スグリくんに見るかつてのライバルのおもかげ(「ポケモンSV・ゼロの秘宝」感想)
『ポケットモンスタースカーレット・バイオレット』(以下、ポケモンSV)のDLC「ゼロの秘宝」前・後編のストーリーをクリアした。
新たなフィールド、新たに出会う登場人物ポケモン、そして個性豊かな登場人物たちに、プレイしながらワクワクしっぱなしだった。
しかし、クリアして以降も喉元に刺さった魚の小骨のように引っかかる存在がいる。
そう、スグリくんである。
本投稿は、ゼロの秘宝の思い出を振り返りつつ、スグリくんに感じた感情をちまちまとまとめたものである。
なお、スグリくんに対して抱く感情はもちろん人によって違うと思うので、ただのいち個人の備忘録程度に読んでいただけるとありがたい。そしてネタバレもふんだんに……いや、むしろネタバレしかないのでご注意されたし。
ゼロの秘宝・前編「碧の仮面」
東北地方をモチーフとした「キタカミの里」に林間学校に訪れた主人公。緑あふれるキタカミの地で、オリエンテーリングに勤しみながら、土地の伝承を紐解いていく。そこで行動を共にするのが、キタカミ出身であり、イッシュ地方の学校・ブルーベリー学園に通う姉弟のゼイユとスグリ。
特に弟のスグリは主人公とオリエンテーリングにおけるパートナーとなり、キタカミに伝わる歴史と伝承を一緒に辿っていくなかで、いつしか友達に。
しかし、里に伝わる伝承と事実には乖離があることがわかる。
ざっくり説明すると、下記の通り。
・男と鬼(ポケモン)が異国からキタカミの里にやってきたが、キタカミの人々は自分たちと違う姿の彼らを受け入れず、男と鬼は里から離れたところでつつましく暮らしていた。
・それを不憫に思ったお面職人が、きらびやかな4枚のお面を作りふたりにプレゼント。その面をかぶって、キタカミの祭りに遊びに来れるようになった。
・しかし、その面をうらやましく思った欲深いポケモンがお面を奪い取ろうとする。偶然居合わせた男はポケモンからお面を守ろうとするが、鬼が帰ったときには男のすがたはなく、争った跡と1枚のお面だけが残されていた。
・鬼は男を探すためにお面をつけて里に下り、悪いポケモンたちをやっつけた。しかし、里の人々は鬼から里を守った悪いポケモンを「ともっこ」として祀り続けている。
なんとも業の深い昔話である。
そして、何百年もの間、洞窟でひとり暮らしていた鬼と主人公が出会い、悪いポケモンに奪われたお面を取り返すという筋書きに。
仮面を取り返したり、悪いポケモンをこらしめたり、村の人のオーガポンに対する認識を変えたりと奔走する主人公と姉弟たち(スグリくんは最初仲間はずれにされつつ、村の人を懸命に説得する場面も)。しかし、オーガポンと主人公の絆が深まるにつれて、もともと「鬼さまガチ勢」のスグリくんの不満が爆発。どちらがオーガポンを捕まえるか勝負することに。
え、スグリくん可哀想がすぎない…?
以上が「碧の仮面」所見の感想である。キタカミの里にひょんなことからやってきた主人公、その土地で元々暮らしていた人(スグリくん)を差し置いて、オーガポンと仲良くなっちゃって、バトルにも勝っちゃって、主人公ムーブが過ぎないかい……?
ここで始めて知ったのだが、BSS(ぼくの方が先に好きだったのに)というジャンルがあるらしい。
僕の方が先に好きで、僕の方が鬼さまのこと知ってて、昔から想ってたのに、ひょんなことからキタカミにやってきた余所者ーーしかもみんなとすぐ打ち解けることができ、バトルも強いーーが、憧れてたポケモンといつの間にか出会い、あっという間に仲良くなって、仲間にしていってしまう。
間違いなく、これは「BSS」案件。スグリくん……なんて不憫。
そう思っていた。このときまでは。
ゼロの秘宝・後編「藍の円盤」
後編では、イッシュ地方のブルーベリー学園に交換留学に行く主人公。様々な自然を再現し野生のポケモンと出会える「テラリウムドーム」で授業を受けたり課外活動に参加する。学園の部活動のひとつ「リーグ部」への参加を提案された主人公は、ブルベリーグの現チャンピオンがスグリであることを知る。
そんな状況を見かねた元チャンピオンで現四天王のカキツバタ。主人公はカキツバタから「チャンピオンを倒してほしい」というお願いを受ける。
頼まれても頼まれなくても、そこはパルデア地方のリーグチャンピオンである主人公。四天王であるアカマツ、ネリネ、タロ、カキツバタをばったばったと倒していく。
正直、こんな風に留学先の強い奴らを倒していって、ブルーベリー学園との関係性がぶっ壊れないか心配になるレベル。向こうにもメンツってもんがあるだろうよ……。
カキツバタを倒したところで、ようやく現チャンピオン・スグリくんに挑めるように。
いよいよ、スグリくんとの対戦である。前回、オーガポンをどちらがゲットするかをかけて勝負をした記憶が蘇る。
あの頃は髪の毛も下ろしてあんなに可愛かったスグリくん。なぜそんな、大奥にいそうな感じの髪型にしてしまったの……?
