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S.F. (Something Falling / Floating) 金氏徹平展 市原湖畔美術館

千葉県市原市にある市原湖畔美術館にて、金氏徹平氏の企画展に訪れた。
まず、この市原湖畔美術館について触れてから、この作家の略歴を簡単に紹介して、最後に感想を書きたいと思う。

市原湖畔美術館は、千葉県市原市の高滝湖におけるダム湖整備の一環で建てられた「市原市水と彫刻の丘」という施設を2013年にアートフロントギャラリー主導の下でリニューアルされたもの。
この建物の向かい側には大きなダム湖が広がる。
バブル期に、地方に多くの「ハコモノ」美術館が出来上がり、バブル崩壊と共に多くの問題を取り残した。市原湖畔美術館もこの「ハコモノ」美術館からの脱却を狙うアートフロントギャラリーの意図を反映した施設。
建物も「アートウォール」と呼ばれるスチールの折板を挿入することで、公園から続く散歩路のような周辺環境との繋がりを意識した動線が印象的。
アートフロントギャラリーの北川フラム氏によると、

「私たちがやってきたことは瞬間的に目立ち、消費されるイベントでは決してない。じっくりと地域の人たちと、そこに漂う祖霊の伴走する地域づくりでありたい。…. テーマパーク、食の祭典、リゾート法、万博・オリンピック、地方分権と叫ばれていたような目くらましの流行にしてはダメなのです。」

『ひらく美術: 地域と人間のつながりを取り戻す』(ちくま新書、2015年)
著・北川フラム

現代社会に求められる、効率的・合理的なスピード感で刺激ある「わかりやすいもの」が行き着く先は、拡大・大量生産による分かりきった結末ではないかと思う。この施設を通して、含みのある場をゆっくりと解釈して長期視点で守っていき、訪れた人が考える力を養う場であると思う。


今回の企画展は、京都出身の金氏徹平氏の個展となる。金氏徹平氏は、1978年に京都で生まれ、2003年に京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。現在は、同大学の美術学部彫刻専攻准教授を務める。
この展覧会に向けて、「自然」と「行為」の関係の間に目に見えないものが漂っていて、あらゆる境界線をくぐり抜けている状態に着目したという。

展示室風景

私がこの展示で大きく感じたのは、戦後日本における自然物が人工物に覆われこの両者の境界が曖昧になっていく現代への問いかけを感じた。
この市原湖畔美術館が、人工湖にあるバブル期の遺産建造物をリニューアルした施設ということもあり、この場所と相まって作品も強い意味を持っていた。

石に取り付けられた鏡が高滝湖を映す


上2枚写真:展示室内ライトが定期的に変わる。

雪に排気ガスがかかり、変色している状態の写真にイメージをコラージュ的に載せたもの。

作品は、アッサンブラージュ・コラージュ的なものが多く、その事が「自然」と「行為」の二元論に留まることなく、その見えない境界線を意識させている。自然物と人工物という視点は、プラトンが『国家』第十篇にて芸術家の追放を求めているように、常に対立構造で論じられてきた。しかし、ここまで工業化が進みこの両者の間に明確な境界線が薄れていく状態が現代だと思う。もちろん、厳格に自然に配慮し、自然を守ることを徹底的に行うべきとは言わないまでも、今を生きる者としてはこの状態に対して肯定・否定問わず何か意見を求められているような気がした。

作品に対して、文章もなく鑑賞者に委ねている部分も多い気がするので、是非直接訪れてそれぞれの良い「考える時間」を過ごしてください。

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