金持ち教習所
「オレ金持ちなんだけど、特典とかあんの?」
「すでにお金持ちなら、お通いいただく必要はないかと」
「でも自動車免許は取りたいのよ」
「自動車免許?」
話が通じないと思ったら、どうもここは「金持ち専用自動車教習所」ではなく、その名の通り「金持ち教習所」。
「金持ちになるための教習所?」
「この頃はモグリの金持ちが増えてますから」
受付嬢は言ってから、職業的な勘が働いたものだろう、「ひょっとして無免許の金持ちさんですか」と声を顰める。いやいやと言葉を濁してカウンターを離れた。
一面ガラスの向こうでは「金持ち教習所」のロゴ入りメルセデスがコースを行き交っている。上下アルマーニの初老の男が教官になにやら言われながら建物に入ってくる。
「$字カーブで、どうしても¥セキに乗り上げちゃうね」
「いくらで目をつぶってもらえますかね」
「徳さん、そういうトコですよ!」
つられて失笑しそうになるところ、札束でこさえた扇子でもって口元を隠すオレ。
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