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本日の本請け(2023.12月)

本に合う「本請け」を決めて読書中。

『人間をお休みしてヤギになってみた結果』トーマス・トウェイツ(新潮文庫)

ゆる言語学ラジオを聞いていたら出てきた本で、電子書籍があったのでつい購入しました。

イギリスのグラフィックアーティストの著者が、ヤギになりきるプロジェクトを「ガチ」でやるエッセイ。人間を休みたい時期、誰にでもあると思うんですがこんなに「本気」なことはなかなかないですね……。

ヤギミルクのシュークリームと、普通の牛乳(笑)

毎日行き帰りの公共交通機関で、こいつめちゃくちゃだな!と思いながら読んでいたのですが、解剖の写真がなかなかにグロくて周囲に迷惑がかかってる気がして、途中からは家で読みました。Kindleだと白黒だったのですが、iPadで読むと鮮やかにカラー!でさらになかなかの画像でした(笑)。
これ翻訳大変だな、と思ったけれどあとがき読んだ感じ、翻訳者も愉快な人だった。

これに合うのはこの店のお菓子しかあるまいて、とヤギミルクの専門店に行っておやつを購入してきました。ちょっと甘かった。

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』小野寺拓也、田野大輔(岩波ブックレット)

オーディオブック、次は何にしようかなと思って見つけてタイトルを見ておっ!となったもの。

プレスバターサンド、めちゃくちゃおいしい

というのもたまに、子どもたちの中で「ナチス良いこともしたでしょ」と言う子に出会うこともあるんですよね。
そういうときに咄嗟に何も言えないとかありまして……。

これを聞いて思ったのは、良いことに見えることはたいてい、ナチスの前のワイマール時代から行われているなどナチスのオリジナルのアイディアではないか、ナチスがドイツ民族として一致団結するためだったなど裏の目的があるものか、なんだなということ。

レビューに「オリジナルでないことは『良いことをしていない』ことにはならないのでは?」というものが書いてあって、読む前はちょっと確かに?なんて思ってしまったのですが、要はナチスを礼讃することは「逆張りしたい」「みんなが知らないことを知っているという欲を満たしたい」というものでしかない、とバッサリとも言っていたので、そういうことなんだろうな、と思いました。

まあ子どもたちが言っていたときには、その気持ちを汲み取って慎重に対応したいところなのでバッサリと言うわけにもいかないかなと思うのですが、反論できる道具は身についた、と思う。

お菓子はプレスバターサンドなんですが、おいしすぎて大事に大事に食べています。

『ななつのこ』加納朋子(創元社文庫)

駒子シリーズの新刊が出ることを知り、わあわあとなりました。
高校生の頃、本好きの友達に勧められて読んだこの本。友達に新刊出ることを連絡しちゃいました。
読み返さなきゃね!なんて話をしたので、読むことに。Kindle Unlimitedにありました。

このシリーズの始まりといえばということでトマトジュース!

しかし、出てくるネタが読んだ当時から若干古い気がしていたのですが、今読むと遥か昔に思えてしまう。1999年初版だったんですね……。
スイカジュースの話でお友達の愛ちゃんの弟が犬を逃しちゃった、というエピソードは、犬がどうしたのかというより「飼い犬を放すなんて誰かに危害を加えたらどうしようと思わないのか!」とコンプライアンス意識が先に来てしまう。
そもそもふたりの主要人物の出会いも……今はもうダメでしょ……となっちゃった。
ぽけっとしているようで繊細な人物として描写される主人公駒子も、ちょっと開き直っているというか図太いようにさえ思えてきました。でも、そこが駒子の魅力かな。

でも、1999年に心の機微が含まれたお話があったんだなあ、って再度ほう、という気持ちにもなりました。
あと2巻を読んで新刊に備えたい。

『レーエンデ国物語』多崎礼(講談社)

書店で見かけることが多くあり、そんなにファンタジー好き!ってわけじゃないし……と思いながらも気になっていました。

『はてしない物語』には夢中になったけど、「指輪物語」も「ハリーポッター」もかじっただけで全部読んでない。逆に今さらなんだか手は出しにくい。せっかく今発売してるんだし、読んでみてもいいかな。そんなことを考えて夏に購入。
とにかく、カタカナの言葉や位置関係が面倒な性質なのです。
誰が誰で……今どこにいて……といまいち乗り切れず、最初を読んで、しばらく経って、また最初から……と繰り返していたのですが、いいかげん今年も終わる!とある日、喫茶店に行き集中して読み始める。

するともう夢中になっちゃって、最後の方、5分の1ほど残して忙しくなったときには続きを読ませてくれ〜!と暴れたくなりました。

チョコタルト。お皿クリスマスでよかった

最後のあたりぐっときて感動しつつ、レーエンデの神秘性や迷信深い一族について文字だけでなくもう少しエピソードを序盤に盛り込んでおいてほしかったなと。いろいろ起こってから説明されてもピンとこなかった。
そもそも今ファンタジーをやる意味みたいなものが見出せなかった気もする。続刊があるのでそこからなのかもしれないけれど、政治の道具にされそうな娘というのもよくあるステレオタイプに見えて。特設サイトとかがあるのもブームを作り出そうとしているように感じてしまった。

