる筈だが、一切話しが出ないので、交渉の切り札に使われているのだろうか?もう少し情報収集しないといけない)

結局、アゾフ大隊もウクライナ軍も外国人兵隊も闘う理由ははっきりしていないのではないかと見ている。故に、降参も至って当然の結果だと言わざるを得ない。これに対し、露軍はやはりウクライナの非ナチ化、非武装化が露(祖国)の安全を守るうえで必要不可欠な行為だと確信しているのではないだろうか。そうでなければ、露が、ウクライナの『一般市民の命を可能な限り守りながら』、即ち大型ミサイルも使わずに今回の軍事作戦を、ウクライナ軍(24万人)より少人数の部隊(作戦開始時20万人未満)で開始し、前進出来ていることは説明できない。NATO加盟国を中心に西側諸国(日本含む)からウクライナに送られている資金も、武器も弾薬も、戦闘の方向性を変えられていない。
こうなるとプーチン大統領が予測していたからこそ、アゾフスタルの突撃を止める様命令したのだろう。所詮、アゾフ大隊も、ウクライナ軍も命を懸けてまで闘う覚悟が無いため、大勢の捕虜の映像を流すと他のモラールも低下すると分かっていたのだろう。突撃して全滅させたら、彼らの英雄化を手助けしたことになりかねないとも分かっていたのだろう。人間性は兎も角、作戦としてはあっぱれだとしか言えない。

終わりに

本件を見る上でここから重要なのは、露―ウクライナ間で捕虜の交換がなされるか否かなのではないだろうか。簡単に言うと、交換が実現されればウクライナの勝ち、されなければ露の勝ち。例えばアゾフ大隊の隊員が露の兵士と交換されると、アゾフ大隊が間違いなく英雄化され、日を改めてまた露軍との闘いに来る、さもなければ露人を殺しに行くだろう。ウクライナ側から再三交換の話しがされている意図は他にも多数あり複雑に絡み合っているのだが、これもその一つだと言えよう。当然これを露も理解しており、既に国会ではアゾフ大隊隊員捕虜の交換を禁止する法案の話しが始まっている(念のためなのか?国内勢力争いの一環なのか?)。今後も注視していきたい。

今日はここまで。

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