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病院薬剤師が語る気になるクスリの話 第4話「花粉症治療薬」


労働世代を悩ませる「国民病」

この記事を書いているのが2月の始め。

寒いのが苦手の私にとっては待ち遠しい「春」も、花粉症持ちの方にとっては憂鬱極まりない季節のようですね。

毎年繰り返される花粉症の症状はとても辛く、生活の質(QOL)や、日常生活に必要な集中力・判断力・作業能率にも大きく影響します。

海外の調査によると、調査した11疾患の中で花粉症・アレルギー性鼻炎の生産損失額が最も大きかったことがわかっています。

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Lamb CE et al:Curr Med Res Opin 22(6):1203, 2006より改変


花粉症とは体内に入った花粉に対して起こる異物反応(免疫反応)のことで、最も多いのはスギ花粉を原因とする「スギ花粉症」です。

スギ林の面積は全国の森林の18%、国土の12%を占めており、このためか花粉症の患者の約70%はスギ花粉が原因です。

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最近の調査によれば、スギ花粉症の有病率は20%超、5人に1人いる計算。

特に多い年代が30~59歳の労働世代、まさしく「国民病」です。

花粉の飛散量には地域差があり、九州・東北・四国で多い反面、北海道では極めて少なく、沖縄にはスギ自体が全く生息しません。

意外にも、スギ花粉症は北国や南国では無縁の病気なのです。

ちなみに、私の敬愛するビジネスYouTuberのマナブさんが東南アジアを活躍の拠点としている理由の一つに「花粉が少ないこと」を挙げています。

一般的にスギ花粉の飛散量が多いとされるのは次のような日。

「晴れて温かい日」
「空気が乾燥して風が強い日」
「雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後」

また1日の中では、昼前後夕方に多く飛散することが知られています。

午前中に気温が上昇してスギ林から飛び出した花粉が街に到達するのが昼前後、上空に舞い上がった花粉が地上に落下するのが夕方、という訳です。


花粉症はアレルギー疾患の一種です。

私たちの体は、“花粉”という異物(アレルゲン)が侵入すると免疫(IgE抗体)で排除しようとすることがあります。

つまり、再び花粉が体内に入ると、鼻や目の粘膜にある肥満細胞の表面にある抗体と結合し、肥満細胞から化学物質(ヒスタミンなど)が分泌され、花粉をできる限り体外に放り出そうとするのです。

・・・そのため、くしゃみで吹き飛ばす、鼻水・涙で洗い流す、鼻づまりでそれ以上中に入れない、といった症状が起こるのです(目も同様です)。

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≪鼻の三大症状≫
・くしゃみ
・鼻水
・鼻づまり(鼻閉)

≪目の三大症状≫
・かゆみ
・充血
・涙(流涙)

花粉は異物とはいえ、大して毒性の高い物質ではありません。

しかし、それを体は「猛毒」だと勘違いして全力で排除しようとします。

片やヒスタミンは「火のついた花火」のようなものです。

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火がついたら最後、燃え尽きるまで激しい症状を起こし続けるのです。

う~ん、困ったものですねぇ。


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上の図で「+++」以上の症状がある方は重症花粉症ということになります。

悩ましい花粉症の症状、皆さんは薬でどこまで改善すると思われますか?


セルフケアとメディカルケア

花粉症対策の基本は、セルフケア(花粉の曝露から身を守る)とメディカルケア(薬物療法)を「同時に」行うことです。

・・・もし期待されていたら、ゴメンなさい。

正直な話、薬のみで花粉症の症状を完全に抑えることは難しいのです。

そこで本題(薬の話)に入る前に、「セルフケアの話」をしておきます。

花粉の曝露を防ぐ方法❶:マスク

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マスクの装用は吸い込む花粉量を約1/3~1/6に減らし、鼻の症状を軽くする効果があります。顔にフィットし、息がしやすいもの、衛生面からは使い捨てのものが推奨されます。なお、マスクの内側にガーゼを当てること(インナーマスク)でさらに鼻に入る花粉が減少することが分かっています。

