投資普及の鍵は"強制的"成功体験を積ませる仕組み|投資ブロガー・虫とり小僧 第4話(最終話)
前回は「なぜ日本で投資文化が普及しないか?」ということを親御さんのエピソードも交えながら伺いました。運用成果を見ずに、リーマンショックを結果的に乗り越えることができたことが大きな成功につながったようです。今回(最終回)は、虫とりさんは「日本で投資は普及すると思うか?」について率直に伺いました。お子さんにされている面白い試みも紹介しています。
虫とり小僧
「いつか子供に伝えたいお金の話」を運営する著名な投資ブロガ―。
インデックス投資(投資信託を使った国際分散投資)による資産運用・各種保険・クレジットカード・節約方法など学校では教えてくれない「お金」に関することを書き綴っている。
【今回のポイント】
✓一括投資は基本しない。投資金額がそれなりに大きくなると、価格変動が気になってしまって、結局続けることができなくなる。
✓インデックス投資では、「ほどほどで良いや」というちょっと諦めた発想を持てるかが重要。
✓相場が悪くなったときに怖くなって脱落してしまう人が日本にはまだまだ多いと思うので、投資の普及には時間がかかるだろう。
✓メディアの金融リテラシーの低さも日本で投資文化を広めるには足枷になっているのでは。
―虫とりさんはどういうスタンスで投資されているんですか?
私は基本的にバランス型のインデックス投信1本に任せてしまっています。株や債券の投信をいくつか持って自分で配分比率を決める方法もありますが、そうしてしまうとついつい色々といじりたくなってしまい無駄な時間を使ってしまうんです。それを避けるための自分なりの工夫ですね。
あと、一括投資は基本しません。なぜなら投資金額がそれなりに大きくなると、価格変動が気になってしまって、結局続けることができなくなるからです。あまり気にしないで済むという意味で、積立投資は有効だと思いますね。結局、インデックス投資では、「ほどほどで良いや」というちょっと諦めた発想を持てるかにかかっています。
ベストを追い求めると継続できないです。なので、完璧主義者だとちょっと無理かもしれないですね。適度なゆるさというか適当さが必要なんです。インデックス投信の信託報酬(運用コスト)が少し下がったときに「そっちにしたほうが良いだろうか?」とか厳密に考えている時点で実はインデックス投資に向いていないと思いますよ(笑)。1つ1つを真面目に考えるのは素晴らしいことですが、そこに時間を使ってしまっては本末転倒だと私は思いますね。
―本当にシンプルな投資手法に落ち着いたんですね。確かに、ゆるさというのは1つポイントかもしれないですね。虫とりさんは、正直なところ日本で投資文化は広まっていくと思いますか?
正直なところ、相当道のりは険しいのではないかと思います。相場は良いときもあれば悪いときもあり、循環があります。悪くなったときに怖くなって脱落してしまう人が日本にはまだまだ多いと思います。とりあえず始めることはできても、継続することが極めて難しいのではないでしょうか。
なので、個人的には、半ば強制的に成功体験を積ませるために、例えば途中解約できない確定拠出年金への加入を全国民義務化して、初期設定されている投資商品はリスクのある(元本保証ではない)ものにするのが良いのではないかと思います。これくらいやらないとダメですね。やってもやらなくても良いという程度ではちょっとパワーが足りないです。
あと、メディアの金融リテラシーの低さも日本で投資文化を広めるには足枷になっていると思います。今年のはじめくらいに、国民年金(基礎年金)の積立金の運用をしているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が15兆円近い巨額損失を出したというニュースがメディアで大きく騒がれたことがありましたよね。あれはちょっとミスリーディングだったと思うんです。損失と言っても、たった3ヶ月間の話ですからね。
そこだけ切り取っても仕方ないのに、そのほうがメディアとしては視聴率をとれるので都合が良いのでしょうね。GPIFのホームページを見ると、ちゃんと管理・運用状況が掲載されていて、長期ではギザギザしながらもしっかり右肩上がりで資産は増えていっています。しかし、メディアはこの点にはあまり触れないわけです。GPIFはいわば「長期・分散・積立投資」のお手本的存在なわけですが、そこをしっかり伝えていないんですよね。
―確かにGPIFのニュースはちょっと思うところがありました。資産運用の世の中のイメージはどうなんでしょうか?
