理論値に恋をする

理論値に恋をする

最近の記事

復活のオペラオー/高知遠征18日目⑤

「ウララの場合はさ」 アキツテイオーは言った。 「ゴール前でオペラオーの真似をしてしまっただろう?それも含めて、やる事なす事の全部が後々に回ってしまったんだと思うんだよ。しかし──」 なるほど。 もっともらしい意見である。私はそれをただ黙って聞いていた。 テイオーはまた言った。 「御前やアタシと走った時は、真似をしていたとは思えなかった。それがいい選択で、結果的にプラスだったかどうかは、正直まだわからない。しかし──」 なるほど。 それについても、確かにそうではあるようだ

    • ファル子の部屋/ゲスト・グランシュヴァリエ/第一二六九回放送分より抜粋

      るーるる🎵るるる🎵 るーるる🎵るるる🎵 るーるーるー🎵 るーるるー🎵 ─中略─ ららら🎵らーらーらーらー🎵 らーらー🎵 らーらららー🎵 みなさんいかがお過ごしでしょう?こんにちは。スマートファルコン、ファル子でございます。 さ、今日はですね、現役時代には高知総大将として全国を駆け巡り、日本に高知あり、高知にグランシュヴァリエありと、その名を大きく轟かせました、グランシュヴァリエさんに起こしいただいてます。はい。ようこそ起こしくださいました。いらっしゃいませー。 どう

      • グランシュヴァリエvsクインナルビー/高知遠征18日目④

        「な......なぁんですかそれえぇぇ!?」 テイオーの悲鳴にも似た叫びが尾を引いたが、それが御前の耳に届くことはなかっただろう。地面が破裂したのかと思う程の砂煙が消える頃には、既に御前のリードは3馬身も先にあり、尚も広がる気配を見せていた。胸に膝を触れさせる程の前傾姿勢。スタート直後から見せる強烈なストライドを、鍛え上げられた上半身が維持させていた。 「出た!サブマリン!」 「サブマリンだ!」 「サブマリン!ビゼンニシキはサブマリン!」 疾走する御前に向かって、子供達

        • オペラオーvsウララ/高知遠征18日目③

          皇帝塾のラチの内側、その中央付近にウララとオペラオー、グランシュヴァリエの3人はいた。先にトレーニングを進めていた2人は、近寄ってくるシュヴァリエにすぐ気づいた。 シュヴァリエはウララと握手を交わし、ウララがオペラオーを紹介している。オペラオーは両腕を広げて優雅に体を翻すと、胸の前に手を当ててシュヴァリエに一礼した。 「素敵な生徒さんですね」 近づく私に気づいたシュヴァリエは、またもや人懐こい笑みで私を振り返った。 「トレーナー!シュヴァリエさんは、デビュー戦で一等だった

        復活のオペラオー/高知遠征18日目⑤

          グランシュヴァリエ、そしてもう1人②/高知遠征18日目

          「オペちゃん、ゆっくり息を大きく吸って、ゆっくり静かに吐くんだよ?」 「すーっ.......」 「そうそう!それで、息を吐きながら足を上げて?」 「はぁ〜っ......あ、足を?」 「そうそう!上手上手!」 「足を......上げ......てぇ......!ふんぬぬぬぬぅ〜っ!」 翌朝。 オペラオーは、ルドルフが使用していた個室を入れ替わりで使うことになった。私たちがカンフーの朝稽古の為に起床し、さてオペラオーも誘ってみようかと早朝にドアをノックしてみると、既に

          グランシュヴァリエ、そしてもう1人②/高知遠征18日目

          グランシュヴァリエ。そしてもう1人/高知遠征19日目

          グランシュヴァリエ。 御前からその名前を聞いた時、私は彼女のことを思い出せなかった。 「あら、貴女なら知っているかと思ったけど。中央でデビュー初戦を勝利して、その後6着2着1着と、成績を重ねたウマ娘よ」 スマホの向こう側でそう説明する御前の言葉を聞いても、私の記憶はまだあやふやだった。思うに、彼女のデビューは私がウララと出会う前。私がまだ前任の生徒と契約していた頃だろう。しかしそのクラスの成績であれば、有望株として当時の私の記憶に留まっていてもおかしくはない筈なのだが─

          グランシュヴァリエ。そしてもう1人/高知遠征19日目

          皇帝塾/高知遠征一六日目

          ここが皇帝塾か、と思いながら門を潜った私たちは、主人であるビゼンニシキの姿を求めてキョロキョロと辺りを見渡した。 (広い......) その敷地にはおそらく800mは超えるだろうというダートコースが整備されており、さすがに競馬場並という印象こそ無いものの、個人が運営する施設としてはかなり大規模な印象を受けた。ラチの内側から中心に向かっては様々なトレーニング機材が設置してあり、おそらくウマ娘のトレーニングにおいて足りない物は無いようにさえ見える。素晴らしい充実ぶりだ。 「

          皇帝塾/高知遠征一六日目

          元・トレーナーが語る「あの時のハルウララ」/ある熱心なファンの記録

          まあ......今となっては、さ。 苦い思い出なわけで。 あのハルウララが俺の教え子だった、俺がハルウララの担当だったっていうのは、本当の事だよ。 そんな事を言ってしまうと、自慢してるみたいに聞こえるかもしれないけどね。実際はそんな事にはなりゃしないんだ。あのクインナルビーと違って、俺の場合は、あの娘に何もしてない訳だからね。 あの娘が入学してきたのは、丁度今くらいの、暑い盛りの時期だった。うん、中途採用。あの頃の高知ではね、4月入学より、そんな感じの娘たちが多かったよ。