花粉の曝露を防ぐ方法❷:メガネ

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実験では、通常のメガネでもメガネを使用しない場合に比べて眼に入る花粉量は約40%、防御カバーのついた花粉症用のメガネでは約65%も減少します。コンタクトレンズは、その刺激が花粉によるアレルギー性結膜炎の症状を悪化させる可能性があるため、花粉の飛散している季節はメガネに替えた方がよいと考えられています。 

花粉の曝露を防ぐ方法❸:服装

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 花粉飛散の季節には、花粉が付着しやすいウール素材の衣服での外出は避けた方がよいでしょう。人間の体で花粉が付着しやすいのは露出している頭、顔、手などで、頭と顔はつばの広い帽子をかぶることで、手は手袋を使うことで花粉の付着量を減らすことができます。 


花粉の曝露を防ぐ方法❹:うがい・洗顔

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うがいは喉に付着した花粉を除去する効果があることがわかっています。外出から帰ったらうがいをしましょう。また、生理食塩水で丁寧に洗顔し、花粉を落とすとよいでしょう。

花粉の曝露を防ぐ方法❺:室内の換気と掃除

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 花粉飛散シーズンに窓を全開にすると、当然ながら大量の花粉が室内に流入します。窓を開ける幅を10cm程度にとどめ、レースのカーテンをすることで屋内への流入を約1/4に減らせます。花粉は床やカーテンなどに多数残存していますので、掃除を励行し、カーテンは定期的に洗濯してください。

また、鼻粘膜の状態を改善するために、悪化の因子であるストレス、睡眠不足、飲み過ぎなどを抑えることが必要です。軽い運動などは花粉防御をしたうえでは推奨されると思われます。

※参考資料:「花粉症特集」(厚生労働省ホームページ)


主な花粉症治療薬の種類と特徴

いよいよ本題、メディカルケア(薬物療法)の話です。

花粉症に効く薬は、時期と症状によって異なります。

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初期療法(先制攻撃)には、主に第2世代抗ヒスタミン薬などの経口薬が用いられ、症状が重い場合には鼻噴霧用ステロイド薬(点鼻薬)やロイコトリエン拮抗薬(※病院のみで入手可能)などが併用されます。

※本稿では市販薬を中心にお話していきます。


1.第1世代抗ヒスタミン薬 ~もはや過去の薬!?~
古いタイプの抗ヒスタミン薬で、かぜ薬やかゆみ止めなど非常に多くの市販薬に配合されています。メリットと言えば手軽に購入できる点のみ。強い眠気のほか、一緒に配合されている抗コリン薬による口渇・(特に高齢者で)尿閉などの副作用も多く、長年使い慣れている方でなければ、副作用に耐えてまで第1世代を飲む理由はありません。

≪代表的な市販薬≫
❶クロルフェニラミンマレイン酸塩
:「ストナリニS」「新コンタック600プラス 」など
❷カルビノキサミンマレイン酸:「パブロン鼻炎カプセルSα」など


2.第2世代抗ヒスタミン薬 ~進化の最中~
第1世代に比べ「眠気が少ない」「効果が高い」「服用回数が少ない」などのメリットを打ち出しているのが第2世代抗ヒスタミン薬です。花粉症が辛いのは万国共通ですので、新薬の開発も盛んで種類は豊富です。医師・薬剤師と相談し、より自分に合った薬を見つけ出しましょう。

≪代表的な市販薬≫
❶フェキソフェナジン塩酸塩:「アレグラFX」など
❷エピナスチン塩酸塩:「アレジオン20」など
❸エバスチン:「エバステルAL」など
❹ケトチフェンフマル酸塩
:(点鼻薬)「ザジテンAL鼻炎カプセル」など
:(点眼薬)「ザジテンAL点眼薬」など
❺ロラタジン:「クラリチンEX」など


3.ケミカルメディエーター遊離抑制薬 ~予防に特化した外用薬~
抗ヒスタミン薬のような即効性はありませんが、流行期入り前から使用することで、症状を予防する効果が期待できます。点鼻薬・点眼薬用です。

≪代表的な市販薬≫
❶クロモグリク酸ナトリウム
:(点鼻薬)「AGノーズアレルカットC」など
:(点眼薬)「マイティアアイテクトアルビタットN」など
❷ペミロラストカリウム:(点眼薬)「ノアールPガード点眼液」など


