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チャーハンで大炎上!毛沢東の息子とチャーハンの故事

◆チャーハンで燃えチャイナ!炎上したチャーハン動画

11月下旬、中国ではこんな話題がトレンドになっていた。

中国で人気がある料理系インフルエンサー王剛氏が、「今日の料理」とばかりに蛋炒飯(チャーハン)を作っただけで大炎上。後日文革顔負けの謝罪動画をアップしたというものだった。


元動画より

ここで私が驚いたことは、王氏が動画内で「対不起」を3回も繰り返したことである。
「対不起(トゥイプチー)」は日本語では「ごめんなさい」「申し訳ない」などのニュアンスである。中国独特のメンツの問題もあり、中国人は「対不起」をよほどのことがない限り使わない。
私も、中国に10年近く住んでいて5回しか聞いたことがない。「対不起」との遭遇があまりに少なすぎて、数と場面を覚えているほど。
最近は、それより軽いニュアンスの「不好意思」が広東語から伝わり、こちらは気軽に使えるとのことで多用されているが、「対不起」はそれだけニュアンスが重い。

それだけに、王剛氏が動画で繰り返し「対不起」と頭を下げているのは、かなり異様に感じるのである。炎上具合がよほどのことだったのだろう。

元動画でも触れているように、王剛氏の動画は余計なトークも派手な演出もなく、淡々と料理を作りレシピを公開しておいしく作るコツを語るだけの動画。
それだけに人気があったのだが、なぜたかがチャーハンを作っただけで、私が通算で5回しか聞いたことがない「対不起」を3回も繰り返すほどの謝罪に追い込まれたのであろうか。

◆毛岸英とチャーハン


毛岸英(1922-1950)


毛岸英とは、かの毛沢東の長男である。言われてみると、若い頃の毛沢東に似ている。
外国語が話せないコンプレックスを持っていた父とは逆に、岸英はロシア語に堪能で中国共産党のロシア語通訳兼ロシア通として有能だったそうである。

毛沢東のボンボンということでかわいがられた岸英は1950年11月25日、朝鮮戦争に従軍中に米軍の攻撃に遭い戦死した。

朝鮮戦争での名誉の戦死により、彼は「中華人民共和国の英雄」とされている。

これだけなら名誉の戦死なのだが、その亡くなり方が今回の「チャーハン騒動」の根っこなのである。


中国の軍人彭徳懐
彭徳懐(1898-1974)

岸英は彭徳懐の通訳として従軍していた。
彭徳懐は紅軍を率いて数々の戦いに参加した将軍で、毛沢東から功労高しと賞された懐刀の一人。岸英を彼の元につけたのも、信頼できる将軍の下に置けば安心ということもあっただろうと推測できる。

ある日、北朝鮮軍から支給物資が届いた。その中には卵があり、当時の補給物資の中ではかなり貴重なものだった。

「そうだ、これでチャーハンを作ろうじゃないか!」

露営地で彼はチャーハンを作り出した。
チャーハン、というか中華料理を作るにはそれなりの火力が必要である。外でそれを作るとなると、調理に煙があがる。空中にもうもうとあがる煙…それにより米軍戦闘機の絶好の目標となってしまい、そこ目がけてミサイルを発射、直撃を受けて死んだと。

これは1990年代に発行された彭徳懐の伝記など、いくつかの本に書かれていた内容であり、そこからこの話がじわじわと人民の間に拡がったようである。
もちろん、この話が本当かどうかは現在では確認しようがない。本当に検証したければ、攻撃したアメリカ側にも作戦資料が残っているはずであり(🇺🇸はこういう報告を意外なくらいこまめに記録している)、それとクロスチェックを行わないと真実とはとても言えない。

が、噂好きの人民にとっては、そんなことはどうでも良い。

特に習近平政権になってからの言論締め付け、そしてゼロコロナからの経済大減速などにより、人民の間では芥川龍之介の言葉を借りれば「ぼんやりとした不安」が社会を覆っている。