とはいえ、指輪物語とか既存のものってなかなか手が出しにくいので、今の時代に手に取りやすいファンタジーを作ろうっていうことなのかもしれない。リアルタイムだからこそ追いたくなるかもだしね。
面白くは読んだので、次も楽しみ。トリスタンが好きでした。

『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子(新潮社)

オーディオブックの新作をチェックしていたら出てきた作品。
オーディオブックを聴き始めた頃使っていたアプリでは、声優さんが一作品に複数人出てくるものがよくあったのですが、Audibleにしてからはほぼ出会うことがなくて。
この作品では、章ごとに語りの人物が変わります。その章でしゃべってる人はずっとひとり。
セリフごとに声が変わるのも楽しいけど、わかりやすかったです。
最近、気になっている声優さん、小林千晃さんが朗読のひとりに名を連ねていたので「おおっこれは聞かねば!」となり聴き始めました。
いやあ、面白かった。

そば茶にしました

まず最初の第一幕でぐっと惹きつけられました。芝居がかった一八の語りが、この世界観の導入にぴったり。リズムが良くて、飽きなくて、はっきり聴き取れて最高。

冒頭が聞けます。

第一幕は試し読みもあります。

読んでいるうちに芥川龍之介の『薮の中』を思い出しました。
ひとつの視点から語られるひとつの出来事。それが重なっていくうちに積み上がっていく違和感。
みんなの語りが、どこかで彼ら彼女らが歩んできた道のりに影響を受けていてそれぞれ違う。
武士の家の少年に、芝居小屋のみんなが食べ物を分けてあげる場面がとても良かった。身分も違う、生きてきた道も違う、だけれども食べ物を分け合う、助け合う。そのことがありありとわかる場面だったからです。
社会的に差別もされていた芝居小屋の人々は、しかし、自分で自分の生きる道を選択してきた者たち、自分の気持ちに従ってきた人たちで、とても魅力的でした。

このインタビューがとても良かった。

時代小説だけど、生まれに支配されている人々の苦悩は現代に通じるものもある。だから、その連帯にも感動できる。
加えて著者の言うように、時代が離れているからこそ切り離して楽しむこともできる。

なんとなく聴こうと思って聴き始めたけれど夢中で5日であっという間に聞いてしまった!とっても良かった!

『百姓貴族』荒川弘(新書館)

新刊だー!と思って早速読みました。
今年はまさかのアニメ化されましたが、なるほど、こうやってアニメ化するのか〜!と感心しちゃいました。なんというか、テンション感がすごくそのままでハマってた。

道産小麦のベーグルと、道産牛乳で!

コロナ時の農家事情、編集長と共に北海道取材旅行へなど、今回も楽しかったです。ワインが秒で消えるの笑っちゃった。
防風林をなくすとそれはそれで被害がっていうのは知ってたけど、風景としてしか見てなかったので枝拾いとかあるのか!となりました。あと私も帯広行ったときにリス見たなあ。

そして、アニメ2期やるそうです。楽しみ!

『百鬼夜行 陽』京極夏彦(講談社文庫)

今年は京極夏彦の百鬼夜行マラソンをしたので、そのしめくくりに……。

クリスマスプレートが似合わない(笑)

本当は新刊が出る前に読み終わりたかったのですが(特に「蛇帯」などは新刊にがっつり絡んでいたので)間に合わなかったので、今読みました。
榎木津の「目競」は彼が探偵団を始める決意をする話で、好きでした。

「雨女」で、親の厄年に生まれた子どもを一度道端に捨て、それをえらい人に拾ってもらって親に返すっていう厄落としのための風習が出てきて、儀礼的でも「子どもを捨てる」という行為にものすごく嫌悪感抱いてしまってうわあ……ってなりました。

これで新刊が出るときいてまとめて買った百鬼夜行の電子版のシリーズ全部読んだ!と思っていたら、あと一冊『今昔続百鬼 雲』が残っていました。来年に持ち越し!

『みんなで読む源氏物語』渡辺祐真(ハヤカワ新書)

SFのイメージで、新書のイメージもない早川書房からの出版物で驚きましたが、源氏物語の本。新刊で、SNSで見かけて面白そう!来年大河紫式部だし!と思って買ったのですが、当たり、もう大当たり!めちゃくちゃ面白かった!

お茶がいいな!とほうじ茶と共に

電子書籍はどシンプルなんですが、書籍の方のカバーは豪華で目を引きます。

「国文学者や日本語学者、歌人に能楽師、芸人、物理学者、英→日の「戻し訳」や最新の現代語訳を手がけた作家、翻訳家まで、『源氏』に通じ愛する面々が多方面から集結。1000年以上にわたりこの作品が読み継がれる理由に現代的な観点から迫る」と説明には書いてあり、それぞれが語る源氏の姿が多岐に渡っていて面白い!

