ジェーン・バーキン追悼上映特集『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』とワイン
今夜、本当はフランスワインを巡る旅の続きを書く予定だったのだけど、昼間からやばい映画を観てしまったので、これを先に書きたい。
現在、東京日仏学院では、フランス国立映画映像センターの協力のもと、昨年の夏に76歳で亡くなったフランスの女優、ジェーン・バーキンを追悼するイベントが行われている。
先週から明日の土日祝日にかけて、彼女が出演している６本の映画がエスパス・イマージュ（学校内のイベントスペース）で一日数本上映されており、私は『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』を鑑賞した。
この作品は1975年に当時の夫であるセルジュ・ゲンズブールが監督した映画で、2021年にセルジュの没後30周年を記念してリバイバル公開された4K修復版が上映された。
さて、セルジュ・ゲンズブールという人間は、とんでもない映画を生み出したと思った。
この映画のやばさは、単に放送禁止の用語や映像が満載なだけではない。
この映画では、ジェーンの美しさが最大限に引き出されている。彼女の表情、声、肉体。
セルジュの監督作品で、この女を演じられるのはジェーン以外にいないだろう。彼女、これは演技ではないのでは……とこちらが恥ずかしくなるようなシーンが少なからず登場する。
そして始終、命あるものの生と死が常に隣り合わせのような状況の中で、みんな感情的でもろいのだ。
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女の方（ジェーン・バーキン）は、殺伐としたレストランでパトロンから世の中のあらゆるハラスメントを受けながらも働くウェイター。戦争で命を落とした英雄を父に持つようだが、世の中のことをわかっておらず、本能の赴くままに生きている。
男（ジョー・アレッサンドロ）の方は、都会が生み出すゴミをゴミの山へ運んで捨てるトラック運転手。ポーランド出身のゲイで、どこか世の中を悟っていて、諦めの念をいだいているような感じだ。
女が働くレストランのパトロンは女に手を挙げるしだらしないし、やること全てがすごく嫌らしい男なのだ。だけど人の心を見抜く力があって、男がゲイであるから彼に近づくなと女に吐き捨てる。
そんなパトロンが水やコーラを一気飲みするように、瓶のままラッパ飲みしているのが、シャンパーニュだ。
シャンパーニュによくある華やかな印象はどこにもなくて、むしろその場の空気をより気持ち悪くするパトロンのおならの原因でしかない。
付け加えれば、残った瓶は、後にこの男たちが処分する、行き場のないゴミの元だ。
さて、この映画のシャンパーニュの役割について、頼まれてもいないのに考えた。
セルジュ・ゲンズブールは、この作品のシャンパーニュに、どんな思いを託していたのだろうか。
彼は、過去にこんな迷言を残している。
Le snobisme, c'est une bulle de champagne qui hésite entre le rot et le pet.
（スノビズムとは、げっぷとおならの間で揺れるシャンパンの泡みたいなものだ）
大学生の頃にジェーンやセルジュの存在、その妖しさを知り、怖いもの見たさでいろいろな作品を見たり聞いたりしてきたつもりだけど、セルジュのこのよくわからない言葉は今日、初めて知った。また、過去のインタビューで、彼は自宅にシャンパーニュを常備しているようなことを話している。
彼はもしかしたら、シャンパーニュをタバコ並みに愛し、シャンパーニュで憂さを紛らわせてきたのかもしれない。
この映画で嫌らしいパトロンと一緒に出てくるシャンパーニュは、このどうしようもない男の生きる理由みたいなもの、言い換えれば「生」を象徴しているように感じた。
ゲイの男は、ゴミを処分するとき、ひとつひとつ目を通し、「生」を感じるものを拾い上げる。ゴミの中からぬいぐるみを拾い出し、女にプレゼントするシーンがある。
シャンパーニュの泡はあんなに美しいのに、ここではパトロンのおならにしかならない。そしてこのシャンパーニュという「生」はやがて「死」となる。シャンパーニュが空いたはその役割を終え、ゴミとしてゲイの男の手元に渡るが、もしかしたらこの男が拾い上げ、なんらかの形でよみがえらせるかもしれない。
この映画の根底にあるのは生と死で、ワイン（シャンパーニュ）はぬいぐるみと同じく生と死の間をさまよっているような役割を果たしていると考えるのは、ちょっと厳しいか……。
明日の午前中にもう一度、東京日仏学院で上映されるようなので、よろしければ、ぜひ。
参考
https://www.marianne.net/agora/les-signatures-de-marianne/gainsbourg-et-champagne
https://www.dailymotion.com/video/x3futsu
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