4.血管収縮薬 ~鼻づまり・充血対策に~
点鼻薬や点眼薬として用いられる成分です。鼻や目の毛細血管を収縮させて、鼻づまりの緩和・解消、目のうっ血・充血を抑えます。ナファゾリン塩酸塩は短期的な効果は優れていますが、長期間使用するとリバウンドが起こることが知られており、注意が必要です。

≪代表的な市販薬≫
❶ナファゾリン塩酸塩
:(点鼻薬)「ナザールαAR」など
:(点眼薬)「ノアールNアルファ」など
❷テトラヒドロゾリン塩酸塩
:(点鼻薬)「コールタイジン点鼻液a」など
:(点眼薬)「アルガードクールEX」など


5.副腎皮質ステロイド ~「ここぞ」の時の切り札~
アレルギーや炎症を強力に抑える成分ですが、副作用も多く短期間の使用が原則です。内服薬も存在しますが、病院でしか手に入りません。市販されているのは点鼻薬・点眼薬のみです。

≪代表的な市販薬≫
❶ベクロメタゾンプロピオン酸エステル
:(点鼻薬)「ナザールαAR」など
:(点眼薬)「ロートデジアイ」など
❷プレドニゾロン
:(点鼻薬)「コールタイジン点鼻液a」など
:(点眼薬)「スマイル40プレミアム」など
❸フルチカゾンプロピオン酸エステル
:(点鼻薬)「フルナーゼ点鼻薬」🆕


妊婦の場合、原則として花粉症治療薬は避けるべきと考えられています。妊娠2~4月までは催奇形性が懸念されますし、それ以降でも薬は胎盤を通過して胎児に影響を与える恐れがあるからです。どんなに辛くても市販薬で対応することは避け、治療法について必ず医師と相談しましょう。

アレルゲン免疫療法
原因となっている抗原エキスを注射(皮下免疫療法)や舌下(舌下免疫療法)から体に入れて慣らす方法です。2~3年の治療が必要ですが、約70%が根治します。症状が強く通院が可能な方に向いています。

手術療法
鼻づまりの強い人に対して鼻の粘膜(下鼻甲介)を切除して小さくする手術をします。最近ではレーザーを用いた外来手術も普及してきました。粘膜を焼くことで反応が弱くなり、くしゃみ・鼻水にも効果が期待できます。再発も見られますが、鼻水を分泌する腺を刺激する神経を切って、鼻水を止める手術もできるようになりました。


【コラム】重症花粉症に朗報~新しい選択肢・ゾレア~
ゾレアは、花粉のIgEと結合しIgEとマスト細胞の結合を邪魔することで、アレルギー反応を抑える注射薬です。これまでは気管支喘息や特発性の慢性蕁麻疹の治療に用いられていましたが、2019年12月に季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)にも保険適応が認められ、既存の治療では効果不十分だった重症花粉症治療の新たな選択肢として注目されています。

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※ゾレア公式サイト(ノバルティスファーマ)はこちら


【コラム】「花粉症薬の保険適用外」提言に関する論争
昨年、健保連がまとめた「花粉症治療薬を全額自己負担にすべき」との提言に対し、「働き盛りを狙い撃ち」だと世間の批判を浴びました。この提言が出された背景には医療財政への危機感がありますが、あながち無茶とも言い切れない部分もあります。それは保険適用外の対象が「市販薬と効能が同じ薬」に限られている点です。ここまで述べてきた通り、病院でなら市販薬よりも有効性・安全性を上回る新薬が処方してもらえます。なのに、「市販薬より安いから」という理由だけでわざわざ古い薬を病院で出してもらうのってどうなのでしょうか?もちろん新薬がベストとは限りませんが、薬剤師の意見としては、病院は患者さんにとって最適な薬を選ぶ場なのであって、薬を安く買う所ではないことを強調しておきたいです。

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花粉症対策のウソ・ホント

花粉症は患者人口が多く、日常生活にも密接に関わるため、膨大な情報が錯綜しています。ただ、その中には信頼度の低いものも含まれており、何でも鵜呑みにすべきではありません。最後に情報を整理しておきましょう。