そんな中での人民のガス抜きも数多いが、その中で「チャーハン」もガス抜きのターゲットにされた。
毛岸英の誕生日の10月24日と命日である11月25日に、チャーハンを作る動画をアップしたりチャーハンの画像をアップすることが多くなった。

それが共産党に愛国精神をたっぷり注入された「強国人間」(中国語:小粉紅。言わば中国のネトウヨ)には、非常に気に食わない。

「英雄を愚弄するとはどういうことだ💢💢💢」

そのターゲットに王剛が、おそらくたまたまだろうが、岸英の命日の数日後にチャーハンを作ってしまった。早速「愛国者」たちが食らいついた。

以前、ブログの方で「辱華」という話をしたが、中国人が中国人が「辱華」した非国民だといきり立ったのだろう。
(「辱華」については、巻末にリンクを貼ったのでこちらもどうぞ)

そこにプラス、日頃のフラストレーションが溜まっている人民たちの攻撃の餌食となってしまった。これが本件の顛末である。

中国当局は言論弾圧する国。この騒ぎを「愛国分子」のこうした言論を、その気があれば瞬殺で封殺し、「なかったこと」にできるはず。

しかし、それをやらないということは「叩き」を認めていると言うこと。

現在の中国では、社会不安や経済不況によりフラストレーションという名のメタンガスが溜まっている。よって、何かにつけ火がつきやすい。

当局も不満の矛先を政府や共産党へ向かわせないように、こうして他人を叩き、不満を脇にそらししている。本件はその絶好のターゲットなのだろう。どうせ「ニラ」など、吐いて捨てるほどいる。ニラの1本や2本なくなっても体制に支障は無い。

中国では「愛国主義」の名のもとに、「祖国の英雄」に対する侮辱はかなり厳しく処分されている。2018年には関連する法律もできて中傷する、いや、したと見なされると禁固刑や多額の罰金が課せられるようになった。
打ちどころが悪ければ、自作チャーハンの画像をSNSにアップしただけでも「不敬罪」で捕まる可能性すらある。

これは在中国外国人とて例外ではないので、在中邦人は冗談でも控えるようにしよう。

そして、社会不安が増すほど「ショーヴィニスト(狂信的かつ排他的愛国主義)」が増え、国家がそれを増殖させている現代中国。
毛岸英のチャーハン戦死から始まったこの流れがさらに先鋭化すると、ネットからチャーハンが消え、チャーハンを食べただけで「非愛国主義者」として糾弾され、中国からチャーハンが消えた…という喜劇が起こりかねない。そして、中国から「チャーハン亡命者が生まれるかもしれない。

●日本メディアが報道しない不思議

本件は中国ですごい騒ぎになった割には、日本では全く知られていない。
しかも、韓国のメディアやアメリカのメディアではけっこう報道されている。しかも日本語で。

しかし、日本のメディアはだんまり。不気味なほど静かなのである。総沈黙といってよい。どおりで、日本人の間で知られていないはずだ。

チャーハンと言うワードも直に中国ネットのNGワードに指定され、チャーハンが中国から消えてしまっ日も近い!?

そして、チャーハンがなくなった中国で、チャーハンが食べられない人民の不満が募り、ついにパンをよこせならぬ

「チャーハン食わせろ!」

というデマが起こる。当局が弾圧するがそこから火種が全国各地へ拡大し、「チャーハン革命」
なんてものが起こったりして。

どちらにしても、これは中国人同士の内ゲバである。
中国人はなにかにつけ、特に台湾に対して

「中国人不打中国人」
(中国人は中国人を殴らない)

と台湾に気持ち悪いラブコールを送っているが、それがいかに口だけの嘘八百だということがわかるだろう。「中国人打中国人」をやっておいて、よくこんな口が叩けたものだ…しかし、それに対するなんの羞恥心もない。それが中国人のメンタルである。

何にしても、我々は対岸で、中国人同士の殴り合いを高見の見物と行こうではないか。


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