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Johnny Cash 『American Ⅳ:The Man Comes Around』

 ディランが2012年に発表した『Tempest』について、「荒んだその歌世界に漂う宗教的なある種の荘厳さ。そこにはロックの一つの極北を見る思いがする」と、以前、ある雑誌の解説で書いたことがある。ジョニー・キャッシュの遺作となった本作にも、同じ印象を受ける。聴こえてくるのは、この世の果てを見つめる、孤独な魂の声だ。

 プロデュースはリック・ルービン。様々な楽曲のカヴァーで構成する、"American Recordings"シリーズの4作目。ビートルズの『In My Life』、デペッシュ・モードの『Personal Jesus』といったカヴァーも素晴らしいが、僕が最も心惹かれるのは、冒頭に置かれた、自作曲の『The Man Comes Around』だ。聖書の言葉を引用したその歌詞の一節にはこうある。

"Hear the trumpets, hear the pipers
One hundred million angels singin' "

 天からの光に向かって、まっすぐに歩き続けた黒ずくめの男。彼のような男は、もう出てこないように思える。

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