見出し画像

【鑑賞レポート】第15回光州ビエンナーレ2024「パンソリ:21世紀のサウンドスケープ」 ~ニコラ・ブリオーの最新キュレーション~

■『関係性の美学』、『ラディカント』と、最近続けてその著作が邦訳されたニコラ・ブリオーがアーティスティック・ディレクターを務める「光州ビエンナーレ」。その鑑賞レポートをお届けします。(会期:2024年9月7日~12月1日)
 ブリオーが掲げたキーワードは「パンソリ」。韓国の伝統的な庶民芸能で、歌、台詞、身振りを交えながら物語る音楽劇です。展示会場では環境破壊など社会問題をモチーフとした作品がサウンドスケープのように展開されており、それをブリオーはステイトメントで「歩いて入れるオペラ」と表現しています。『関係性の美学』が「観賞者との関係」を、『ラディカント』が「文化のクレオール化」を切り口とする美術評論だとすれば、今回のブリオーの関心は「人間以外を含む全てのアクター(Bruno Latour)との関係」にも広がっているのだといえます。
 ブリオーは2018年1月に来日し、藝大でのレクチャーを拝聴しましたが、「関係性の美学」のイメージとの違いに大いに驚いたものです【注】。
 今回の光州ビエンナーレはブリオーの最近の関心の変遷をフォローするのに、格好の展覧会かもしれません。

国別パビリオンが入いっている国立アジアン・カルチャーセンター(ACC)の外観。
右端の国別パビリオンの幟です。
国立アジアン・カルチャーセンター(ACC)付近のシャトルバス停

■会場は大きくふたつの地区に分かれています。ひとつはメイン会場のビエンナーレ館の地区。もうひとつの地区では国立アジアン・カルチャーセンター(ACC)などを中心に国別パビリオンが展開されています。なお、この間のアクセスは1日7便のシャトルバスも運行されています(25分)。
 なお、ブリオーは主にメイン会場のビエンナーレ館をキュレーションし、国別パビリオンはそれぞれの個別のキュレーターに任されています。この構成は、ヴェネチア・ビエンナーレと似ています。ちなみに、今回初参加の日本パビリオンの「私たちは(まだ)記憶すべきことがある」は山本浩貴がキュレーターを務めています。

日本館の作家のひとり、内海昭子《The sounds ringing here now will echo sometime,somewher》於:Gallry LAAM

■メイン会場のビエンナーレ館は5つの章だてになっていますが、その中からあまり日本語情報になっていない作品を中心にいくつか紹介します。
 とはいえ、まずは圧巻の作品は、Max Hooper Schneider(1982年米国ロスアンゼルス生まれ・拠点)の《LYSIS FIELD》でしょう。都市のゴミを使ったビオトープのようにも見えます。実際には臭いませんでしたが、溶けて噴出する液体が色彩からしても毒々しさが鼻を突かんばかりです。音だけでなくニオイも今回の「オペラ」は取り込んでいるともいえるでしょう。

Max Hooper Schneider《LYSIS FIELD》2024

■ Wendimagegn Beleteは、1986年エチオピア生まれ、ノルウェーのオスロも拠点としています。《Unveil》(2017)は、エチオピアの3,000人以上の匿名の愛国者の肖像です。1935-41年の反植民地運動におけるその多くは忘れ去られてしまっていますが、それがたくさん集まることによって大きなうねりを感じます。

■ Noel W. Andersonは1981年米国生まれ、ニューヨーク拠点。大きなタペストリー(Gallery2)と映像(Gallery1)。タペストリーの画像はジェームズ・ブラウンの映画からインスピレーションを得ているといいます。

【光州ビエンナーレを見る時のポイント】
■全体の地図はビエンナーレ館の受付でもらえます。ガイドブックは館外のショップで10,000ウォンで買えますが、英語とハングルの文字情報と館内作品配置図だけです。なお、作家の過去作画像とブリオーらの詳しいテキストが入っているカタログは49,000ウォン。私は両方買いましたが帰国してGoogle翻訳で復習するならガイドブックだけで十分かもしれません。なお、国別パビリオンの方のカタログは別にありましたが、これは買いませんでした(確か30,000ウォン)。
 とにかく、動画をどんどん撮った方がいいです。特に今回は音も重要な作品要素になっていますので、日本の国際美術展のような遠慮はいらないと思います。

【参考:光州ビエンナーレへのロジスティックス】
■日本から光州への安価な直行便は少ないようなので、いったんソウルに飛び、高速バスや新幹線(KTX)で光州に入るのがいいかもしれません。
 この時期、釜山ビエンナーレもやっています(会期:2024.8.17-10.20)。ソウルでも、景福宮近くの国立近現代美術館(MMCA)やリウム・サムソン美術館、ソウル市立美術館なども現代アートの展覧会をたくさんやっています。それらもついでに見てまわるのもいいかもしれません。

【参考:日本語で読める今回の光州ビエンナーレの記事】

【注:2018年1月、ニコラ・ブリオー来日時の記録】

【参考:ソウルの現代アート施設】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?