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作業とクリエイティブ

わたしがフリーランスの編集者・ライターになった理由の一つに、「実はかなり飽きっぽい」という、生来からの性質があると思っています。

毎日定時に出社して、毎日同じ仕事を繰り返すこと自体は、よくよく考えてみると嫌いじゃありません。営業をやっていた頃はわりとそれに近いものがありましたし、日々是ルーティンと思えるような中にも、お客さんへの提案の仕方を変えてみたり、新しい広告企画やその運用を考えてみたりなど、能動的に動けばいろんなことができましたので。

でも、やがて「自分の仕事」が澱みなくこなせるようになってくると、そこに甘えて、何事もほどほどに済ませちゃうところがあります。特に営業職だった頃は、そこそこ数字(売上)が立っちゃうと「これでいいや」になっちゃってたんですよね。だから、日夜スープの仕込みに工夫を凝らし、常に味を進化させていくようなラーメン屋の店主さんにはきっとなれないかも。お店を経営されている方や、お役所勤めの方は尊敬します。

その点、雑誌編集やライターの仕事は、まぁ中長期的にはルーティンワークの塊みたいなところはあるものの、扱うネタはコロコロ変わりますし、ネタによってロケへいったり取材をしたり、目的達成までの手段や方法論が刻々と変化します。そこにクライアントワークが加わってくるので、ジェットコースターのような日々ですね。若い頃は新たな発見や経験がどんどん積み増されていくんで、そりゃもう天職じゃないかしらんと、思ったもんです。飽きるどころかワクワクしかありませんでした。

とはいえ、ある程度のキャリアを積むと、効率よくスピーディに働くことが求められて、コレはしっかり時間をかける「クリエイティブ」、コレはあまり時間をかけなくていい「作業」と、仕事に色分けや区分けをするようになります。どっちがいいとか悪いとか、どっちが重要か否かでなく、仕分けてみて、メリハリを付けて取り組むといった感じでしょうか。

【クリエイティブ】
企画全般、企画に伴う調べモノ、編集プラン策定、取材、テキスト作成、制作伝票

【作業】
取材先のアポ、スタッフィング、撮影や取材のための各種手配や段取り、進行業務、原稿の推敲、校正、売上や経費などの帳票管理、見積書や請求書、報告書などの作成

制作伝票なんて、帳票管理の一つでしょ? そうおっしゃる方もおられるでしょうが、わたしにとってコレはある意味クリエイティブの範疇です。
この企画ではコストがこんだけかかった。この時はチョット捻りを入れすぎたから予算が嵩んだ。逆にこの企画では外部協力が得られて経費が抑えられた、などなど。一つ一つの案件がショーケースになるんで、単なる数字の計算ではなく分析業務。キチンと整理しておけば、別の機会で活用できますんで。ゆえにクリエイティブ枠に入れてあります。

んで、なにかと飽きっぽいわたしは、これらの作業とクリエイティブを交互にやってきました。

自分が書いた原稿(クリエイティブ)を、自分じゃない第三者の目線で推敲(作業)するなんてのもそうですね。執筆に行き詰まっても、フッと肩の力を抜いて冷静に読み直すと、さっきまで気づかなかった齟齬や矛盾点が見えてきます。

また、誰がやっても同じ結果になるデータのとりまとめや、経費の計算といった「作業」も、誰かに任せきっちゃうとそれはそれで問題が生じます。そういう作業から離れてしまうと肝心な時に平衡感覚が鈍りそうですし、「クリエイティブ」にずっと縛られて、そればっかり根詰めてやっていても非効率。たまには無心になって電卓弾く時間も必要です。
逆に作業を任される人は、自分のクリエイティブの時間を犠牲にするわけですからね。

ですので、ウチではお金の勘定が得意な人にだけ帳票管理をやってもらうんではなく、みんなで作業を共有、分担しています。段取り組むのが上手いだけでもダメ、人とコミュニケーション取るのが上手いだけでもダメ、原稿書くのが上手いだけでも勿論ダメ。何かに特化した専門領域を有し、そこにプライドを携えながら仕事をするのは大変素晴らしいことですが、知らない分野のクライアントワークをやらざるを得なくなったら、そんな薄っぺらいプライドなんぞ造作もなく吹き飛びます。複数の分野にまたがって自分の能力を拡張させていくチャレンジマインドがないとやってられません。そのベースが、作業もクリエイティブもそつなくやるという心構えにあるんじゃないかなぁって。

編集者はスペシャリストでありゼネラリストでもあるべきだと思います。


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