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鈴鹿タイトル決定マジック「15」に。手が付けられないフェルスタッペン——ベルギーGP

フェルスタッペンが15番スタートからの14台抜きで圧勝した。予選の圧倒的速さ——それも、Q1からQ3でソフトタイヤ2セットしか使わないうえでの0.6秒のタイム差——、という時点で予想されたことではあるが、パワーユニット交換によるグリッドペナルティーは彼にはなんのハンディにもならなかった。

タイトル決定は時間の問題に

フェルスタッペンはルクレールへのポイント差を98点に伸ばし、日本GP終了時点で王座が決まる『鈴鹿タイトル決定マジック』は15点に減った(※日本GP以降のポイント数「(25+1)×4+8=112」をすべてカバーする113点から、現在のポイント差を引き算して計算)。そもそもルクレールはペレスに抜かれてランキング3位に落ち、レッドブル勢の1-2になってしまった。このままではシンガポールでタイトル争いから脱落しても不思議ではない。

※ここでの『鈴鹿マジック』は日本GPでのタイトル決定のために積み増しが必要なポイント差、として定義しました。ランキング2位のペレスに対する鈴鹿マジックは「20」ですが、チームメイトと比較する意義が薄く、本稿は対ルクレールの「15」を重視しました。

フェラーリは予選のルクレールへのタイヤ装着ミス(※チーム側はミスを否定)に始まる数々の「やらかし」で、ダメージリミテーションのレースすらできなかった。レース最終盤にファステストラップ狙いでルクレールにタイヤ交換をさせたが、一時的にアロンソの先行を許したばかりか、ピットレーンのスピード違反で5位の座も失った。彼らは後続とのタイム差をどう読んでいたのだろう?

「95年型タイトル争い」の様相か?

ベルギーでの下位グリッドからの優勝としては、1995年のシューマッハによる16番グリッドからの優勝を思い出す。私は今年のベルギーGPの結果により、シーズンのタイトル争いも「95年型」に入ったと考えている。

95年のシューマッハ

95年はこの年よりルノーエンジンに切り替えたベネトンを駆るシューマッハの出足が悪く、序盤3戦で2勝を挙げたヒルがポイント争いをリードした。しかし、シューマッハは4戦目のスペインGPの優勝で反撃ののろしを上げ、シーズン中盤のモナコ、フランス、ドイツの優勝で一時21点=2.1勝分のリードを築いた。


ヒルはシーズン前半のマシントラブルに泣いたうえ、チームも給油作戦で積極的に援護しようという考えは薄かった。ヒルはシューマッハのプレッシャーで明らかに精神をやられていたが、当時のウィリアムズに選手のメンタルケアなんて言葉は皆無で、チームオーダーもなかった。なにより、「マシンでは勝っている」という技術陣の意識がドライバーへの圧力となった。ヒルは夏休み前のハンガリーで1勝を返すものの、スピンやクラッシュの連発でタイトルの権利を失った。

(※上記ウィリアムズチームの特質については「F1チームのドライバー管理とリーダーシップ」も参照ください。私見ですが、この年のヒルのチームメイトがクルサードでなくマンセルだったら、速さは衰えてもヒルのよきメンターとなり、もう少しまともなタイトル争いになったのでは、と思っています)

参照:1995年のポイント推移グラフ

この流れ、どこかで聞いたことがないだろうか?2022シーズン序盤にリードしたルクレールがヒルに、中盤に圧倒的速さで席巻したフェルスタッペンがシューマッハにダブって見える。特に、追う側のドライバーがチームのサポートがなく孤立無援、という図式はそっくりだ(孤立無援どころか、チームが積極的に足を引っ張ってるように思える)。95年と今年の違いはタイトルを争う者同士の接触・クラッシュがないことだろうか。

この年のシューマッハはベルギーGP優勝ののち、ヒルとの接触リタイヤで勝利を逃すことはあるものの、ニュルブルクリンク、英田の連勝でタイトルを確定した。翌戦の鈴鹿で当時最多タイのシーズン9勝目を挙げている。

もっとも、「95年型」という私の見立て自体が相当甘いかもしれない。ベルギー終了時点でシューマッハとヒルのポイントは15点差=1.5勝分でしかなく、今年の98点差=3.9勝分の方がはるかに重症だからだ。

あるいは「13年型」=後半9戦全勝も?

もう1つ頭に浮かぶのは「2013年型」シーズン、という可能性だ。この年のサマーブレイク前は王者ベッテルに対してアロンソやライコネン、ハミルトンが健闘したものの、ベルギー以降のベッテルはライバルに影をも踏ませぬ9戦全勝でシーズンを席巻していった。

参照:2013年のポイント推移グラフ

今のフェルスタッペンの充実具合いを見ると、サーキットによるマシンの相性はあるものの、残りのシーズンを全勝しかねない恐ろしさを感じる。その場合、ベルギーまでの9勝+残りレースの8勝で、史上空前のシーズン17勝(!)となる。それは無理でも、04年シューマッハの年間13勝の最多記録は射程圏内に入ってきた。

14年から20年までメルセデスの圧倒的強さが目立ったが、まさか22年にレッドブルがここまで強くなるとは思いもしなかった。本レースはHRC(ホンダ・レーシング)の吉野氏が表彰台に登壇したが、『ホンダ』としては撤退したいま、ファンが「ホンダはこれだけ強いんだ」と強く叫べない現状は本当にもどかしい。ホンダの首脳はどういう判断で撤退したのだろう?

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