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バーで注文するストーリーに出てきたカクテル

まだ20代の頃、バーで注文する時にはありきたりのカクテルではつまらないと思っていた。かっこつけてちょっと変わったカクテルを注文したいといつも夢見ていた。
「マスター、⚪︎⚪︎ってできますか?(メニューにはないけど)」といった具合に。

読書や映画鑑賞が趣味の私は、お酒が飲める年齢になると、ストーリーの中でバーのシーンが出てきてはその飲み物に注目するようになった。そこで知り得たカクテルを、実際にバーで頼んでみようと思ったのだ。

村上春樹の小説にはウイスキーをロックで、ストレートで、というのがよく出てくる。様々な種類のウイスキーの知識を持ち、飲み比べることができたら確かに良いだろうなとは思うが、まだその域には達してはいない。ウイスキーは私にとってはハードルが高い。

小説の中でどんなにかっこよく登場したカクテルであっても、自分が好きで飲みやすいと感じなければ注文することができないから、ただの憧れで終わってしまう。

色々と試してみた結果、ストーリー由来で今でも私の定番となっているカクテルがある。

トムコリンズ
村上春樹 1Q84 から

トムコリンズというカクテルを知ったのは、村上春樹の1Q84で主人公の青豆が飲んでいたから。ジンをソーダで割って、レモンジュースとシロップを加えたシンプルなカクテル。

このカクテルを発明した人の名前が、トムコリンズなのだそう。「そうたいした発明とも思えないけど」と、小説内だったと思うがそう書かれていた。飲んでみても、確かにそうなのだ。

小説の中では、青豆が昂った気分を落ち着かせるため、しばしばバーに繰り出すのだが、シチュエーション次第でお酒を変えるところが、洗練された大人という感じでカッコいい。トムコリンズも、青豆が気に入って飲んでいるカクテルだ。

私はこの、自分とは何もかもかけ離れた青豆という女性が好きだ。たった一人で、凛としていて、信念を持っている。たとえしていることが世間的に間違っていても、大きなリスクを犯していても、彼女の中での矛盾は一ミリもない。

どこかにいそうで絶対にいなさそうな、ダークヒーロー的なキャラクター。

そんな彼女が好んで飲むお酒、トムコリンズ。強いわけでもなく、レモンの爽やかさとシロップの甘さが絶妙に合っていて、炭酸。飲み終わった後、真っ赤なドレンチェリーを口にふくむと、まるで駄菓子のような甘い風味がいっぱいに広がる。

暗殺を犯した青豆も、こんなふうにささやかなハッピーを味わったのだろうか?こんな何気ない味だからこそ、彼女をひとときでも安心させたのだろうか?

そんな想像を、飲みながら巡らせることになる。

コスモポリタン
ドラマ『Sex and the City』から

「私はコスモポリタンにする」

アメリカのドラマ『Sex and the City』の主人公キャリーが、いつも注文していたカクテル。ピンク色でマティーニグラスに入っていて、おしゃれなキャリーが飲んでいると最高にマッチしていた。

このカクテルをよく飲んでいたキャリーの若い頃。いつもミスタービッグに振り回されていて、すっぽかされたり、駆け引きしようとして失敗したり。たくさん切ない思いをしながらも、めげずに立ち上がり、時々このカクテルを好んで注文していたキャリー。デートでも、女子会でも。

キャリーの職業はコラムニストで、いつも言葉を扱う仕事をし「恋愛とは何か。自由とは何か」ということを追求し、色々な人と付き合って旅もした。国際人な彼女にふさわしい、このコスモポリタン。

私はこのカクテルを初めて注文した時、バーテンダーが目の前で作る手順の多さに少し驚いた。作るのにはかなり技術が必要だ。

コスモポリタン

コスモポリタン(英: Cosmopolitan)は、ウォッカ、コアントロー、クランベリージュース、フレッシュライムジュースを用いたカクテル。

「コスモポリタン」は「国際人」といった意味合いである。コアントローのオレンジ風味にクランベリーとライムの味が調和したフルーティは味わいが特徴。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

飲んでみると、クランベリージュースの甘酸っぱさがとても美味しい。爽やかで、シェイクされたばかりの冷たい氷の粒が心地良い。とても飲みやすいのに、一口でもほろ酔いになるような存在感のあるお酒だ。

個人的には、このお酒はバッチリおしゃれをしている時でないといけないような気がしている。キャリーのいちファンとしては。

バーで雰囲気を楽しみながら


お酒はもちろん家でも飲むことができる。けれどきちんとしたバーテンダーのいる店で飲む、技術の込められた一杯のカクテルは本当に美味しい。

村上春樹はデビュー前ジャズバーを経営していたということで、タイムマシーンがあればぜひその店に行ってみたい。

バーには場所それぞれの雰囲気があり、マスターの性格があり、お気に入りの一杯を楽しむとともに、その空気感を味わうことも醍醐味の一つだと思う。そこで何を想像するか、考えるかは個人の自由だ。

村上春樹の小説の中の主人公がよくそうするように、バーカウンターの端っこに座って、本をじっくり読むことだってできる。(実際に憧れて何度もやったことがある)

そんな時には、お気に入りのカクテルが心の中に決まっていると、知らないバーでもなんとなく入りやすい。イギリスのバーでも、アメリカのバーでも、「コスモポリタン」と堂々と注文できるわけで。

これから先も、小説や映画、ドラマの中のカクテルに注目していきたい。ぜひお気に入りのキャラクターの飲むカクテルを、開拓したいと思う。

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