見出し画像

スタートアップのプロダクトマネージャーに向けた採用のエッセンス

この記事は、Finatextグループ10周年記念アドベントカレンダーの25日目の記事です。昨日は松崎さんが「プロポーズプロジェクト」という記事を公開しています。

こんにちは。株式会社ナウキャストでプロダクトマネージャー(以下、PdM)をしている片山です。

私は6年前にナウキャストがまだ10人前後のタイミングで入社しました。
当時は専任のHRもいなかったので、エンジニアやPdMをやりながら採用活動をやってきました。

数十人規模のスタートアップでは採用が最も重要な経営課題の1つでありながら、事業責任者や現場のメンバーが兼任で採用を推進していることも多いかと思います。
この記事では本業はPdM業務ありつつも、採用までやらないといけない忙しいPdMに向けて最低限抑えておくべき採用業務のポイントを解説したいと思います。


いつでも事業部主導(の気持ちでいる)

採用は事業戦略のKPI

採用の主体は人事部か事業部か?という議論は社内外でよく見かけます。私は迷う余地なく採用は事業部が主導すべきだと考えています。

規模の小さな組織では「事業戦略≒採用戦略」が成り立ちます。
どれだけ戦略を練り込んでも人がいないと実行できませんし、逆に一人の採用が新規事業の起点となるようなことも起こりえます。
なので、事業全体に責任を持つPdMにとって採用は売上と同じくらい重要なKPIになります。

このように書くと多くの方は「そんなことは当たり前だ」と思われるかもしれませんが、以下のどれかに1つでも当てはまればそれはコミットメントが足りていない証拠です。
(私自身もよくコミットメントが足りてないなと反省してます)

  • 採用に使っている時間が全体の1割以下

  • 求人票作成を人事が行っている

  • 採用が上手くいっていない時に「人事部のリソースが足りないから」と思ってしまう

  • なぜ採用に苦戦しているのかを具体的に説明できない

  • スカウトを打ったことがない

  • 直近数ヶ月でエージェントと話したことがない

  • 良い候補者のクロージングに関与していない

事業部しか持たない情報がたくさん

また、採用業務の質を上げるという観点でも事業部が主導することは合理性があります。
採用広報、エージェントコミュニケーション、求人票作成、面接など、挙げればキリがないですが、ほぼ全ての採用業務で事業に関する1次情報が必要になります。
HRはあくまでHRの専門家であり、事業の専門家ではありません。1次情報から2次情報になるタイミングでどうしても情報量が落ちてしまい、これが致命的に採用業務に影響を与えます。

とはいえ、PdMが動きすぎても逆にややこしくなる組織もあるとは思うので、実際はどうであれ最低限気持ちだけは「採用は私のKPIだ!」と思い続けるのが大事だと思います。

採用はオペレーションエクセレンス

経験のある採用担当の採用か相性の良いRPOを見つける

一方で採用業務を事業部だけでやりきろうとするのは悪手です。人事部がある場合は密に連携を取り、いない場合はRPOを採用しましょう

後述しますが採用業務は地味なタスクの積み重ねで、仕組みを整備し、それぞれの業務効率を以下に向上させるかが重要になります。
これをPdMが片手間でやろうとしても忙しくなるだけで、会社に資産が全くたまりません。
優秀なPdMやリーダーほど、自分でスカウトをうち、面談をし、クロージングすれば短期的には成果はでますが、この方法はスケールしません。

また、こここそ人事部の最大の介在価値だと個人的には思います。
事業部にしか出せない価値がある一方で、どの会社も共通したオペレーションの型が存在するのが採用業務です。
人事部が入れ物を作り、事業部が魂を込める」という分担が採用業務のあるべき姿だと思います。

RPOはポテンシャライトさんがおすすめ

別にお金をもらってるわけではないのですが、個人的にはポテンシャライトさんのRPOがおすすめです。

ポテンシャライトのCEOである山根さんのブログは、採用業務をかなり体系的に整理しており、採用業務を学ぶにあたって質の高いコンテンツです。

私がこのブログで偉そうに解説してる内容は、数年前に山根さんのブログを読み込んで仕入れた内容になります。
ポテンシャライトのRPOでは、その知見がスプレッドシートレベルまで落とし込まれており、山根さんを中心に培われたであろうポテンシャライトの採用オペレーションをDay1から体験することができます。

