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本日の本請け(2024.5月)

本を読むにあたって何らかの飲み物や食べ物を用意して感想と共に粛々とあげております。
今月中には読み終わらなかった本が何冊かあり、少なめです。

『物語の役割』小川洋子(ちくまプリマー新書)

北海道の高校入試では、前々回評論が出て小説が出ませんでした。
ついに小説が出なくなってしまったんだ……と絶望に打ちひしがれていたのですが、前回、ついこの間の入試では小説が出て評論が出ませんでした。
どうやら、交互に出していく?のかもしれません。

……という話をしたときに、「そもそもどうして小説を入試で出す必要があると思うの?」と尋ねられて、私の中にその信念はあるもののうまく答えられませんでした。

それはあなたが小説を好きだからじゃない?

……と言われたら、何とも「そうですね……」としか答えられない気がしたからです。

でもなんか、もうちょっと何か言えそう、そのとっかかりをこの間掴んだ気がするのに、と思って思い出したのが先月読んだ『つながる読書』のこと

そこで紹介されていた本書を読むことにしました。

スコーンがほくほくで美味でした

『博士の愛した数式』を書いた小川洋子さん。彼女の講演内容がまとめられたのがこの本です。小説をどのように書いているか、作家になるまでの道筋など。
読んでいると聞いたことがないはずなのに著者から読み聞かせされているような錯覚に陥って、するりと読み終わりました。このちくまプリマー新書、ヤングアダルトが対象のようで、とても読みやすいです。

 たとえば、非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき、人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形に合うようにその現実をいろいろ変形させ、どうにかしてその現実を受け入れようとする。もうそこで一つの物語を作っているわけです。

第一部 物語の役割

私は浪人をしているんですが、同じ年齢の人より遅れて始まった大学時代、ずっと「浪人したからこそあった良かったこと」を意識して過ごしていた気がします。そうでないと、浪人した自分を許すことができそうになかったから。今思えばそういう物語を作っていたなと思います。ここに書いてあることがとてもよくわかりました。

でも、自分には現実の出来事をそのまま受け入れることができるから物語なんていらない、と言う人もいるんじゃないかなと思います。そこで第二部にはこんな言葉がありました。

 小説を書いているときに、ときどき自分は人類、人間たちのいちばん後方を歩いているなという感触を持つことがあります。人間が山登りをしているとすると、そのリーダーとなって先頭に立っている人がいて、作家という役割の人間は最後尾を歩いている。先を歩いている人たちが、人知れず落としていったもの、こぼれ落ちたもの、そんなものを拾い集めて、落とした本人さえ、そんなものを自分が持っていたと気づいていないような落とし物を拾い集めて、でもそれが確かにこの世に存在したんだという印を残すために小説の形にしている。そういう気がします。

第二部 物語が生まれる現場

コスパとタイパの波に埋もれて、取りこぼしているものがあるような気がする昨今。
「役に立たない」とされて打ち捨てられたものを拾う力が、小説にはあるとまだ信じてるから、やっぱり物語は必要だよ、と思ってしまうんですよね。
だからと言って入試には出さなくてもいいじゃない、授業でやらなくても、という声も聞こえてくる気がするんですが……。
「役に立たない」ものに触れる機会があるのも学校の役割じゃないかなと思ってしまうんですよね、どうしても。

かなり良い読書でした。この本大事にしよう。

『鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説』西尾維新(講談社)

西尾維新のひさしぶりの新作だ!と思って即購入しました。

道東に行ったときに買ったお土産フロマージュキャット

読み終わって、実に西尾維新らしいけれど、西尾維新初心者に勧めることはないだろうな……という感想。
徹頭徹尾、西尾維新が濃縮されていて私は楽しかったけれど。オチは何が来るのかいろんな猫の言い回しを考えていたんですが、あ〜そう来たか思いつかなかった〜!と膝を打って終わりました。
とにかく文章についてツッコミを入れて「配慮」しまくっている作品で、最近たまに微妙な表現が来ると「ん」と思ってしまう自分がいるのですが、ここまでされるともうぐうの音も出ないというか、逆にどんな表現でも呑み込めるようになった気がして、他の本での読書が捗りそうです(笑)。

