eスポーツはTVゲームの枠を超えるか? | ゲームジャーナリスト 野安ゆきお 第1話
取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
高額化する賞金や、オリンピックの種目になるのでは?
と話題を呼んでいるeスポーツ。その一方で、
「なぜテレビゲームなのにスポーツ?」
「テレビゲーム遊びなのに、なんでオリンピックに?」
と疑問を呈する声も多く上がっています。
家のテレビで個人が楽しむテレビゲームが、テクノロジーの普及により、多くの人を巻き込み、大きなお金が動くビジネスになろうとしてます。
eスポーツはこの先、どういう展開が待っているのでしょうか?
ゲーム業界に詳しい、野安ゆきお氏にお話を伺いました。
野安ゆきお(のやす・ゆきお)
1968年東京生まれ。ゲームジャーナリスト。ファミコン時代からゲーム雑誌、ゲーム攻略本などの執筆・編集を手掛け、これまで作成したゲーム関連書籍は100冊を超える。現在はビジネス面からゲーム産業を見つめる執筆活動を中心に活動中。
そもそも、eスポーツって何だろう?
まず、基本中の基本からお聞きしたいんです。そもそも、「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ。以下、eスポーツ)」ってなんですか?
野安ゆきお氏(以下、野安):
「エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)の略のことです。
一般的には対戦型テレビゲームを使用しての競技会を指します。
しかし、こんなに世間で話題になっているのに、実は明確な定義はないんですよ。
『どのような競技会をeスポーツと呼ぶか?』については、いろいろな意見がありますが、どれもしっくりこないというのが、わたしの実感です。
というのも、企業が対戦型テレビゲームを使用して行うeスポーツ競技も、子供たちが家で集まってテレビゲームを遊ぶのも、よく考えると、基本的な形は変わりません。
また、eスポーツの大会と、ゲームメーカーが昔から開いている広報活動としてのゲーム大会とは、どう違うのか?
どこにも違いはないんです。
そう考えてると、eスポーツと呼ばれる大会と、そうでないゲームプレイの間で、明確に線引きするのは困難であることがわかります。
というわけで、現在は、どこかの企業なり、団体なりが
『これはeスポーツの競技会です』
と宣言すればeスポーツと呼ばれることになる、という状態だと考えてください」
eスポーツはいつから始まったのか?
ではテレビゲームの競技会が誕生したのはいつ頃ですか?
野安:
「諸説あるのですが、現在のeスポーツの源流は、1990年代のアメリカにあると考えていいでしょう。
PCゲームマニアが自機を持ち寄って、LAN(ローカルエリアネットワーク)につなぎ、一番強い人を決めるようなイベントが、たくさん行われるようになったんです。
それが徐々に大きくなり、PCメーカーなどがスポンサーについて、現在のeスポーツの原型が作られました」
そもそも、「スポーツ」を名乗るようになった理由を教えてください。
野安:
「個人的な見解ではありますが、発祥の地とされるアメリカ、そしてヨーロッパでは、日本よりゲームに対する偏見が強いからだと思います。
たとえば、2018年2月にフロリダ州の高校で起きた銃乱射事件を受けて、トランプ大統領が、
『事件の引き金になったのは暴力的なゲームだ』
と持論を述べましたよね。
あれは、その偏見の典型です。
老若男女がゲームに親しんでいる日本では、政治家がおいそれとゲームの悪口を言えないくらいには、偏見が少なくなりました。
しかし海外ではそうではありません。
かつて、海外のゲーマーたちがテレビゲームは健全なスポーツなのだと宣言した背景には、このような偏見への反論という意味もあったんだろうと思います。
これがテレビゲームを『スポーツ』と称するようになった、実は最大の要因かもしれません」
「スポーツ」という言葉の意味
日本でも、スポーツの概念にそぐわないという意見をよく耳にします。
特に、中高年などは、スポーツは青空の下で汗をかいてやるものだ、という既成概念から抜けられません。
家の中でピコピコやってるのが、なぜスポーツなんだと?
野安:
「でも、スポーツ(sports)は、元々『気晴らし』という意味なんですよね。
初期の近代オリンピックでは、彫刻や絵画だって『芸術競技』という正式種目でした。
だとすると、eスポーツは、汗をかかないからスポーツではない、と考えるのはおかしいとも言えます。
もっとも、芸術競技は採点基準があいまいであるという理由で、種目から外されたそうですが。
一方、eスポーツは違いますよね。勝負がはっきりしている。
さらに、いわゆる従来のスポーツ同様に、戦略を考える必要も、運動神経も、体力も要求される。チームワークも欠かせません。
これは、まぎれもなくスポーツですよ」
現実的にオリンピックで採用っていう話になるのですか?
野安:
「正式競技への採用を目指す、という動きがあるのは事実です。
2018年8月のアジア競技大会では、オリンピックに先んじてデモンストレーション種目となりました。また、2019年秋の茨城国体でも都道府県対抗の競技会が実施されます」
この流れでいくと、すぐにでも、オリンピックにeスポーツが採用されそうですが……。
野安:
「期待している方も多いでしょうが、そう簡単な話ではないんですよ。
将来の目標として、オリンピックでの採用を目指すという目標を立て、盛り上げようという動きには個人的には賛成です。
しかし、越えなければいけないハードルが多すぎるんです。
現状から考えると、少なくとも10年以上はかかるだろうと、私は見ています」
eスポーツがオリンピックに採用されるのでは? と期待している人が多くいる反面、大きな問題がある、と野安氏は指摘します。
果たして、大きな問題というのは、一体なんでしょうか?
次回に続きます。
・eスポーツはTVゲームの枠を超えるか? |第1話
・eスポーツの課題と可能性 |第2話
・eスポーツにもっとエンターテインメントを! |第3話
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