エージェントコミュニケーションは代理店営業

一番手堅く成果が出るエージェント

スカウトやリファラル採用はキラキラして見えますが、投下したコストに対して成果が0であるようなリスクが常に存在します。上手くいってる企業にはそれなりの理由が存在します。

一方でエージェント採用は地味ですが、やった分だけ成果が出ます。限られたPdMのリソースをどこに投下するか迷ったらまずはエージェント採用から着手することをおすすめします。

営業と全く同じことをするだけで良い

売り手市場の採用市場では中小のスタートアップよりエージェントの方が立場が強いです。「エージェントを使う」みたいな意識は完全に取り除きましょう
エージェントと仲良くなり、会社を知ってもらい、紹介したいといかに思ってもらうかが重要になります。
そう考えると、採用は自社というプロダクトを売り込む営業活動とほぼ同じで、そう考えれば営業の領域で培われた先人たちの体系的な知識をそのまま輸入できます

以下では営業になぞらえてエージェントコミュニケーションで重要なポイントを解説します。

まずはたくさんのエージェントと話す

世の中には様々なエージェントがいます。ざっと挙げるだけでも以下の様な軸があり、それぞれの軸の掛け算ごとに無数のパターンが存在します。

  • 大手 or 中堅 or 小規模

  • 国内 or 海外

  • 業種特化 or 業界特化 or 全般

  • スカウト or 自社媒体

  • 両手 or 片手

  • etc

この中から自社で採用したいポジションごとに相性の良いエージェントを見つける必要があります。
営業活動においてまずは顧客とアポを入れまくるのが大事なのと同じ話です。

よく社内から「このポジションを採用したいが、どのエージェントが良いか?」と聞かれますが、正直わかりません。
数百社のエージェントごとに上記の情報を整理するのはそれだけでも大変だし、担当者が変わるだけでも状況は変わるからです。
なので、相性の良いエージェントを見つけるには実際にアポイントを取って、話をするしかありません。

エージェントの目線に立って、熱を持って訴求する

エージェントとの打ち合わせでは双方の相性をジャッジするわけですが、訴求7割、ヒアリング3割くらいのバランスが良いかなと個人的には思います。

訴求で注意するのはエージェントの目線に立つことです。
一般的な営業では自社の商品を紹介する前に顧客にヒアリングを行うことは当たり前です。
これはエージェントとのコミュニケーションでも同様で、エージェントによって関心事や知りたい情報はかなり異なるので、それに合わせた訴求や情報提供を行う必要があります。
文字にすると当たり前ですが、エージェントに関する知識が足りなかったり、顧客気分が残ってると、通り一遍の説明をしてしまい、自社の良さが伝わらないことが多いです。

また、「事業に対する熱」を持って説明することが大事です。その方が、エージェントに「この会社を助けたい」と思ってもらいやすいし、エージェントが候補者に訴求する際も「PdMが熱い人で」と訴求のネタにもなります。

エージェント経由で候補者を口説く意識が大事

エージェントコミュニケーションは代理店営業です
エージェント経由で採用候補者に自社に応募してもらいたいと思ってもらうために、エージェントに武器を渡すことが重要です。

武器を渡す上でまず大事なのが自社へのラベリングです。エージェントは毎月数十人の候補者に数十社の会社を訴求しています。
候補者とのMTGの中で個社の訴求時間はだいたい数分程度です
なので、「○○は××な会社です」というシンプルなラベルがとても重要です。
最適なラベルはエージェントによっても変わるので、事前にいくつかラベルを用意しておいて、エージェントに応じて変えましょう