『飯楽園‐メシトピア‐ 崩食ソサイエティ』和ヶ原聡司(電撃文庫)

『はたらく魔王さま!』が好きで、新作も追いかけてるライトノベル作家さん。
去年発売して購入していたのですが、そういえば読んでなかった!と気づいて積読を消化しました。

口絵でカップラーメンが出てくることを知り、便乗して食べました

近未来の日本で、健康的なものしか食べてはいけないという法が敷かれた中出会う、違法の食べ物を運ぶ主人公「ニッシン」と、それを取り締まる立場の矢坂弥登。

一度だけ邂逅したはずのふたりが再会するのは、弥登がニッシンに食べさせてもらったカップラーメンの味を忘れられなくなってしまったから、というのもありますが、今まで当たり前と思ってきた法律に対し、疑問を覚えたから。彼女はニッシンのもとで、現実を見極めていくこととなります。

読んでいきながら「いやー、SFだなあ」と思っていました。だって、今の食料自給率の低い日本で、こんな法律でしばればあっという間に餓死者が出るでしょ、と。
でもその通りで本当に餓死者寸前の人が出てきて……。

『結局のところ食料安全維持法は、好き嫌いが多すぎる一部の人が、自分の気に食わないものを排除することにそれらしい理由を並べ立てただけの欠陥だらけの法です。そんな法律が推し進める楽園の外で、これだけの人達が飢えて死んでいる。これのどこが理想ですか。そこまでして守る食品衛生環境とやらに、何の意味があるのですか』

第五章

ここを読んでいて、このあり得ないだろう、という法律に、今国会で通っているいろいろな法律を重ね合わせてしまって考えてしまいました。あり得ないと思っていたものでも、気がつけば現実のものとなりつつある……。とてもこれらを、ライトノベルのトンデモ設定だ、なんて思って終わらせられなかった。

「それも線だ。子供には誰かがチャンスをやったっていいだろうっていう、曖昧極まりない線だ。その子供は何歳までだなんて聞くなよ?  その時その時の感覚だ。自分で生きようとしないことを仕方ないと思う年齢か、ふざけるなと思う年齢かを、見た目だけで判断してるだけだ。俺は、俺の人生を犠牲にしてまで聖人のように他人を救う義務なんか負ってない」

第四章

「お互い、神様かなんかなら良かったな。それならきっと誰も飢え死にしないような魔法を使えたかもな」

第四章

ニッシンの信念に「わかるー!」となってしまった。そして、その後のこの言葉にぐっと来てしまった。

ただ、こう、際どい言動を天然で説明したり、胸を気にする女の子の発言とかっていうのはどうしても入れなきゃダメなの!?と思ってしまう。タイツ破れてたり狙った感じのイラストも微妙……内容面白いのに、ノルマみたいに入れられてるのどうなんだろう……。そんなのなくても市場で絡まれたときの向き合い方や、嫉妬しつつも仕事に関してはきっちり教えてあげてるところで女の子キャラクターはちゃんと魅力的だったのに。このレーベルである限り無理な話なのかな。でもアップデートしてほしいです。読んでいて苦痛だし、そのうち本当に読む人いなくなっちゃうんじゃないかな。

『成瀬は天下を取りに行く』宮島未奈(新潮社)

オーディオブックで聴きました。
最近、「この本読もうかなー」と思うと、オーディオブックにもう入ってる!ってことが多い。この本の続編の本も、5月31日からオーディオブックで聴けるらしく、タイミングよかったなんて思いつつも、こんなにすぐ聴けちゃっていいのかな!?なんて。

まあ、Audibleの料金は払っているし、じゃあいざ元が取れるほど聴こう!と思うと読むより耳で聞く方がちゃんと時間がかかって大変なのですが。

本文内で出てきたのでパフェやコロッケが食べたくなってしまったのですが、用意できず(笑)

今年の本屋大賞の一冊。話題になっていたのですが、出遅れつつも耳で読了しました。
成瀬あかりという破天荒な、しかしどこかにいるような、いてほしいと願いたくなるような女の子が主人公。彼女と、彼女とどこかですれ違う人々のお話。
読んでスカッとする感じでした!

