見出し画像

ストレンジャー・ブラッド

 舌の上の錠剤が溶ける隙も与えられなかったのだろう。無人の倉庫で、相棒は苦しみながら死んでいた。
 床に落ちる液体が血であることは俺でもわかる。たとえそれがモノクロの視界であろうと、あいつの血はいつだって緑だ。凄惨な死に様を海馬に刻み付け、俺は弾丸を込める。

 奴らが殺すべきは俺だった。眼が悪く、荒事を解決するしか能のない探偵を。
 推理をあいつに任せっきりなのがバレたのか、それとも解剖が狙いか。一見して人間と変わらない外見のヤツが異星人だなど、誰も信じないはずなのに。

 この街で俺たちに恨みを抱くマフィアは5組。敵と味方を識別するために、それぞれの組織で身につける衣服の色は決まっている。生憎、俺にはどれが何色かなど判別がつかないのだが。

    *    *    *

 BLAM!

 マグナムが火を噴き、銃を持った男の額に穴が開く。流れる血はたぶん赤いのだろう。豪奢な邸宅のカーペットも、きっと同じ色に染まっている。

「……何をしに来た?」
「本当に覚えがないか? 相棒を殺されたんだぞ?」
「……何の話だ!?」

 生き残りが銃を構えて震えている。間違えたか。まぁ、俺にはもう判別がつかない事だが。

「お前ら、何色だ?」
「……黄色だ」

 BLAM!

 感謝するよ。俺は吐き捨てた。

 やはり、奴らは俺を殺すべきだったのだ。あいつなら的確な推理で犯人を見つけ、正確無比な復讐を終わらせる。
 俺は探偵失格だ。取った手段は総当たりで、最も非効率。推理もクソもない。

「全部潰せば、どれかは犯人だろ?」

 一つ潰した。あとは四つ、先はまだ長い。

 これは、遠大な回り道だ。もし先程の奴らが嘘を吐いていたなら、既に復讐は終わっている。これからの行動は全て無駄に終わる可能性だってある。
 それでも、異星人は殺されない限り死なないのだ。地球人に比べれば寿命は長く、生命力だって強い。俺は、あいつの死を背負って生きる事だって出来る。

 傷口から流れる緑の血を拭い、異星人である俺は次の標的を探した。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?