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【読書感想文】『両手にトカレフ』ブレイディみかこ著

長い間本を読んでいると、その中には読みやすい本もあれば、読みづらい本もあります。作家さんとの相性のようなものがあるかもしれませんが、この作者の本は、私にとっては読みづらい本でした。

夏目漱石や志賀直哉などのような、古い文体だから読みづらいというのとは異なり、本作者の文体は、やたらカタカナが多い点が非常に読みづらいと感じました。本書ではそこまで顕著ではありませんでしたが、先に手に取ったエッセイ『ワイルドサイドをほっつきあるけ ハマータウンのおっさんたち』は、会話にも地の文にもカタカナが多く、カタカナ英語に弱い私は、その都度「これは何という意味か?」と立ち止まってしまい、流れが断ち切られるようで読む気が失せてしまいました。2週間の貸出期間中、何度か読もうと努力しましたが、どうしても3ページ以上は読む気になれず諦めました。

そんな経緯があったにもかからわず本書を手に取ったのは、小さな図書館で一番目立つ場所、「最近入った本」のコーナーにあったからでした。小説なら読めるのではないかと思い、チャレンジしてみたというわけです。

◎あらすじ

私たちの世界は、ここから始まる。
寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。

ポプラ社HPより

本書はポプラ社から出版されていることからも考えて、おそらく子供向け、あるいはティーンエイジャー向けと考えてよさそうです。
作者ご本人が、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には書けなかったティーンの姿を、フィクションという形で描いた作品と仰っていることからも、文字の大きさやページ内の文字数という観点からもそうであろうと推察されます。

◎子供であるという牢獄は、本来あってはならない

本作でもカタカナ英語が多く出てきます。
別の世界オルタナティブ はある」
「うわっ、ミア。ワッツアップ?」

ティーンの心には刺さるのかもしれませんが、私は読んでいて少し鼻につくと感じてしまいました。

「別の世界」に「オルタナティブ」ってフリガナいる?
そこだけ、「ワッツアップ」にする意味ある? 

原作が英語で、日本語には翻訳しづらいというならともかく、日本人が日本語で書いているのだから、ちょいちょい変な英語挟まないでほしい。って思ってしまうのは私だけでしょうか。笑
心の中で「ルー大柴か!」と何度も突っ込みを入れながら読みました。
(ルー大柴さん、ごめんなさい!)

ただ、子供向けの本という視点から見ると、観光やニュースなどではわからないイギリスの暗い部分をわかりやすく表現していると思いました。

子供であるという牢獄、という言葉が印象的でした。
自分がその年齢だったころは、もっと呑気でした。
悩みはいろいろありましたが、明日食べるものもないとか、お風呂に入ることもできないなんてことはなかったし、ましてや親の面倒を見るとか、本来親がやるべきことを全部背負ってしまうなんてことはありませんでした。

最近日本でもクローズアップされている、ヤングケアラー
状況は異なりますが、似ているところがあるなと思いました。

『両手にトカレフ』はフィクションですが、ノンフィクションでは書けなかったというのですから、現実はもっと厳しいのかもしれません。小説では、ミアを助けてくれる人が少しいるけれど、実際は助けてくれる人がいない子供もたくさんいるのでしょう。
大人なら自分の力で逃げ出すことができるかもしれないけれど、子供は逃げる場所がない、逃げても生きていく術を持たない、それが切ないなと思いました。

物語ではウィルの存在がミアに希望を与えたように感じました。
大人だけでなく、同世代のつながりがあって初めて、子供は救われるのかもしれません。それでもやはり、大人の責任は重いと感じました。

◎対岸の火事ではない

実は見えていないだけで、私たちの身近にもある出来事だと思いました。

娘が幼稚園のとき、クラスに公園で髪を洗っている女の子がいました。小学生の時は、夜中に外に放り出され、学校にそのまま裸足で登校してきた子もいました。

日本でもネグレクトや虐待は見えづらいだけで、確実にあります。

この本を読み終わって、ふと先日読んだ『ピアニシモ・ピアニシモ』と重なるところがあるなと思いました。子供が子供の世界で、子供だけの悩みに立ち向かえるように、大人は責任を持たなければなりません。そうでなければ、子供は悩みや葛藤を含めた子供らしさを謳歌することができないのだと感じました。

タイトルの『両手にトカレフ』はミアが作るリリックです。私にはラップのセンスがないので、その詩がいいのか悪いのかわかりませんでしたが、ミアの生い立ちや置かれた状況への思いがあふれていると感じました。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は発売当時、書店でパラパラとめくったものの、それ以上読みたいという気持ちになれませんでした。この作家さんとは相性が良くないのだろうと思いました。

基本的には好きな作者の本を読むというスタイルですが、たまにはこうした本を読むのも発見があって面白いなと思いました。改めて自分の好きな本とそうでない本の傾向がわかりました。好きでない本の感想を書くということも小学校の課題図書以来だったので、その難しさを追体験しました。

みなさま、よい週末をお過ごしください。

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