「資産運用」という響きから、すごい資産を持っている人がさらに資産を増やすためにやるもののように聞こえますよね。だからこそ、金融庁はこれから資産をつくっていくという意味で「資産形成」という言葉を使っているわけですが、普通の人からすればその違いは分からないというのが本音なんじゃないかと思いますね。
株式投資、パチンコ、競馬、宝くじ、仮想通貨は同じカテゴリーだと認識している人は多いと思います。
―その認識を変えるために国も色々頑張っているみたいですよね。
そうですね。NISA、つみたてNISA、iDeCoなどの税制優遇制度ができてきたことはとても良い傾向だと思いますが、職場の同僚や友人につみたてNISAを勧めたとして、残念ながら「怪しい投資話に勧誘されているのではないか?」と疑われる可能性があるので、正直なところあまり勧められないですよ。でも、これが現実だと思います。そもそも、つみたてNISAが、制度なのか、株式や投信などの商品なのかすら分からない人も多いと思いますね。
―そういうのを聞くと、やはり金融リテラシーを上げるところが肝なのかなと思いますね。虫とりさんがお子さんに実践している金融教育方法は何かありますか?
「教育」というほどのことはないですが、ちょっと面白いことをやっています。子供がもらったお年玉の半分は、本人名義の証券口座でずっと国際分散したバランス型のインデックス投信に積立投資してて、残りは銀行預金させているんです。それなりの時間が経過したので、この2つですが、だいぶ差がついているんですよ。
子供が成人したらお金はすべて本人に渡す予定で、この2つの結果の違いを見せて「長期・積立・分散投資が凄いっていうのは、こういうことなんだぞ!」と示そうと思っています(笑)。たぶん、それが最も分かりやすく、効果的だと思うんです。あと教えていることと言えば、収入はすべて使わないで、余った分を投資へ回すことくらいですかね。それさえ守ればなんとかなります。
―その取り組み素晴らしいですね!それ、日本中の家庭でやったら投資に対する考えが大きく変わりそうですね!虫とりさんは、投資を通じてお金に対する「感覚」というのは変わりましたか?
「世の中お金がすべて」なんてもちろん言いませんが、お金があると物事に「拒否権」が持てるので、心の余裕が持てるようになりますよね。そういう意味で、ある程度のお金があるのはとても大事なことだと思います。
お金としっかり向き合ういことは重要です。どれくらいのお金があればどんな生活ができるのか?年金制度ってどうなっているのか?など、分からないことは自分で調べて、1つ1つ「見える化」していかないから、色々漠然としていて不安になるんだと思います。私も1つ1つ知識をつけて、モヤモヤを解消してきました。
今となっては、リーマンショック級の相場下落がまた来たら、それは大チャンスにしか見えないですね(笑)。個人的にはとても楽しみにしているくらいです!
とはいえ、投資では、やはり欲張りすぎないことが重要ですね。それなりの水準で満足するということがポイントになってきます。長期・積立・分散投資というのは、10年単位の話なので本当に我慢が必要で、仮想通貨のように短期で10倍とかになる世界とは全く異なります。
―最後の質問です。ブログのタイトルにもされていますが、「いつか自分の子供に伝えたいこと」を教えてください。
とにかく自分が好きなことに貴重な時間を使って、たった一度の人生をおもいっきり充実させて欲しいですね。お金はある程度あったほうがもちろん良いですが、お金を増やすこと自体に執着しないことです。
「入ってくる以上に使わない」という貯蓄体質が根っこにあれば、過剰に心配することはなく、何とか生きていけると思います。
―長い時間、貴重なお話をありがとうございました!
【編集者の感想】
「日本での投資文化の普及は難しいかもしれない」という言葉は、胸に突き刺さりました。確かに、投資では、相場が良いときも悪いときも長期にわたって「継続」することが重要で、そうすることでしっかりと成果が出るものの、多くの投資初心者は相場が悪くなるととたんに怖くなってしまい、途中で止めてしまうということは真理をついているなと思いました。今のままでは、真の意味で投資は日本に定着することはなく、むしろ、今後リーマンショックのような大幅な相場下落が起きると、せっかく投資を始めた人はそこで止めてしまい、投資に対してネガティブなイメージだけが残ってしまうのではないかと懸念してしまいます。投資サービスを提供する側は、「どのように始めてもらうか?」だけでなく、「どう続けてもらうか?」という点も意識する必要があるのかもしれません。(おわり)
投資ブロガー・虫とり小僧
【第1話】投資デビューは保険勧誘がきっかけ
【第2話】時間をかけない”高コスパ”の投資手法を重視
【第3話】継続のコツは短期的な成果は見ないこと
【第4話】投資普及の鍵は"強制的"成功体験を積ませる仕組み
取材・文・編集/野水瑛介(FOUND編集部)、写真/荻原美津雄
株式会社FOLIO
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