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お茶・アロマテラピー・ヨーグルトが効く?
答えはNo。基本的に既に発症した花粉症の症状を抑える効果は期待できず、根拠が曖昧なものも多く存在しています。もし、これらを試してみるにしても、薬でしっかりと治療することが大前提です。

※この手の話題(~が効く)は毎年事欠きません。どうやら今年のトレンドは「酢酸菌」のようですね。4週間の摂取で鼻づまりの不快感や鼻かき回数を減少させたとする報告が出たからです(ただn数が少ないけど・・・)。効果は乳酸菌の10倍とも。興味のある方はこちらからどうぞ。

症状が出てから治療すれば良い?
答えはNo。毎年、花粉症で辛い思いをしている方は、症状が出る前や軽いうちから治療を開始する「初期療法」をお勧めします。具体的には、花粉が飛び始める2週間位前から第2世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬などの内服薬を服用を開始します。先制攻撃をしておくことで、症状が出る時期を遅らせ、花粉が飛ぶ最盛期の症状を軽くする効果が期待できます。

花粉症で医療機関にかかるのは大げさ?
答えはNo。薬局やドラッグストアで市販されている薬は、古いタイプ(第1世代)の抗ヒスタミン薬を中心とした配合薬が主流です。一方、医療機関では、まだ市販されていない新しいタイプ(第2世代)の抗ヒスタミン薬を処方してもらえます。花粉症の症状は人それぞれ異なりますので、まずはアレルギー専門医に相談してみてください。あなたに合った治療法がきっと見つかる筈です。免疫療法など病院でしかできない治療法もあります。

注射1本で花粉症が治る?
答えはNo。以前、デポステロイド(長時間持続的に作用するように工夫されたステロイド注射薬で、1回の筋注で2~4週間の持続効果が期待できる)が「1回の注射で花粉症のシーズンが楽に過ごせる」と話題になったことがありますが、全身性副作用や注射部位の萎縮・硬結が起こる可能性等の問題から、現在ではアレルギー専門の施設ではほとんど行われていません。また、折角注射しても鼻閉には効果が高い半面、くしゃみや鼻水を抑える効果はさほど期待できません。花粉症が治る訳ではありません。

雨やくもりの日は花粉飛散が少ない?
答えはNo。確かに雨の日は花粉の飛散が少ないと思われます。しかし、雨の日の翌日は、雨で落ちた花粉が乾いて再び飛散するので飛散する量はかえって多くなります。くもりの日も風が強い日などは注意しましょう。花粉シーズンには、花粉週間予報をチェックしてからお出掛けください。

子どもは花粉症にならない?
答えはNo。乳幼児(0~4歳)の頃には稀な花粉症も、学童期に入ると有病率は急激に増えていき、10〜19歳では大人の有病率と変わらなくなります。子どもの場合、くしゃみより鼻づまりが主な症状とされ、鼻水の形状も大人がサラサラなのに対し、子どもは少し粘っこいのが特徴です。子どもは花粉症の知識がありません。「鼻をピクピク」「口をモグモグ」「目をゴシゴシ」などが花粉症の合図となるので、気を付けてあげてください。

睡眠不足・ストレスは花粉症の敵?
答えはYes。睡眠不足やストレスは免疫やホルモンのバランスを崩しやすく、花粉症を悪化させる原因となります。規則正しい生活リズム、寝室の花粉除去や寝る前の入浴、自分に合った寝具選びなど、環境作りも大切です。また、日頃から趣味やスポーツでストレスを発散するよう心掛けましょう。

飲酒・喫煙は花粉症の敵? 
答えはYes。お酒は血管を拡張させ、鼻閉や目の充血などが起こりやすくなります。タバコの煙も鼻の粘膜を直接刺激し、鼻閉を悪化させる原因になります。受動喫煙や排気ガスも刺激の原因になりますので、空気清浄機を使って部屋の空気をキレイにしたり、外出時はマスク着用するようにしましょう。

※参考:「花粉症ナビ」(協和キリン)


まとめ動画を作ってみました。おさらい用にどうぞ。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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