          元・トレーナーが語る「あの時のハルウララ」/ある熱心なファンの記録

          ハルウララの手紙/13枚目

          おとうさん、おかあさんへ。 お元気ですか?わたしは元気です。 先週はレースを見に来てくれてありがとう。2人が来てくれていると思って走ると、いつもよりも『ばびゅーん!』って、わたしの足に力が入ります。ゴール前でわたしが走っている時、お父さんの『がんばれ!』っていう大きな声が聞こえてきて、すごく嬉しかったよ。 ライブは見てくれた?どんな感じだったかな?わたしは2着だったけど、ギガレンジャーちゃんが怪我して出られなくなったから、センターのいない2人組用の曲を用意してもらって、

          ハルウララの手紙/13枚目

          高知・第6レース未勝利戦・その夜/高知遠征十四日目

          高知競馬場の興奮はここに極まっていた。会場中に響き渡る大ウララコール。G1もかくやという熱狂ぶりは、当の私たちさえをも飲み込もうとしていた。そしてG1との決定的な違いは、会場の全員、1人残らず全員が、その声をウララに向けていた。 「行け!行けぇ!ウララ!そのまま行っちまえ!」 テイオーが声を張り上げ、拳を震わせながらウララを鼓舞していた。 「ちょっとあなた!あなたは膝を壊した事になっているんだから!杖を離したらダメなんじゃないの!?」 私が思わずそう言うと、テイオーはそん

          高知・第6レース未勝利戦・その夜/高知遠征十四日目

          高知・第6レース未勝利戦/ハルウララとの対決当日

          "ご来場の皆様にお知らせいたします。4枠4番ハルウララ、現在身体検査の為、入場が遅れております。今暫くお待ち下さいますようお願い致します──" 先刻から続くそんなアナウンスを、私は聞くともなく聞き、アップした体が冷えないように、手脚の末端を振るわせては、気持ちと身体のリラックスに務めていた。 結局、時間切れという結果の下、私が蹄鉄を変える事はなかった。慣れた筈の靴底の感触と重さを、『これが私のいつも通りなんだ』と言い聞かせるのはかなりの苦労を要したが、だからといって不安が

          高知・第6レース未勝利戦/ハルウララとの対決当日

          明日への道/ハルウララとの対決まであと1日

          あれは忘れもしない、私の高知デビューの前日。 夏だというのにその年は夕立さえ訪れる事は稀で、高知の空はどこまで青く広がっていた。照りつける日差しは強く、常にジリジリと肌を焼き、肌の弱い私は、アームカバーを常に装着しておくようにと、先生から注意を受けていた。 「ハルウララは無視する......ですか?」 明日にデビュー戦を控えたその日、クラブハウスに呼び出された私は、先生から伝えられた話の内容が上手く飲み込めず、失礼とは知りながらもつい聞き返してしまった。 「そう」

          明日への道/ハルウララとの対決まであと1日

          高知の一番長い夜/高知遠征十ニ日目

          高知・第6レース・未勝利戦 「ハルウララおかわり記念」 右回り・1400m 10人立て 『個人協賛競争に二度も名を重ね、変わらず人気絶好調のハルウララだが、今回それ以上に注目されているのは、そのセコンドに付いたシンボリルドルフの存在である。』 『「視察以外の目的で、私自身地方会場のレースに関わるのは初めての事だが、この機会を大変嬉しく思っている」とコメント。加えて「今回のハーフタイムショーの構成は私が企画させて頂いた。それについても是非楽しんでもらいたい。皆の声援の中でウ

          高知の一番長い夜/高知遠征十ニ日目

          Gateway weapon/高知遠征11日目

          その後というもの、私たちの昼間の時間は密度が大きく増した。早朝からランニングと太極拳、朝食を済ませたらダンス、ゲート練習、ダンス、並走とこなし、その後昼食まで200mダッシュか、泳ぐかの2択が午前のメニュー。午後になって日差しが強ければ更に泳ぎ、日差しが気にならないとなればサーキットトレーニングとダンス、ゲート練習。夕暮れ刻に風呂を済ませて汗を流した後は、入念にストレッチとマッサージを繰り返して夕食を待つ。この超過密スケジュールがウララの日課になった。 「今日の、勝利の女神

          Gateway weapon/高知遠征11日目

          これが私の勝負服/高知遠征12日目

          実家から、私の勝負服が届けられた。 見覚えのある段ボール箱には直接伝票が貼られており、品目のところには母の字でご丁寧なことに『衣装』と記されている。 私はため息を吐いた。 今回、ルドルフの気転で急遽参加することとなったミニライブだが、実のところを言えば、それに参加するのはやぶさかではない。私だって、ここよりも大きなステージを何度も埋めてきたのだ。ダンスも歌も、まだ忘れたつもりはない。 問題があるのは、この衣装なのだ。 「早く!トレーナー、早く開けてみてよ!トレーナー

          これが私の勝負服/高知遠征12日目

          此処は罠の巣/高知遠征九日目

          シンボリルドルフの突然の高知トレセン来訪は、それこそ蜂の巣を突いたかのような大騒ぎになった。 サインを、握手をとねだる者はもちろん、ある者はレースについての教示を乞い、またある者は無謀にも挑戦状を叩きつけ、またあるものは戴冠レースの裏話を......と、実に枚挙にいとまが無かった。 「あの、ルドルフはですね!暫く滞在されるそうなので!どうか後日!今のところはお引き取り下さい!」 「ほらほら、ルドルフはお疲れなんだ!テメェらもレーサーの端くれなら、ちっとは遠慮をわきまえな!

          此処は罠の巣/高知遠征九日目