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ショートショート #4 「立方体の思い出」

僕はクラスで唯一の六面体でしたから、A子が転校してきた時には心躍りました。あれが思えば初恋だったんです。

A子はクラスに馴染めませんでしたが、登下校でいっしょになることが度重なって、それで僕らは打ち解けたんです。ある時「ウチと仲良うしとるといじめられるで」と言われまして。

「なんで」
「アンタは正六面体。ウチはちゃう」

僕らの土地でも正多面体以外は差別されました。僕はこう無邪気に反論した。
「何言うの。A子も正六面体やないの。ぜんぶ正三角形ゆんは、珍しいけど」
「アンタ、なんもわかってひん!」

「A子も立方体やろ」
母親に聞いてみると、溜息混じりに言うのでした。
「あの娘はなぁ、ちゃうんよ。角っこ見んと。角っこに同じ数ずつ面が集まっとらんと、正多面体とは言わひんのんや」

後日、校庭の隅に一人でいるA子を遠目に観察した僕は、彼女には面が三枚集まる頂点と四枚集まる頂点が混在するのを認めた。

みんな知ってたというわけです。
僕以外。

(407字)

※当記事は、たらはかに様の企画に参加させていただいております。

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