以下は特設サイト。

あんまり本や小説読まないけれど、という人にオススメしたいかも。
というのも実は聞き終わった後、正直「えーと、それで?」と思ってしまったところがありました。たぶん、成瀬の人生をめいっぱい切り開いていく姿勢が眩しいながらも、自分にとっては特に新鮮でも目新しくもなかったからです。それは、これまで読んできたいろんな物語やいろんなキャラクターから既に受け取ってしまったので。これは作品の評価ではなく、単に摂取した順番や時期の問題。

でも、いわゆる「女言葉」で話さない登場人物は安心します。最近、本を読んでいて「〜なのよね」とか言うかー?とか考えてしまうので。

あと森バジルさんを思い出した。最近、お笑いコンビのエピソードを入れるの、流行りなんだろうか。作家さんが書いてるからか、ネタが普通に面白い気がして、1回戦は突破できそうだと思ってしまった。

オーディオブックだと、滋賀弁っぽいのが聞けて面白かったです。
ところで朗読の方、「鳴瀬まみ」となっていたんだけど「なるせ」なのかな(笑)?

『銀河英雄伝説5 風雲篇』田中芳樹(東京創元社)

本伝の半分まで来ました!10年以上前、最終巻だけ読まずに放置してしまったのでオーティオブックで再履修中。

ヤンが紅茶党なので、ここは倣って。ムーミンのブラックティー、ルバーブ&ストロベリーフレーバー

まずは、このオーディオブックの朗読者・下山吉光さんが本当にお見事過ぎる。ハキハキしたしゃべり方でちょっと難しい用語もさっと頭に入ってくる。とんでもない量の登場人物も、演技でかなり区別がついててとても助かります。

戦術・戦略もワクワクハラハラしちゃうんだけれど、今回は特に民主政治VS専制政治のところが、考えこんでしまった。
チャプター9のユリアンとシェーンコップの問答、チャプター10のラインハルトとヤンの問答……。
「専制政治の罪とは人民が政治の害悪を他人のせいにできるのです」
「私が嫌いなのは、自分だけ安全な場所に隠れて戦争を賛美し、愛国心を強調し、他人を戦場に駆り立てて、後方で安楽な生活を送るような輩です」
(オーディオブックを文字起こししたので原文ママではないです)

ポプランがとてもよかったので今後どうなるのか、次巻も楽しみです。

『迷子手帳』穂村弘(講談社)

本屋さんで手に取った一冊。猫がかわいかったのと、帯(?白い部分のカバー)に書いてあるインコのエピソードが強烈過ぎた(笑)。

暑い日でアイスコーヒーを頼んだ

カバーを外したデザインもかわいい。手触りもいいんです!

この日はこの本とお金だけ持ってふらっと散歩に行きました。我ながら粋だな、と悦に浸った。

歌人・穂村弘さんのエッセイ。北海道新聞に掲載されたものもあり、4プラの話などはぐっときてしまいました。
エッセイの中に、短歌の紹介もあったりします。

穂村さんの言葉を読んでいると、私にもよく見る夢の話ある!とか、何かが起こるかもしれないと思って放課後に残ってしまう気持ちわかる!とか、対話している気持ちになるのが不思議です。

猫飼い始めたんだ。いーなー。と、勝手に友人に対するように心の中でつぶやいてしまいました。猫に対して全員語彙力を失っているエッセイ、最高だった。

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