メドックマラソン 完走までの道④~30km地点からゴールまで~
今回も2019年9月7日に参加したメドックマラソン回想録の続きを綴ります。
これまでの記事
その1:メドックマラソン 完走までの道①~出発からからスタートまで~
その2:メドックマラソン 完走までの道②~スタートから15km地点~
その3:メドックマラソン 完走までの道③~15km地点から30km地点~
30‐37km地点
30kmを過ぎたところで、私はようやくこのマラソンの「本当の魅力」を知ることになります。
ポイヤックからベイシュヴェル、サン・ジュリアンを通り過ぎ、ポイヤックを経由してサン・テステフに入りました。午後になり、空は晴れて気温も上昇。疲労がたまり、思考力も低下。そんな中、遠くに幻想的な風景が広がります。
Chateau La Haye(シャトー・ラ・アイエ)の敷地に入ります。ぶどう畑にカラフルな風船が風に揺られています。おまけにとてもsympa(気前のよい)なランナーがいたので、写真に入ってもらいました。
ぶどう畑を通り過ぎると、ラ・アイエのシャトーが見えてきました。シャトー前のエイドには多くのランナーが群がっていました。こちらのシャトーは他のシャトーとは少し異なり、ブルーベリーのアイスキャンディーなど凝ったものを出していました。もちろんワインも出ていたのですが、なんと泡も。
泡。
だから混んでいたわけだ。
この日スーパーマンの格好をしたお兄さんがついでくれた生ビールののどごしのよさを、私は一生忘れないでしょう。コース上でビールが出たのはラ・アイエが最初で最後でした。
ビールをくっと飲んだ後、再び走りました。サン・テステフの村を通り抜けた後は、またも見渡す限りのぶどう畑が広がります。日本の地元でよくみる平坦な畑や田んぼとは全く別の、なだらかな勾配のある土地に背の低いぶどうの木がしっかり列をなしています。
アルコールのおかげか、心にのしかかっていたおもりのようなものが少しだけ軽くなった気がしました。また血の巡りが良くなったおかげか、身体も軽くなったような気がしました。このまま走り続ければ、少なくとも制限時間6時間半以内にゴールに着く。辛いことに変わりはないのですが、少し安堵のようなものも感じました。この時点では、なぜかよく周りのランナーに話しかけられました。きっとみんな、ひとりで辛かったのでしょう。あ、もしくは、きっとみんな、酔っていたのでしょう。この後目の前に見えるシャトーに到着することを小さなゴールに定め、前へ、前へと進みました。そしてシャトーでワインが出ていたらいただくことにしました。
ワインの違いはいまいちわからなかったけれど、生産地で飲んだおかげか、人の血と同じ色をしたその飲み物は濃く、多くの人の手がかかっていること、その人たちのワインへの愛情のようなものを感じました。ワイン愛好家と呼ばれる人々は、ワインを通して人の営みのなせる技を味わっているのでしょうか。それが良く分かるから、その対価を惜しまないのかもしれません。そんなことを考えながらワインを頂きました。
38‐42.195km
ゴール直前、残りの約5キロはジロンド河に沿って走ります。ゴール地点のあるポイヤックへ続く道から見える風景は、無機質な工場やかつての製油所、反対側は流れがゆっくりな、対岸が見えないほど大きな河。道はアスファルトで舗装されています。ワインを出すシャトーはもうありません。沿道には多くの人がいます。最後の4kmは大西洋の生ガキにボルドー産のビーフ、アイスクリームなど地方のスペシャリテを堪能できるエリアです。はじめに牛肉提供ブースがありましたが、疲れ切った私に肉をほおばる余裕はなく、また大きな人の群れの中に入っていく気力もなかったので、お肉を横目にそのままスルーしてしまいました。
チャンスの神様に後ろ髪はありません。通過した後になってもなお後悔の念に苛まれ、生ガキこそはいただこうと誓いました。その後少し走ったところで生ガキ提供ブースが見えてきました。やはり人だかりができています。
エイドで乾杯しないで~!と思いましたが、私の思いは彼らには届くはずもなく。
近くにいたおじさんが生ガキと白ワインを分けてくれました。が、完全に身と殻がくっついて食べられません。その後スキを見てリベンジ。アキテーヌ地方の生ガキは少ししょっぱかったけれど、身がプリッとしていてとてもおいしかったです。
この後アイスブースがあり、ボランティアの方々が親切にもアイスの包装を外して差し出してくださいました。アイスは世界中どこにでも売っていそうな、ザ・メイドバイ白砂糖といった安価なバニラバーのようなもので、しかも暑さで溶けはじめていたけれど、その甘さもまた疲れた心身を癒してくれました。
さらに前へ前へ。ようやく41kmの看板を横目に通過。ここでは地元のボランティアの方々が顔にペイントを施してくださるブースがありました。私は片頬にぶどうのペイントをお願いしました。
ペイントをしてもらった後もふたたび、前へ前へ、徒歩と同じような速さでようやく42kmを通過。沿道にいる人の数がさらに増えてきました。あと200mのはずなのに、ゴールが遠く感じます。ガーミンの時計で距離を確認したら、既に42.195km地点を通過しています。やり場のない怒りとともに、「なぜゴールしない」と自問しつつ、無心に最後の力を振りしぼり・・・
Arivée(ゴール)の下をくぐりました。時計を見たら、ここは42.5km地点。これがフランス流のおもてなしなのかもしれません。(この差はきっと寄り道していたことによるものです)ゴールの下を通過した後は河岸に倒れ込むように寝ころび、つかの間の安堵をかみしめました。
ペース配分など反省点は残りますが、フランスでのフルマラソン、完走しました!
もう少しつづきます。よかったらもう少しお付き合いください。
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