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考察: 『会社内での自分の存在価値を可能な限り低く保っていたい』という若手

はじめに

こちらのnote記事を拝見しました。とても興味深く感じるとともに、共感する部分と、どこかモヤモヤとする部分の両方がありました。

このモヤモヤは何かをはっきりとさせたいなと思い、最近読んでいる「心理的安全性のつくりかた」で解説されている行動分析学に基づいて考察してみたいと思います。

私の結論だけ先に書いておきますが、「若手が存在価値を低くしておきたいのは、あくまでその若手が置かれた状況(文脈)が、若手の行動を抑制する側に働いているため = 状況次第」だと考えます。

以下に極端なケーススタディを使って考察していきますね。

導入:行動分析学とはなんぞや

行動分析学が何かを全て記すのは難しいのですが、さっくりと書くと「変えることができない人の内面よりも、目に見える&変えることのできる人の行動にフォーカスする学問」です。
人の行動が増減する仕組みは「きっかけ」「行動」「みかえり」のフレームワークで説明することができます。
例えば、「部下が業務相談に来る」という行動を増やしたい場合、相談に来るという行動そのものを褒めるような「みかえり」を適切なタイミングで与えることが有用です。「なぜ相談に来ないんだ!」と叱責するようなネガティブなアプローチは有用性が低く、褒めるようなポジティブなみかえりが有効とされています。(これ以上の詳細は、ぜひ本を読んで頂きたいです🙂)
またきっかけを整備することも重要です。上記の例で、例えば「上司が暇そう」というきっかけがあるとします。行動の頻度を増やしたければ、きっかけの頻度を上げることが有用です。「暇そう」という偶発的な機会に加えて、相談タイムのような固定機会を設定すれば、きっかけの頻度が上がり、行動も増えて来るでしょう。(現実はそう単純でもないですが…)

このように「行動」に着目することで、その行動の増減をコントロールすることにフォーカスして議論することが可能です。ここでポイントは「行動は具体的であり、主体性を持ってコントロールできるもの」であることです。
例えば「仕事に全力で取り組む」というのは行動ではありません。全力というのは人によって捉え方が違うものであり、色々なアクションをまとめてラベルをつけたものにすぎません。例えば「月に80時間残業する」「雑談をしない」「言われた仕事は断らない」というガテン系のアクションをまとめて「全力で取り組む」と考える人もいるでしょう。その場合、部下を全力で働かせたかったら、上記のような具体的な行動を増やすにはどうしたら良いか、を考えることになります。

考察にあたってのケーススタディ設定

さて、前置きが長くなりましたが、ここからの考察のため、登場人物を立てておきたいと思います。若手くんの設定については、元の記事の内容から、一部想像で補っています。

若手くん
- 会社内で自分の存在価値を可能な限り低く保っておきたい
- ただし仕事を適当にするというわけではない
- 個人のスキル・成果を重視する傾向にあり、そのための時間を確保したい。

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上司:厳(げん)さん

- 若い頃から、滅私奉公の精神で会社に尽くしてきた
- 部署に割り当てられた成果目標を達成するため、部下たちにも若い頃の自分と同じようにキリキリと働いて欲しい

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上司:長閑(のどか)さん
- 最近「心理的安全性のつくりかた」を読んで感化されている
- チームとして成果を生んでいきたい
- チームメンバーの心理的安全性を向上するため、若手くんに寄り添った考察を行ってみる

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厳さんと若手くんのケース

厳さんの目には、若手くんは「今時の若者らしく、どこか必死さを欠いた働き方をしている」ように見えています。「俺が若い頃は、残業上等、自分からガツガツ仕事を取りに行くもんだったよ…。」 厳さんは同期の管理職と酒を飲み交わしながら、そうこぼします。

では「行動分析学」の観点で、厳さんは若手くんのどんな行動を増やしたいと考えているのか、それが若手くんの志向に対して合致するのかを考察してみたいと思います。

厳さんは若手くんに「全力でがむしゃらに仕事に取り組んで欲しい」と考えています。(あえてテンプレート的な古い日本の労働価値観を持ち込んでみました)

この記事の冒頭で取り上げた例そのものですが、これは具体的な行動ではないため、議論するには行動をブレイクダウンする必要があります。「全力でがむしゃらに仕事に取り組む」とは具体的には何なのでしょう?
厳さんの考える行動としては、「弱音を吐かない」+「残業・休日出勤を厭わない」+「与えられた仕事を素早く片付ける」=「全力でがむしゃらに仕事に取り組む」だとしておきます。(あくまでケーススタディなので、ちょっとテンプレ的にやりすぎているところはお見逃しくださいね)

厳さんは潜在意識として上記のような行動を求めているため、厳さんの期待に答え続ける=存在感を示していくほど、さらにその行動の増加・継続を求め続けられることになると考えます。
ここで若手くんの人物設定を振り返ると・・・

一見するとミスマッチです😅

個人のスキル・成果(社外活動含む)を伸ばすための時間を確保したいと言う若手くんの文脈では、がむしゃらに働くことを好む厳さんの元では存在価値を限りなく低く保つ=期待を持たせないことが処世術になり得ます。
(行動の結果、好ましく無いみかえりが与えられるため、行動を抑制し始める)

ではこのような若手くんは、どこに行っても存在価値を限りなく低く保つのでしょうか?私は、そうではないはずだと思います。

長閑さんと若手くんのケース

置かれている事業環境などは長閑さんと厳さんでは同じだとして、上司のスタンス設定を少し変えてみます。

長閑さんは「チームとして継続的に強みを伸ばし、チームで事業を成長させる」ことを重視する、今時のイケてる上司だとします。ただこれもまた具体的な行動ではないので、ブレイクダウンしてみます。具体的には「個々の得意分野を学習する」「チーム内で知見を共有し合う」「強みを活かした事業アイディアを出し合う」と言う感じでしょうか。(これもまたテンプレ的ですいませんが)

この場合、若手くんは業務時間中に自分のスキルを伸ばし、また異動・転職でアピール可能な事業成果を出すことができます。となると、会社の中での存在価値を高めた方が若手くんは得をする=行動を増やすことにならないでしょうか?
(行動の結果、好ましい見返りが与えられるため、行動を増加させていく)

結論:つまり…?

若手くんが存在価値を低くしておきたいのは、あくまで今置かれている状況下で存在価値を増やす行動を増すと、若手くん自身の望まない状況に進んでしまうためだと考えられます。(自分のスキル・成果を獲得するチャンスを逃していく)

極端な例ですが、上記の長閑さんのような上司の下であれば、業務に積極的になり、存在価値を高めていく若手くんの姿が見えてきませんか??

何が良い・悪いは業態・企業・部署によって千差万別だと思います。それぞれの文脈の中でできることは変わってくると思いますが、「存在価値を低く保っておきたい」という若手がいたら、びっくりしつつ、一度行動分析学などの学問をかじって考察をしてみるのも良いのではないでしょうか?

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