とはいえ久しぶりの再開。ここはオーガポンにも登場してもらい、感動を分かち合おうではないか。
バチクソ怒られた。ごめん。
しかし、怒りたいのはこちらも同様である。なぜならば、「藍の円盤」の大部分をオーガポンメインで戦い続けてきた私、スグリくんに負けず劣らずの「オーガポンガチ勢」になっていたからである。
オーガポンのこと「鬼さま」って言わないで
だって、オーガポンとても可愛い。
正直言って当初は、主人公としてプレイしている自分でさえも、「オーガポン、なんでこんな主人公のこと好きなの……?」と疑問に思っていた。
でも、よくよく考えてみればそれもそうで、今まで何百年もの間、自分を誤解して迫害まがいの伝承を残してきたキタカミの里のことをオーガポンは好きになれるだろうか……?
男と一人とポケモン一匹でつつましやかに過ごしていたのに不当な扱いを受け、仮面を作って祭りに参加できたと思ったら、やってきた悪いポケモンに男と仮面を奪われ、そんな悪いポケモンを「鬼を倒したありがてぇポケモン」として祀り続けるキタカミの人々。
オーガポンが「キタカミの里ゆるすまじポケモン」になっていたっておかしくはない。
ここから先は更に推測だけれど、そんなところに自分を大切にしてくれていた、そしていまはいなくなってしまった異国の男と同じ香りがする、なんか強いポケモンを従えた人間が上陸したらどうだろう?(現実世界の日本の昔ばなしでいえば、鬼=外国人、特に欧州の彫りが深い男がモチーフになっていることが多いし、パルデアのモデルとなったスペインから、戦国時代に実際に日本にやってきた宣教師などもいる)
そんな気配を感じたら、祭りの日に主人公のもとへ、仮面をつけたオーガポンがこっそり会いに来たのもうなづける。
そして、オーガポンにとっての悪者(ともっこ)を倒し、スグリくんのおかげでその誤解が解けた(?)とはいえ、何百年も誤解をしてきたり、真実を黙り続けていたりしたキタカミの里に対して、ほとほと愛想が尽きてしまうのではないか。仮面を取り戻してくれた主人公と、一緒に過ごしたいと思うのも当然ではないか。
それならば、異国の男と共に過ごしたくても叶わなかった時間を、今度は主人公とともに幸せに過ごしてほしい。
そんな「オーガポンガチ勢」の私は、オーガポンのことを「鬼さま」と言って、キタカミの伝承ありきで語るスグリくんを許すことはできない。
そもそも、いまのオーガポン、おめんポケモンなので。名前に”オーガ”ってついてるし、元来鬼なのは否定しないけれども。仮面をもらってからは「おめんポケモン」なので……!鬼のイメージを勝手につけ続けてアップデートできなかったのは、キタカミの人々じゃないか。
スグリくんのテラパゴスを見る視線
さて、スグリくんがオーガポンに対して抱く感情が、「1匹のポケモン」ではなく「俺の大好きな鬼さま」である気がしてならない私。
更に、テラパゴスに対する視線を見てみたい。
ポケモンバトルが強く、ポケモンにも人にも好かれ、自分の欲しいものをかっさらっていく主人公。スグリくんが主人公に感じる嫉妬心は募りに募り、強くなることに固執し、だんだんと周りが見えなくなっていく。リーグ部の面々には強い言葉を吐き、主人公には不快感を隠すことすらしなくなった。
しかし、ブルベリーグのチャンピオンをかけたバトルでも、スグリくんは主人公に勝つことはできなかった。
そんなスグリくんが主人公を超えるために、次に見出したのはエリアゼロ最深部に存在するとされるポケモン、テラパゴス。
そこに現れたのはパルデア地方ポケモンリーグのトップであるオモダカと四天王のひとりチリちゃん。二人から、エリアゼロ最深部の調査担当として、ブルーベリー学園教師のブライアと、主人公、そしてスグリとゼイユに白羽の矢矢が立ったことを伝えられる(カキツバタ氏は逃亡)。
(というか、そんな大切な調査なのに、よその国の先生と生徒に任せていいのか、パルデア地方のポケモンリーグは……。危険なところに大切なリーグの戦力はやれない的な理由じゃないだろうね……?)
