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航海日誌

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読書とは、本という無数の寄港地にしばし停泊するようなもの。その場合、海とは人生である。そして読書そのものもまた、凪があれば、嵐もある、難所を越えることもあれば、座礁することもある…
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#語り手の零度

航海日誌♯2「井伏鱒二『普門院さん』試論、あるいは縁の下の神様」後編

航海日誌♯2「井伏鱒二『普門院さん』試論、あるいは縁の下の神様」後編

 改稿後に世に出たのが昭和六十年で、作家御年八十七歳ですから、もはや多少の混同や矛盾は許される境地ではあったでしょう。私もそう思いつつ、こんな飄々とした語りをいつか手に入れてみたい、しかしまたいっぽうで、仮にこんなふうに私が書いたところで、編集者に無惨に校正されるのがオチだろうなどと砂を噛むような妄想をしたものでありますが、この度、ちょっとした偶然から昭和二十四年の初出稿を目にする機会を得て、私に

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