次に重要なのが採用広報資料です。
スタートアップの事業は複雑であることが多く、魅力の理解にも時間がかかります。
候補者へエージェントが0から事業の説明することは実質不可能です。
なので、先述のラベルで興味を惹いて、後は採用広報資料を共有するという流れがとても重要です。エージェントが候補者に共有できる資料作りは必須と言えると思います。

必ず定期的に連絡をとる

相性がよいエージェントが見つかったら必ず定期的に連絡を取りましょう
先述の通りエージェントは多忙です。一度MTGをすれば未来永劫紹介してくれることはまずありません。
定期的にMTGや電話をして、自社を思い出してもらいましょう

エージェントとの定例には情報収集というもう1つの大事な側面があります。
採用市場、エージェント側の状況、自社の状況は常に移り変わります。母集団形成の状況、候補者のリアクション、断られた理由などを常にキャッチアップしないと、エージェントコミュニケーションの施策を正しく考えることができません。

ただし、定例まで全てPdMが回しだすと流石に忙しすぎるので、このあたりから人事部としっかり連携を取っていくのが良いと思います。

ダイレクトリクルーティングは程々に

因果関係の罠

Freee、Google、Ubie、コンサルなど、採用の事例を調べているとダイレクトリクルーティングの成功事例をよく見かけると思います。
これを見て「エージェントじゃなくて時代はダイレクトリクルーティングだ!」となるのは罠です。
採用力のある会社でダイレクトリクルーティングが上手くいっているだけで、ダイレクトリクルーティングをすれば採用力が上がるわけではありません

ダイレクトリクルーティングは総力戦

ダイレクトリクルーティングでは、スカウトなどで初回の接点を持った際に候補者に「話を聞いてみよう」と思ってもらうことが極めて重要になります。
個人的な感覚ですが、ここのコンバージョン率の7割は事業の魅力、給与、認知度など採用施策で短期的には変えづらい変数で決まります
モテる人はどんなに雑なメッセージを送っても返信が来ますが、普通の人はメッセージを工夫しても返信が来ないのと全く同じ原理です。

運用も結構大変

加えて残りの3割の変数の管理も結構大変です。
候補者のピック、文面の工夫、採用広報施策の推進、媒体の選定など、毎月毎月やり続けないといけないことがたくさんあります。
加えて、本当に高い質を目指すには事業部側のリソースもかなり消費します。
例えば、Freeeさんはリーダークラスの人が毎週スカウトを打つ時間があるらしいです。

これを回し続ける体制の確保ができないなら、特に数十人の組織では安易に手を出すべきではありません

ダイレクトリクルーティングの優先度はちゃんと見極める

ダイレクトリクルーティングは相性の良い会社がやれば、めちゃくちゃ成果の出る施策である一方で、生半可な気持ちで取り組むと媒体費用と運用リソースを闇雲に消費するだけの施策になります
まずはスモールに進めて、相性を見極めながら優先度を決めることが重要かと思います。

採用広報は採用体験から逆算して的を絞る

第○想起とか大体獲得できない

採用広報もダイレクトリクルーティングと同じで優先度の見極めが重要な施策です。
採用広報でよくメルカリが成功事例に上がります(個人調べ)
「広報を通じて潜在的な候補者からの認知をとり、転職したいと思った時に自社を想起させる」というのが採用広報の基本ロジックで、メルカリはメルカンなどのメディアがそれが上手くいっているという話を数年前はよく聞きました。

個人的にはここに罠があると思っていて、小さなスタートアップがこれを目指すのは、「マッチングアプリで返信率を上げるために、まずはインスタグラマーとして有名になることを目指して、毎日インスタ投稿始めます」くらい的はずれな施策だと考えています。

不可能ではないと思いますが、名もなきスタートアップが第一想起を獲得するには相当広報に慣れた人が必要であり、基本的にはPdMが片手間でできるようなことではありません
なので、上記の様な目標を掲げて採用広報をすることは施策から外してしまって良いと思います。