早速、エリアゼロに向かう主人公たち。最深部には確かにテラパゴスとみられる結晶体があった。
「ゼロの秘宝である」ーーただそれだけの理由で、テラパゴスさえいれば主人公に勝てるという根拠のない考えに囚われ、ゲットしたいと息巻くスグリくん。
そして、目覚めたテラパゴスは主人公の方へ向かって歩みを進める。そこへマスターボールを投げたのは、スグリくん。
オーガポンをゲットできなかったスグリくんは、今度こそ自らが欲するポケモンを手にすることに成功したのである。
そして早速、主人公にバトルを挑む。しかし、テラパゴスはスグリくん自身が期待した力を発揮することなく、主人公に敗れる。
ポケモンを主人公に勝つための手段として見るスグリくんのこの視線、なんだか既視感が、とある人物のおもかげがある気がしてならない。
ライバルとしてのスグリくん
それはポケモンシリーズ初代のライバル、グリーンである。
完璧なポケモンを探し、勝ちまくるコンビネーションを探し、リーグの頂点に辿りついたグリーン。
そして、血が滲む努力をして、勝つために手持ちのポケモンを入れ替えて(オオタチさん……)、勝つために努力することを他人にまで強要して、主人公に勝利するために伝説のポケモンを手に入れたいと考えたスグリくん。
どちらも「勝つこと」に固執し続けている。しかし、どちらもリーグの頂きで主人公に勝つことはできなかった。
「ポケモンSV」ではバトル後すかさず校内放送が入り、エリアゼロへと旅立つことになるが、「赤・緑」ではオーキド博士がやってきて、ライバルに下記のような言葉をかける。
スグリくんがテラパゴスに対し「主人公に勝つ手段」としての視線を向けているというのは前述の通り。そして、スグリくんもグリーンも、チャンピオンとして主人公を打ち負かすことにこだわってポケモンを育てているという点も共通している。そして、目的を優先するあまり欠けてしまったものは、「ポケモンへのしんらいとあいじょう」。
テラパゴスを前にしたスグリくんは、テラパゴスという1匹のポケモンに真摯に向き合えていただろうか。これはとてもではないが、首を縦に振ることはできない。
25年前のオーキド博士の言葉が、25年後においても、ずっとずっと生きているってすごい。ついつい感嘆してしまう。
「ゼロの秘宝」とは何なのか
スグリくんが主人公に向けた、劣等感なような、嫉妬のような、羨望のような眼差しは、誰だって他者に対して抱いてしまうものである。世界中の人に尋ねたら、きっとうなづく人がたくさんいると思うし、もちろん私だってそうだ。
「ポケモンSV」本編で登場するネモ・ペパー・ボタンは、仲間であり時にはライバルでもある。だが、それぞれ色々な葛藤を胸に秘めながら、主人公に対してはまっすぐに誠実に向かってきてくれた。
でもたぶん、みんながみんな、そうはなれない。「そうはなれなかったライバル」という存在が、「ゼロの秘宝」におけるスグリくんではないだろうか。
とはいえ、そんなときこそ大切なものを見失ってはいけない。その大切なものは、ポケモンの世界においてはオーキド博士の言う「ポケモンたちへのしんらいとあいじょう」なんだと思う。
スグリくんは、主人公があまりにも「主人公」だから、ちょっとそれを見誤ってしまった、のかもしれない。でも、スタート地点に戻って、ゼロから主人公と友達をはじめようとしてくれた。
スグリくんは「ゼロ」地点に立つことができた。でもそうやって「ゼロ」に戻れない人もいるだろう。そんな人々が、これまでのシリーズのロケット団とかプラズマ団とかギンガ団とかかもしれない。
「ポケモンSV」は既存のシリーズのように明確な「敵」や「悪」がいないと言われている。そんな本作において、わたしたちはもしかしたら、「ゼロ」地点に戻るか/「ポケモンへのしんらいとあいじょう」を忘れてしまうか、その分岐点を見たのかもしれない。……これはあくまでも推測だけれども。
「ゼロの秘宝」が何なのか。それはエリアゼロの最深部にいたテラパゴスでもあるし、ゼロからスタートした主人公とスグリくんの友情のことかもしれない。その答えは分からないけれど、後者の可能性が少しでもあればうれしい。
なんだか少し感傷的に「かもしれない」話ばかりしてしまったので、最後に私の超絶かっこよく撮れたアギャッスさんをおいておく。
この投稿を仕上げている最中、なんと番外編の配信のお知らせが。友達のスグリくんにまた会えますように。オオタチさんにも。
【参考文献】
・ポケモンWikiよりグリーン/引用
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