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室温と健康 その1 ~室温と健康リスクの情報整理~

 こんにちは。Forward to 1985 Energy Lifeの監事で基盤情報作成委員の坂崎です。
 基盤情報作成委員会では、まじめに家づくりに取り組まれている方にとって有益になるであろう情報を整理して、ここのコラムでお伝えしていきます。

1.今回のテーマ設定の背景

 近年、脱炭素社会の実現に向けて世界が大きく動いています。日本でも2050年のカーボンニュートラルに向けた様々な政策転換の中で、住宅においても今後一層の省エネルギー化が求められることとなります。

 現在、日本の温暖地域にある平均的な家庭では、1年間にその家庭で消費するエネルギー量の凡そ1/4を室温コントロール(暖房冷房)のために使っています。そのため、家庭での省エネルギーを考える際には、暖房冷房で使われるエネルギーを減らすことも重要な要素になります。そして、そこには室温を何℃にするのかということも大きく関係します。

 一方、実際の室温設定は省エネルギーの観点だけで決められるものではありません。むしろ、住宅では生活者の健康や快適性が確保できる環境をつくることが優先されますし、そうあるべきだと思います。しかし、過度な室温設定はエネルギー消費を増加させ、先に述べた脱炭素社会に向かう世の中の潮流に逆行します。

 そこでまずは「室温と健康」をテーマとして、現在世の中でわかっていること、分かりつつあることの情報を整理したいと思います。

2.暑さ寒さと死亡率

 日本での月別の死亡率をみると、夏が低く、冬が高くなっています。また、冬の住宅内で起こるで事故として「ヒートショック」が思い浮かべられると思います。しかし、月別死因別死亡割合を見ると実はそのような心臓発作や脳梗塞などの循環器系障害だけでなく、ほぼすべての死因は冬に増加する傾向にあります。
 もちろん夏の熱中症も気を付けるべき健康上の重要なことではありますが、低温の影響で健康を害している事例の方が圧倒的に多いのも事実です。

出典 http://www.heat20.jp/data/2010/heat20_2010_12_03p.pdf


3.健康と季節性の血圧変動

 血圧とは動脈で血液が血管壁に与える血管内圧のことです。血圧は様々な要因で変動しますが、季節の変化によっても変動します。気温の下る冬には、体温の放熱を減らすために血管が収縮して、血管内の抵抗が増えることで血圧が上昇する傾向があります。特に高齢者は若年者よりも動脈硬化によって血管内の抵抗が増していて血圧上昇が大きくなる傾向にあります。
 一方、夏はその逆で体温を下げるために血管が拡張しすることで、血管内の抵抗が減って血圧が低下します。

 冬の血圧上昇は循環器疾患の発症と深く関係しています。
 血圧が高くなほど、心疾患や脳血管疾患の発生リスクが高くなることが分かっています。そして、冬の循環器疾患による死亡者数は夏の2倍以上になります。

出典「快適な温熱環境の仕組みと実践」(公益社団法人 空気調和・衛生工学会)

 そして、国内のフィールド調査によると、この冬の血圧上昇は外気温の低下よりも、室内の温度環境が大きくかかわっていることが分かっています。

4.健康リスクと血圧の日内変動

 健康を考える際には慢性的な高血圧状態だけでなく、急性的な血圧変動による循環器系疾患のリスクも考える必要があります。

 健康な人でも血圧は緩やかに一日の中で変化(日内変動)していて、睡眠中は低下し、起床前には活動のために上昇します。その中で、健康リスクにつながる起床前後の一過性の血圧上昇を「モーニングサージ」といい、循環器疾患の引き金になるとされています。脳出血やくも膜下出血といった脳血管疾患は朝に最も多く発生し、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患も午前中に多いのはこのモーニングサージの影響が考えられています。
 そして、室内が寒いとモーニングサージがより大きくなることが分かってきました。

 また、血圧の急激な日内変動の場面として、入浴やトイレも上げられます。そこには体勢変更や室間移動に伴う血圧上昇、いわゆる「ヒートショック」があります。
 特に入浴時には短時間で寒い環境と高温環境を繰り返すので、血圧の乱高下で脳血管疾患や心疾患のリスクが高くなります。また、血圧の急低下で失神して溺死する恐れもあります。

参考:「快適な温熱環境のしくみと実践 (公社)空気調和衛生工学会」

5.室温と健康リスクの情報について

 近年、“冬の室温は18℃以上ないといけない”というような話を見聞きする機会が増えています。それらの情報の多くが根拠としているのは、WHO(世界保健機構)が出した『WHO Housing health guidelines 2018』という報告書です。

 最近まではこのような健康の観点からみた室温についての情報が世の中であまり注目されておらず、量も多くありませんでした。しかし近年、室温と健康との関係に関する調査研究が進み、いろいろなことが少しづつ分かってきています。
 そこで、次回と次々回では室温と健康リスクについて分かってきた主な情報を紹介したいと思います。

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