ここの優先度を間違えて、帯に短し襷に長しなコンテンツの量産にリソースを浪費してしまうのはあるあるな気がします

興味を持ってもらった後の非同期接点としての広報

では、スタートアップは一切採用広報をする必要がないのか?と問われると、そうではないと考えています。

カジュアル面談から最終面接までの選考フローの中で候補者に提供できる情報はとても限られています。
そこで重要なのが選考フローの間で発生する非同期なコミュニケーションです。

ある企業からスカウトをもらったり、選考を受けている時ににその企業についてネットで検索する人がほとんどだと思いますが、これが非同期コミュニケーションです。
その時にたくさんの情報が出てくることがとても重要になります。

つまり、「認知を取るための広報ではなく、認知された後に会社について知ってもらう広報が重要」ということです。
そのためには、バズりやすい情報よりも、ニッチで深い情報が必要です。
採用広報のコンテンツを作る際は、事業の詳細な説明や社員インタビューなどの優先度を上げて、KPIもビュー数ではなく候補者からのポジティブなFBにするのが良いと思います。

カジュアル面談にはできる限り出る

結局はクロージング

これまでは流入獲得の部分を中心に説明してきましたが、次は選考プロセスに移りたいと思います。
選考プロセスも大事なのに意外と人事部任せになりがちです。
良い選考プロセスを作り、クロージングが上手くいかないと、どれだけ流入を獲得しても意味がないので、ここもPdMとしては気を配りましょう。
重要なのは選考プロセスを点ではなく線で捉えることです。

選考意志の獲得こそリーダーの務め

世の中で優秀とされる人ほど引くて数多で、自社に応募しなくてもキラキラのオファーがたくさん届きます。
その中で、「この会社に応募しよう」と思わせる変化を生むのはリーダーの熱量あってのものです

加えて、30分や1時間という限られた時間で候補者のニーズに合わせて「会社のピッチ」を行うには、幅広い事業に関する知識が必要です。

これらを考慮するとカジュアル面談こそPdMや会社のトップが出るべきであることが分かると思います
実際にFinatextでもCEOの林がカジュアル面談に出るケースが多々あり、そこから内定に繋がったケースもたくさんあります。

カジュアル面談からクロージングは始まっている

選考プロセスでは基本的に時間がありません。2~4回程度の接点の中で、候補者をジャッジし、必要な情報を提供し、アトラクトしなければいけません。

また、最適なフローは候補者によって変わってきます。
初回に面談した際に、候補者のモチベーションやキャラクターに合わせて、「あの人ぶつけると良さそうだな」とか「ここのスキルはテストが必要だな」とか「オファー金額がネックになりそうだな」とか、おおよその選考フローの設計を行うことがとても重要です。

これを行うには面接官のキャラ、候補者のスキルの見極め、事業全体のポジションの詳細など、広範な知識や経験が求められ、PdMの様なポジションの人がやることが望ましいです。

カジュアル面談は情報の宝庫

カジュアル面談は流入施策を考えるための貴重な情報源で、ユーザーヒアリングみたいなものです。
候補者に自社の魅力をピッチし続けることで、どういう情報が刺さり、刺さらないのか肌感を常に持ち続けることができます。
毎回刺さる内容から順番に採用広報コンテンツとすれば大外しするリスクを最小化できます。
毎回質問される内容も同じ様にコンテンツにしてしまえば良いです。

また、流入の導線についてもヒアリングができます。なぜうちに興味を持ったか?を聞き続けることで、全ての流入施策を考えるための貴重なファクトを集めることができます。

最後に

網羅的ではありませんが、PdMやリーダーが限られたリソースで採用で成果を出すためのエッセンスをまとめてみました。
一文にまとめると「エージェント採用とクロージングを最優先に、ダイレクトリクルーティングと採用広報は的を絞りつつ、事業部が主導になって人事部やRPOと連携しながら自社のオペレーションエクセレンスを構築することが重要」って感じでしょうか。

これまでの数年間を振り返った時に大事だったなと思うことをまとめただけで、書いてある内容を全て上手くこなしてるわけではないし、これからも精進あるのみだなと思う年の瀬です。

明日の記事はFinatext HDのCFOである伊藤の「組み込み型金融の最前線」です!
お楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?