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村上春樹の本のタイプについて思うこと

イギリス人の夫が村上春樹の『スプートニクの恋人』を読んで、理解できない主人公の行動について疑問を口にしていた。

村上春樹の小説には、キャラクターの理解しづらい考えやそれに伴う行動というものが多々ある。そこが私はびっくりさせられて好きなのだが、夫の言うように「なんでそうなるんだよ」と言いたくなる気持ちも理解できる。

村上春樹の本の魅力

村上春樹の小説はとても不思議で、どの小説であっても、読んでいくとこの世ではないどこかの世界に引き込まれていく。違うストーリーであっても、キャラクターたちが生きている世界は同じものなのではないか、と思わせるような一貫性があると思う。


その中でもそれぞれのタイプに分かれる。一つは、万人を惹きつける先が気になる展開のストーリー。もう一つは、理解するのが難しく、キャラクターにも共感しにくく、ややポエティックな要素の強い作品。

私の大好きな、海辺のカフカ。事件が起こり、本当は何があったのか知りたい、小出しに出てくる新しい情報から目が離せない、そんなストーリー。

「早く続きが読みたい!」と思ってどんどん読み進めていき、最後には「なるほど。そうだったのか」となるような話。私は10代からミステリーが好きで読んでいるが、好きな小説のほとんどが、『ページをめくる手が止まらない系』の本だった。

英語では、『page-turner』という。

例えば、1Q84では、主人公は二人。天吾と青豆という二人のストーリーが交互に進んでいき、「二人にはつながりがある!」とまず気がつき、「いつ二人は会うことができるんだろう」とドキドキし、最後には「やっと会えた!」という感動がある。背景も興味深い。

分かりやすく「面白い!」と言いたくなる本で、人にも「読んだ方がいいよ」と勧めたくなる。

私はずっとそういうタイプの本が「自分の好みであり、自分にとって面白い本だ」と思ってきた。

けれど最近では「そうとは限らない」と考えている。

年齢を重ねて変化する本の好み


年齢とはただの数字だ。

という言葉をよく目にするし、おおむね私も賛成する。けれどやはり、世代による考え方の違い、自分が若者から中年になり、外見も内面も変化していく中での変化、というのはごく自然なことであると思う。

例えば本の好み。分かりやすく「面白い!」と言える本は、40代の今でも大好きだ。

けれどそういった本をたくさん読んでいるうちに、より奇抜さを、より斬新なサプライズを、もっともっと、と多くを望むようになっていく部分がある気がする。

あるいは面白い本に出会っても、「これはあの本に話が似ている」と思ってしまうと、若い頃のように前のめりになってその世界に入り込むということが難しくなってくる。

村上春樹の本の中で、「ちょっと意味が分からなかった」と思う本があっても、それは年齢を重ねてからもう一度読むことで、「もしかして、これはこういう意味があるのかな」と違った考え方ができることもある。

自分が変化しているように、まるで本も少しずつ変化しているような錯覚を覚える。

「年齢や経験を重ねたら、こんなに感じ方って違うもの?」そんなふうに感じる本が、たくさんあるのではないかと思う。

村上春樹のスプートニクの恋人や、国境の南、太陽の西は、昔読んだ時に「?」と思ったことが嘘のように、今では理解できる部分がたくさんある。

何より、村上春樹のエッセイを読んだり、インタビュー記事を読んだりして、国境の南、太陽の西は、『一人っ子であることのコンプレックス』が根底にある、ということを今では確信している。

一人っ子として静けさの中で物事を考えることが好きな子、は現代では珍しくはないだろう。けれど村上春樹氏の子供時代には、一人っ子はそうそういなかった。孤独だったのだ。

私も子供を育てながら、その感情をじっくりと想像してみて、物語を味わうことができるようになった。

ジェットコースターのようにただ乗って楽しむ感動ではなく、どちらかというと自分自身との対話の中から生まれる発見、それを楽しむ心というものだ。

散歩をするように、じっくりとそこにあるものを見て、楽しさはあくまで自分で見つけるもの。

新しいタイプの本を読もう

30代後半くらいから気持ちに変化があり、外国のベストセラーも読んでみることにした。やっぱり私の好きなミステリー部門で、英ベストセラーとか(例 ガール・オン・ザ・トレイン)フランスで人気の作家とか。(悲しみのイレーヌ、その女アレックス ピエールルメートル著)、あるいは映画の原作。とても面白かったし楽しめた。

日本の本ばかり読むのではなく、海外で人気の作品を読むことで、違った感性や感覚を取り入れられる。若い頃には洋書は難しいと思っていた。けれど読んでみたらそんなことはなかった。まず「読んでみよう」という心境になるのに、私には時間が必要だったのかもしれない。

どんどん新しいタイプの本を読んでいこう。年齢を重ねていくということは、より多くの感覚を持つということで、「面白い!」と思う本のタイプが増えること、でもあると思うのだ。

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