私は源氏物語、大和和紀さんの「あさきゆめみし」で履修したクチなんですが、一緒の人がたくさんいて嬉しくなっちゃった。

能楽師の方の話も面白かったし、何人称の語りか?というのも面白かった。
世界文学としての見方や、ケアの面からみた光源氏もすごく興味深い。

後半に行くほど話が難しくなるんですが、特に第8章の「データサイエンスが解き明かす『源氏物語』のことばと表現――本居宣長からChatGPTまで」が、何を言ってるんだ!?となりつつも、今年ずっとゆる言語学ラジオとゆるコンピュータ学ラジオを見ていたので、あれ、苦手な分野なのにちょっと……意味がわかる!?となって感激しました。笑

アルゴリズムとかで分析すると、当時の人にしかわからないちょっとにやっとしたニュアンスで読まれているらしい隠語、とかもわかるというのがすごかった〜。

角田光代さんの訳と、英訳からも戻し訳がめちゃくちゃ気になる。

そして一年もかけると、作品の世界にどっぷり浸れます。これはどれだけ頭を働かせたり、理屈をこねたりするよりも、手っ取り早く作品世界に入り込むための極意だと思います。とにかく時間をかける。分からなくてもいいから、根気強く作品と付き合う。その尊い時間の中で、自分にしか見つからない作品の魅力がきっと見つかります。

あとがき

あとがきのこの言葉がとてもよかった。

まえがきここから読めますのでぜひ!

『ガザとは何か〜パレスチナを知るための緊急会議』岡真理(大和書房)

先月『ガザに地下鉄が走る日』を読んでから情報をチェックしていたら、岡真理さんの新刊が出るということで購入しました。
10月20日に京都大学、10月23日に早稲田大学で開催された緊急セミナーに加筆修正を加えられたもの。
「ガサ」になっているところを見つけて、ああ、本当にすばやく知らせたいからすぐにかたちにしてくれたのだなと思いました。

合った飲み物とか食べ物とか考えるのもちょっとなと思ってシンプルにしました

引用いくつもしたくなってしまい、もう、読んでください、読もう!と念じるばかり。

質疑応答の部分が収録されていて本当にありがたかった。

もっとも基本的なことは、やっぱり正しく知ることです。まずは正しく知る。それから、周りの人にそれを知らせる。どんな形でもいいです。  また、ネットの中には非常に理性的な、バランスの取れた記事があります。ただ、それはニュートラルということではありません。この状況の中で「中立」などと言うのは、虐殺している側に加担していることになると私は思います。

ガザやパレスチナに対して、今私たちにできることは?

私たちにも本当に無関係ではない、というのはここで感じました。

問題の根源は、入植者による植民地主義です。ここで問われているのは、植民地主義的侵略の歴史にどう向き合うか、ということです。それは、日本の歴史の問題、日本に生きる私たちの問題でもあるのです。

ガザやパレスチナに対して、今私たちにできることは?

さっき言ったように、イスラエルは公共外交で、いろんなフェイクニュース、対抗情報を流しています。そうすると「こっちはこう言っている、あっちはこう言っている。でも、自分にはどっちが正しいか判断できない。だから何も言わないでおこう、間違ったことを言いたくないから」となってしまう。イスラエルとしてはそれでいいんです。パレスチナ側に立つ発言をさせなければ、それで成功なんです。
 だから、やっぱり調べることです。分からなかったら、いつでも聞いてください。

専門家でもないのにパレスチナを語っていいのか

今年のベスト本

12月なので、今年のベスト本、何かなと考えました。

印象的だった、という点では市川沙央『ハンチバック』でしょうか。
電子書籍やオーディオブック、というものについて考えました。特に、オーディオブックがもっともっと普及してほしい。権利者への還元はしっかりされないといけないとはいえ、もう少し手が出やすいものにならないかな……どうしても作品数やジャンルが限られているので……。

あとは、今年発売ではないですが、岡真理『ガザに地下鉄が走る日』。上の『ガザとは何か』も合わせて。

『ガザに地下鉄が走る日』で、講義をしたときに学生が「人々が屋根があるところで暮らしていてよかった」と感想に書いていた、というエピソードが忘れられなくて。
筆者は気持ちの優しい学生なんだろう、と書いているのだけど、後々それが「よかった」なんて言えることではない、という話を淡々と綴っているのです。
いやー、現役の学生だったときに話を聞いていたらこういう感想自分、書きそうだなと思って。
勝手に「よかったこと」にして、それを見つけて安心して自分の心を守る。そこにある真実を見ようともせず。
今もそんなことを繰り返している気がするよ。

物語として面白かったのは恩田陸『鈍色幻視行』
もう一回記憶なくして読みたいな。

クリスマスに書店に行ってしまい、また積読を増やしてしまったので、なるべく解消していきたいです。

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