「気ままにクリエイティブ観察」第4回は”器がほとんどない器屋さん”編
観察が日課のFRACTA AD(アートディレクター)宮崎です。「気ままにクリエイティブ観察」第4回は”器がほとんどない器屋さん”です。
先日出張ついでに長崎の波佐見町、佐賀の有田に行ってきました。そこで出会った1616arita japanという器のブランドの店舗デザイン、ディスプレイ、プロダクトの美しさに日本の伝統産業の未来を感じ、鳥肌が立つほど感動したのでご紹介いたします。
※本noteに掲載している写真は公式サイトより引用したものです。
1616aritaについて
デザイナーの柳原照弘さんがクリティティブディレクションを務める、人気の有田焼ブランドです。有田焼の歴史を未来へと繋ぐことを目的としたブランドです。 400年に及ぶ伝統を踏襲しながらも、従来の有田焼とは異なるデザインアプローチを展開。 多様に変化した現代の食生活を柔軟に溶け込む、新しい有田焼を提案しています。同年初出店したミラノサローネにおいて、世界中のデザイン関係者から高い評価を得、翌年は『エル・デコ・インターナショナル・デザイン・アワード・2013』のテーブルウェア部門で世界一を受賞、現在はヨーロッパを中心に、18カ国以上で展開しています。
器がほとんどない器屋さん
アリタセラ内にある百田陶園というショップの様子です。1番の衝撃はほとんど器が置かれてない器屋さんということです!
間を活かした作りで、ミニマルな日本を連想させるモデルルームのような印象でした。一見入るのに緊張しそうになりましたが、入り口のレンガや土壁のおかげか入ってみると不思議な温かみを感じました。
1番の特徴は、使っている場面を想起できるような生活提案型の作りとなっている点です。自然光が差し込む100坪以上のゆとりある空間に、リビング、キッチンバスルーム、カフェスペースがあり、1616 / arita japanがある生活をイメージできる空間でした。床材には北欧から取り寄せたダグラスを使用しています。そして有田焼をつくるのと同じ考え方でインテリアを構築するというコンセプトのもと、全ての天井、壁は九州の土と有田焼の素材となる陶石を混ぜた左官で仕上げられており、素材にも非常にこだわって作られています。不思議な温かみや居心地の良さはこの自然素材のおかげかもしれません。
極めて精度の高い1616/arita japanの有田焼を置くには、ラフな表情の天板が相応しいという考えから、粗い質感のレンガ素材が採用されたそうです。こういった土着的な素材で伝統と柔らかさを演出しつつ、壁や棚の側面に黒皮鉄板を使用し、伝統とモダンを融合させた空間を実現しています。壁の側面に鉄板を使うというのは非常に斬新ですが、絶妙な存在感でほど良いシャープさを空間に加えています。
素敵な器たち
一番奥にやっと陳列された商品が現れます。生活空間の中で見る器は非常に洗練された外国っぽい器の印象でしたが、実際に手に取ってみると不思議な温かみや愛着を感じさせます。表面の細かなざらつき、角の丸み、日本の伝統色を使った淡い色彩のグラデーションのコップや、薄くて繊細な作りの平皿など、どれをとっても新しいのに不思議と生活に溶け込みそうな存在感で、愛くるしさを感じます。高密度の陶土を薄く繊細に成形し、狂いなく焼き上げる必要があるため、有田の職人さんの技術なしに実現しない美しさなのです。繊細なつくりにも関わらず素材はタフで割れにくく、電子レンジも使えるようです。隣のカフェカウンターではお気に入りのマグを選んでコーヒーを飲むことができるので、ゆっくりと検討できます。また隣のレストランでは実際に器を使って料理が盛られてくるので、完全に心を奪われてしまいます。。
最低限の演出
ポイントは、生活の中の器があるシーンを見せることを最優先させた、ほとんど物がない空間づくりです。
器が主役と映るように生活空間の演出も最低限のしつらえになっており、テーブルや椅子など1つ1つのものが厳選され、必要不可欠な要素として世界観を作り出しています。また、上の写真をよくご覧いただくと、照明が器だけに当たっています。しかもその照明もお店にいる時は見えないように設計されており、まるで美術館のようです。入り口が前面ガラス張りで自然光が入ることを計算した最低限の照明デザインとなっています。
器を売りたいのに、器を全然並べないってすごい判断ですよね。この店舗は去年リニューアルしたようでその前は普通に器がディスプレイされているお店だったようです。器がない、美術館のような茶色いお店という強烈なアイデンティティとともに、訪れた人の記憶にも残るでしょう。日本の伝統文化を世界に発信する場と考えるとこのくらいの潔さが必要かもしれません。
にくい遊び心
また絶妙な遊びを持たせている点も記憶に残りました。キッチンは食器棚にきれいにお皿を並べるのではなく、あえて作業スペースに食器が無造作に積んであるセッティングになっていたり、本棚は本や雑貨の中に平皿が紛れていたりなど、きっちり作り込みすぎてない隙のある演出がハイエンドな空間にも関わらず自分ごと化のしやすさにつながっていると感じます。完璧に作り込まれたものよりも未完成で想像の余白があるものに惹かれる人は多いのではないでしょうか。ブランディングでも同じことが言えると思います。
日本の伝統文化
和食器はもともと好きでしたが、有田焼はどちらかというと鑑賞する芸術で日常とは縁がないものと思っていたので、1616 aritaは衝撃でした。各窯元・商社がビジネスで成功できるようなもの、有田焼として買ってもらえるものを目指しています。そして、参加している窯元や商社が各々のブランド力を高めるプロジェクトではなく、団結して有田焼全体のブランド力を高めることを目的とし、有田がいろんな人と技の集積地だということを伝えていこうというプロジェクトなのです。有田の魅力は、人と技が幾重にも連なる『多層性』にあり、今回のものづくりをきっかけとして、有田の魅力が多彩な『レイヤー』によって構成されていることを伝えたいと柳原氏は語ります。窯元市場は窯元間でのコミュニケーションが比較的少なく、それぞれものづくりをしている背景があります。そのため悩みを抱え込んでしまう傾向があるようで、第三者がつなぎ役となり、団結するきっかけを作る必要があるのです。
こんなにもモダンで素敵な物が日本の伝統技術によって実現されていて、海外で高い評価を受けていることに日本人としても誇りに思いました。何よりも今まで遠いと感じていた物が、自分のライフスタイルにあったらいいなと思うまで距離を縮めさせてくれたディレクションの威力に脱帽です。日本の伝統文化はディレクション次第でいかようにも生まれ変われるのだと確信しましたし、もっと多くの人にこの体験をして欲しいと思いました。そして、自分自身も日本の伝統技術を残すために何か貢献できればと強く感じた体験でした。
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